252(閑話):福音のえーまんでーむず
カットするはずだった調整回。ちょっとストックないのでインサートします。
おうじは、いっちゃった。
フェルと、エアルと、まおーへいかと、おくさんと、いっしょに。パーッて、ひかりのなかに、きえた。
かならず、かえってくるって、やくそく、したけど。フェルも、エアルも、みんなで、もどるって、いってたけど。
でもホントは、そうじゃないって、わかった。だれも、テニアンの、めを、みないから。
だから、ホントは、しんじゃうかもって。かえって、こないかもって、わかった。
いかないでって、いったら。ここにいてって、ないたら、のこって、くれたのかな。
でも、それは、わがまま。
「テニアンは、お姉さんだから、ここにいて、皆を守ってくれないか」
おうじに、いわれたから。
だから、ここにいる。みんなを、まもる。
「力のない王子で、すまない。でも、テニアンにしか頼めない」
「……はい、おうじ。テニアンは、みんなを、まもります」
あたまを、なでる、おうじの、ては、ふるえてて。
おうじも、こわいんだって、わかったから。
だから、わがままは、いわない。
おねえさん、だから。
「わふ?」
モフは、だいじょぶだって、てを、なめる。ぜったい、だいじょぶだって、はなで、つつく。
モフは、すごい。なんでも、わかる。なんでも、できる。だから、モフが、だいじょぶだって、いうなら……
「だいじょぶ、だよね?」
「わふ」
なんかいも、なんかいも、テニアンは、モフに、きいて。なんかいも、なんかいも、モフは、だいじょぶって、こたえる。
ちいさい、みんなが、ないてる。だから、テニアンは、わらう。おねえさん、だから。
「だいじょぶだよ、みんな。おうじたちが、もどるまで、ちょっとだけ、がまんね!」
テニアンは、ごはんを、つくる。
まおーへいかが、くれた、いろんな、ごはん。
あったかく、したら、すごく、おいしい。
しんぼくに、まりょくを、ささげて、みずを、もらう。おなべに、みずを、いれて、ひに、かける。
「みんな、ごはん、たべようね」
おなか、へってると、よくない。あったかく、しないと、よくない。みず、のまないと、よくない。ねむらないと、よくない。
よくないと、しぬ。
テニアンも、しぬ、はずだった。おなか、へって、のど、かわいて。さむくて、ねむれなくて。
しんだ、みんなを、やいた、けむり。けむいし、くさい。テニアンも、あんな、くさい、なにかに、なるんだ。
そう、おもってた。
「さあ、口を開けよ。これを食うのじゃ。すぐ飯ができるでのう。ほれ、水もある。起きられるか? ちょっと待っておれ、毛布を持ってくる」
たすけてくれたのは、まおー。
まおーと、まおーの、おくさん。
テニアンの、おとーさんと、おかーさんと、おねーちゃんと、おにーちゃんと、おじーちゃんを、ころしたのも、まおー。
いい、まおーと、わるい、まおーが、いるの?
テニアンには、わからない。
でも、まおーが、くれた。あまい、あまい、きれいな、たま。
あかくて、あおくて、きいろくて、いろんないろの、きれいな、たま。
それは、くちで、とけて。からだに、ちからが、わいてきた。あまくて、ちょっと、にがくて。
きっと、そらに、いった、おかーさん、たちが、くれたんだって、おもった。
「死んだ者たちは天に昇る。天空の楽園には、痛みも苦しみもない。寒さも暑さも、飢えも争いもない。熟れた芳醇な果実と、甘く清んだ純露を口にして、幸せに笑いながら永遠に楽しく暮らす」
しさいさまの、ことば、テニアンには、よく、わからないけど。
しんだら、あまい、おいしいものが、たべられるんだって、テニアンは、しってた。
「……あまい」
「そうじゃろう。それは甘いし、すぐに力が出るのじゃ。おぬしらも、すぐ元気になるぞ」
まおーの、おくさん。わらって、ないてる。テニアン、しぬの?
でも、あまくて、からだが、あったかくなって。おなべの、いい、においで、おなかが、すいて。
「しぬの、いや」
「ああ、おぬしらは死なん。わらわたちが、絶対に死なせん。だからのう、手を貸してくれんか。必ず、生きてて良かったと思わせてやる。だから、もう少しだけ、生きたいと思って欲しいのじゃ。頼む」
おくさん。あたまを、さげた。テニアン、まぞく、なのに。ころしても、いい、“れっとーしゅ”、なのに。
「ほれ、もう少し食え。水も飲むのじゃ。飯は、もうすぐできる。毛布を被って待っておれ。眠るのは後にせい、良いな?」
あまい、たま。いっぱい、くれた。
「これ、なに?」
「ああ……なんといったかのう。なんぞ呪文のような名前だったが……」
おくさん、こまって、テニアンに、わらう。
「そうじゃ、“えーまんでーむず”じゃ」
むずかしい、なまえ。
でも、おぼえた。しぬはずの、テニアンを、たすけてくれた、あじ。
「……えーまん、でーむず」
いきてて、いいんだって、おしえてくれた。まおーへーかと、おくさんと、えーまんでーむず。
だから。
「みんな、ごはん、たべたら、あまいの、たべようね。ないてるこは、おあずけだよ」
テニアンは、がんばる。みんなを、まもる。




