31:右腕狩り
エルフの娘はミーニャといい、人間に滅ぼされた北方エルフの末裔なのだとか。ミルカと面識はないらしいが、境遇は同じようなものか。面倒な予感はするが、見捨てるわけにもいかない。素早い動きで敵を翻弄する戦い方が上手い。もともとリーチが短い彼女の主武装として、ソウドオフショットガンは相性が良かったらしい。俺もイサカというポンプアクションの軽いショットガンとショットシェルを追加注文した。
50発ほどを彼女に渡して様子を見ることにしよう。
……と思っていた時期が私にもありました。
それをきっかけに、俺の任務は大きく変わってしまったのだが。
「もう“単なる収奪”では終わらせられんぞ。それだけでは、気が済まないのじゃ!」
「……そう。ただで済ませるわけには、いかない。逃がさないし、許さないし、ぜったい、楽には死なせない……」
「くふふふッ、いいじゃねえか。……血が騒ぐぜ?」
俺はドワーフ娘ミルリルと虎娘ヤダルとエルフの娘ミーニャを抱えて空飛ぶタクシー役にされている。
拒否権はない、というか3人の屈強なガールズから血走った目で睨まれて拒絶できるものがいたら教えて欲しい。ちなみに、俺は素手ではもちろん銃器を持っても彼女たちに対抗できる気がしない。
うん、元社畜だけあって長いものには巻かれちゃう。クルンクルン巻かれちゃう。
今夜も開戦直前で殺気立った敵陣を縫い、俺と3人のガールズは敵を血祭りに上げてゆく。
目の前には、右手を吹き飛ばされた王国軍兵士たちが呻き声を上げてのた打ち回っている。彼らの正面に立つのは、既に歴戦の古強者といった空気を身に纏ったミーニャ。ミルリルとヤダルは距離を開けて、静かに周囲を警戒している。
俺は傍観者としてひたすら気配を消し空気のようにミーニャの隣で控えているだけだ。
「これで右手は使い物にならなくなったな。故郷に帰って、静かに暮らせ」
「ふ、ふざけるな貴様ら、覚えておけ……」
「覚えておくのは、お前たちの方だ。いま撤退しなければ、我々はまた来る。そのときは、残った方の手も使い物にならなくなるぞ」
男は口を噤み、ぽたぽたと血が垂れる右腕を抱え込んだ。その顔から見るみる血の気が引いてゆくのがわかった。右腕を使えなくなった人間に出来ることなど少ない。まして、両腕を潰された人間など。
「それでも生きていたら、今度は右の膝だ」
それが限界だった。男は悲鳴を上げて野営地から駆け出し、夜の闇のなかをどこかへ逃げ去って行った。周囲の兵士たちもひとりずつ、もがきながら起き上り男の後を追う。
「……これは、案外いけるか」
正直、戦争とはいえ殺人を行うには生々しすぎる距離なのだ。この方法であれば、殺すより多くの被害と恐怖を敵に与えることが出来る。
サイモンから調達したショットシェルは追加注文分も合わせて700発とちょっと。どのみち射程が短かすぎてこの戦争そのものには使い物にならない武器だ。俺たちはソウドオフショットガンを持ったミーニャを主戦力に転移で敵陣へと潜入、指揮官や高位魔導師と思われる連中を中心に、右腕を次々と吹き飛ばして回った。その数、実に200人を超える。
行きがけの駄賃とばかりに武器やら物資やら金目のものやらをゴッソリと収納。後方攪乱というにはあまりにも大きい被害――そして貧乏な寡兵の俺たちには過ぎたる補給、を達成した。
左手使い。
王国ではその後、“亜人の魔導師に利き手を潰された敗者”という意味で広く忌み嫌われることとなる。
……うん。すまん、もともと左利きの人。




