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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
7:からまる紐帯

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316/422

316:消えた娘

「……もしかして、その子……いや、この村の人間もだけど」

 俺の疑問に、ミルリルも頷く。おかしい。そんなに敏感で正確な嗅覚を持っている白雪狼(スノーウルフ)なら、臭跡を辿れるはずなのだ。

 もし(・・)彼らが(・・・)連れ去られた(・・・・・・)のだとしたら(・・・・・・)

「村の人間は、魔導師による転移か召喚ではないかの」

 サルズの魔女エクラさんも西領から首都へ住人の転移を行なっていた。何千人という無茶な規模で魔力枯渇を起こしていたが、この集落の住人くらいなら一般的な魔導師でも不可能ではないのだろう。

「問題は、その目的じゃの。それがどの程度(・・・・)胸糞悪い話か」

 胸糞悪いのは確定なのね。まあ、いままで見せられたものを考えれば、そうなる。

「おぬしの名は」

 ミルリルが尋ねると、白雪狼(スノーウルフ)は神妙な顔で見つめてくる。

「ワゥ」

「ワウ? そのままじゃの」

 あら。キッチリ会話してたように思えたけど、そこは真名を読み取れたりせんのですか。

「悪くない名じゃ。獣人もそうじゃがの、口吻の長い構造では複雑な音階を操るようにはできておらんし、肉体を頼りに生きる種族は長い名前に興味を持たん。ワウは、ワウじゃ」

「ウゥ、ワウ」

「ほう?」

 ワウの訴えに、ミルリルは首を傾げて笑う。

「その服の持ち主は、ノニャというそうじゃ。有翼族の娘で、年の頃は十やそこらかの」

「有翼族ってことは、飛べる?」

「いいや。村長の奴隷で、例の首輪を着けられているようじゃ」

 やっぱり、どのみち胸糞悪い話にしかならんのだな。

「ウゥ、ワゥ?」

「うむ。構わんぞ。どうせ皇都までは行くんじゃ、道中は付き合ってやろう」

 白雪狼(スノーウルフ)のワウは、その獣人の子ノニャを見つけるまで俺たちと一緒に来るつもりのようだ。戦闘になったら車両の後ろに隠れるように伝える。銃弾が飛ぶので、間違っても前や横には出るなと厳命する。

 キャスパーが乗り物だということは理解しているようだが、珍しいのか窓から覗き込んでペタリと鼻をつける。

「「「ひゃああぁッ!」」」

「これ、よさんか」

 なかにいた収容者の獣人たちが、白雪狼(スノーウルフ)を見慣れないのか怯えて悲鳴を上げる。

「ワゥウ」

「それはそうじゃ。わらわも実際に白雪狼(スノーウルフ)を見たのなぞ、おぬしの前に知り合うた幼子が初めてじゃ」

 なんとなくそうじゃないかとは思ってたけど、モフやらワウって、なかなかレアキャラなのね。

「皇都までは、どのくらいかな」

「この辺りの地図は覚えておらんので正確にはわからんが、百(ミレ)やそこらであろう」

 ミルリルがボンネットに指で図を描く。たぶんケースマイアンと皇都、サルズと西領府ケイオールと首都ハーグワイ、現在位置。空測地図で把握している都市の位置と距離、これまでの移動経路から出した概算だ。すごいな、空間認識能力とか数学的な素養があるとできるもんなのかな。俺には無理だ。

 ワウに合図を送って、俺たちはキャスパーを街道に戻す。自動車の速度についてこれるかしばらく試したものの、こちらが雪道を走る程度のペースであれば苦もなく追随してくることがわかった。たぶん、全力疾走ならワウの方が速い。小一時間は走ってみたが、ワウは疲れた様子もなく嬉しそうに並走してくる。

 ワウにチラリと目をやって、ミルリルは小さく息を吐く。

「ノニャという娘は、無事でおってほしいのう。ワウが悲しむ姿は見たくないのじゃ」

「そうね」

 あと子供が不幸になるのも、できれば見たくない。どこの国の、どんな人種であってもな。ミルリルもそれはわかってるので、残念そうな顔で俺を見た。

「おそらくじゃがの、あの村の住人は生きておらん」

「王都で俺たちが召喚されたのと同じ、生贄か」

「うむ。そうでもなければ、こんな僻地の人間を丸ごと連れ出したりはするまい」

 有翼族の娘を奴隷にするような村の長には同情する気もないけど、村人には恨みも面識もないのでリアクションに困る。それより気になるのは、そいつらを糧にして何を召喚したかだ。

「もしかして、また勇者でも呼び出した?」

「あり得んでもないのが鬱陶しいのう。しかし、あの皇帝(ジジイ)数多(あまた)の勇者やら賢者やら聖女やらが魔王の餌食になっておるのは理解しておるはずじゃ。ええ加減、手を変えてくる程度の知能は残っておるかもしれんぞ?」

「ああ、うん。でも、わし聖女は餌食にしてませんよ? そこ誤解される表現は、どうかと思うんですよミルリルさん」

「操り人形の糸を切られて敵方に寝返らされたとなれば、似たようなもんであろう」

 そりゃ、向こうからしたらね。

「しかし、あの皇帝(ジジイ)は手を変えるたびに策が愚かで無益で醜悪になっていきよるからのう……」

 ミルリルが、周囲を警戒し始めた。武器に手を掛けてはいないので、敵が現れたという感じではない。

 空が暗くなってきたのは、俺にもわかっていた。森の木陰を揺らす風も強くなっている。粉雪が巻き上げられて、視界も悪くなってきた。

「少し荒れそうだな。これ以上、吹雪が激しくなるなら、どこかで止まった方が良いかもしれん。もし崖にでもぶつかったら……」

 前に目をやったミルリルが手を上げ、俺の発言を止める。

「待てヨシュア、ワウが……何か見つけたようじゃ」

 振り返ってひと声鳴くと、霞み始めた地平線に向かって、白雪狼(スノーウルフ)の巨体があっという間に駆け去って消えた。

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