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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
6:灼熱のソルベシア

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251/422

251:城を囲むもの

 俺は増援の盾になるようにキャスパーを出す。急に現れた巨大な乗り物――かどうかも理解できないのかもしれんが――に何だか師団やらいう連中も足を止め、ワラワラと陣形を組み始めた。

 もうカイエンホルトの周りに護衛はいない。盾にした爺さんも蜂の巣になって死んだ。実際に殺した王子たちの様子を見る限り、爺さんも巻き込まれた被害者というわけではなさそうだ。

「偽魔王。真なる魔王陛下から、格別の死を賜る」

 待って、ミルさん待って待って、まだ何も準備してないの! 

「カイエンホルト卿、ご無事ですか!」

「カイエンホルト卿!」

 うるっせえな、もう。仕留めるまでの間にも増援がジリジリと間を詰めてくる。

「……王子に代わり、貴様に鉄槌を下す」

 なんかキメ顔で適当なことをいうと、俺はRPKにとっておきの七十五連ドラムマガジンを装着する。全自動射撃(フルオート)で一気に全弾を叩き込むが、さすがに相手も魔王と称されるほどの魔導師だった。青白い魔力光が弾けて、アサルトライフルの銃弾が魔導防壁と拮抗する。

 そのまま凌ぎ切るかのように見えたものの、やがて押し切られて逸らしきれなかった銃弾がカイエンホルトの腕や足に被弾し始める。肉体を抉られて精神の集中を欠いたのか防壁が揺らいで均衡は一気に崩れた。

「ギヤァアアァ……ッ!」

 残る数十発は全てが突き刺さり、あっという間に胴体を食い千切る。下半身と半ば分断されたカイエンホルトの身体は床に転がって痙攣し始めた。

「王子、とどめを」

 王子と護衛が歩み寄って、それぞれの残弾を魔王の残骸に打ち込んだ。ピクリとも動かない肉片を一瞥すると、俺はソルベシアの三人に声を掛ける。

「脱出する、キャスパーに乗れ!」

「「「はい!」」」

 俺はキャスパーの運転席に乗り込み、後付けらしい天井の大音量クラクションを鳴らす。怯む増援を前に王子たちの搭乗を確認すると、すぐに発進して城外を目指す。

「まだ気を抜くなよ、いまのうちに追撃に備えておけ!」

「「はい!」」

「魔王陛下、このまま直進です! その先に、吹き抜けの階段があります!」

 百メートルほどの廊下には兵士の検問のようなものが設置されていたが、逃げないやつは容赦なく轢き潰した。そもそも、廊下の幅がギチギチで逃げ場がないのだが。

 しかし、階段か。車重を支えられるかな。

 見えてきた階段は案の定、広く大きいが華奢な印象を受ける石造りのものだった。傾斜を降り始めた瞬間、大理石か何かで出来た階段全体が大きく軋みを上げるのがわかった。

「これ、アカンやつや……!」

 しかし、逃げ場はない。転移で逃げるにも車外に出る必要があるのだ。俺の能力、案外使えない。最悪キャスパーごと転移するしかないが、以前の悪夢が蘇って怯む。

「なに、どうにかなるのじゃ。その先、おかしな絵のある方に向かってまっすぐじゃな。そこを進めば負荷は最小限で、大きく崩れはせん」

 ミルリルのエンジニア的な目による構造的な判断で、大きく崩れそうなところを避けて進む。

 ギシリと、大きく揺れる。なにか天井からバラバラと崩れてくる物があった。大階段そのものを支えていた支柱が折れたらしく、手摺りや彫像が傾き崩れ出す。

「うははは、前言撤回! こうなれば全速前進じゃヨシュア、突っ込め!」

 楽しそうに笑って、ミルリルさんが叫ぶ。このひと、この状況を楽しんではるでオイ。

 でも、それで冷静になれた。しっかりハンドルを握って、アクセルをいっぱいまで踏み込む。キャスパーの巨体を必死に加速させるが、崩落速度に追いつくには足りない。ゴンと地響きに似た感覚があって視界が揺れ、宙に浮いた無重力感が腹に不快感として伝わる。

「おおおぉお……!?」

 わずかに壁と引っ掛かった階段後端が重量に耐えて、キャスパーの通過を支える。地上階まで到達したとき、後ろから一気に崩落する轟音が響いた。

「危機一髪、じゃな。まあ、これで追っ手も突き放したわ」

「前向きだなミルリル⁉︎ 俺は寿命が縮んだぞ⁉︎」

「魔王陛下、前方に城の中庭、ですが」

「見えてる」

 分厚い扉を閉めて閂を掛ける文官らしい人影があった。ふだんの想定じゃ、外からの敵を遮断するための処置なんだろうけどな。

「全員、どこかにつかまれ」

 扉の両側には兵士が隠れている。閂を外すために降りていけば無駄な戦闘が発生するだろう。微速前進で扉に当たると、キャスパーの車重は無垢の木材を砕いて呆気なく吹き飛ばした。

「つかまるほどのこともなかったのう?」

「……まあ、そうね」

 問題は、この先だ。

 短い階段を下りて中庭に進む。縦横二百メートルはある広大な平地にはわずかな起伏と植生があるだけで見通しは良い。そこに、二百ほどの軽歩兵が展開している。盾持ちを前に向かってくる兵たちの後方には、攻城兵器らしきものを引き出してくるのが見えた。

「あれが、投石砲かのう」

「打ち上げられたら教えてくれ。出来るだけ避ける」

「なに、打ち上げる前に無力化すればよいのじゃ」

 ミルリルは笑って銃座に向かう。

「まず最初に潰すべきは、城壁の上にある、あれじゃな」

 中庭を囲った城壁の上には、弓兵と思われる兵士が並んでいる。そのなかに、妙な形のものが混じっていた。三角屋根に大きな棒が突き出たそれは破城槌(はじょうつい)に似ているが、城壁の上にそんなものを置くやつはいない。

「王子、あれが遠雷砲とかいうやつ……?」

 振り返って確認しようとしたところで、王子が前を指さす。

「避けて!」

 バンと轟音が鳴って、目の前が真っ白になる。まだ距離はあってこちらに被害はないが……

「おい、どうなってんだ」

 展開していた軽歩兵たちが倒れていた。落雷の中心部には焦げ跡があり、その周囲の兵たちは燻り煙を上げている。

「ぼくたちを殺せと命じられたのでしょう。……あらゆる(・・・・)犠牲を(・・・)払っても(・・・・)


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