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【完結&書籍化】スキル『市場』で異世界から繋がったのは地球のブラックマーケットでした  作者: 石和¥
5:魔王の冬休み

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195/422

195:13と7と

「図に乗るな、半獣……がぁッ⁉︎」

 パカンと、銃声が鳴って肩を撃ち抜かれた准将の手から魔道具らしきものが吹き飛ぶ。ミルリルさん、首魁の悪役演出が台無し。

「お為ごかしは、もう良かろう?」

 壁際で身構えた兵士が次々に目玉を撃ち抜かれて崩れ落ちる。弾倉交換など一拍の間もなく行われ、十三名が死んで残った兵は三名。

 撃ち尽くした拳銃は手品のようにスルリとショルダーホルスターに収められ、振り返った彼女は“さて、おぬしの番じゃ”とばかりに首を傾げる。

 無理無理、ここで俺が撃ったって跳弾があっちゃこっちゃに二次被害を撒き散らかす未来しか見えん。

「降伏しろ」

 静かに告げた俺の声に、ミルリルさんが“そこで?”と不満そうな顔をする。商人に何を期待してるんですかねこの人は。

「おのれ!」

 意外なところから上がった声に、俺は反射的に引き抜いたブローニング・ハイパワーを向ける。

 評議会理事のうち、俺たちから遠い下座にいた二名が懐から短剣を抜いて立ち上がっていた。いや、あんたらテーブルの向こう側でけっこう距離ありますけど、それで何するつもりですのん?

「……共和国を愚弄する外患ども、にひッ」

 能書きを垂れ始めた老人の胸に二発。その隣でテーブルを乗り越えようとした初老の男の胸にも二発。俺は九ミリパラベラム弾を撃ち込んで倒す。45口径よりも反動がマイルドで銃口の跳ね上がりも少なく、集弾性が高い。動く気配があった背後に銃口を向けて、逃げようと身を翻した文官の背に二発。甲高い金属音がして、礼装の下に何か着込んでいるのがわかった。さらに二発。流れた弾丸が首筋を貫いて、扉に縋ったままズルズルと崩れ落ちた。

「その装備、こいつ諜報員か」

 マッキン領主が溜息混じりにいった。射殺された評議会理事二名の死体を見て、残る七名は血の気が引いた顔で固まっている。

「おまけに、共和国内部の毒虫まで炙り出すとはな。さすがは魔王の慧眼といったところか」

 たまたまです。勝手に俺アゲてくれたんで、自分からはいわんけど。心の声が聞こえたのか、ミルリルさんが苦笑気味に頷く。

「共和国が滅びの道を歩むことは、魔王陛下も望んではおられんということじゃ。肝に銘じるが良い」

「「「……はッ」」」

 そこでお爺ちゃんたちに平伏されてもリアクションに困るんですけど。ここは当然みたいな顔で、鷹揚に頷いておく。

 生き残った皇国兵士と准将はキャスマイア衛兵隊により拘束され、マッキン領主は手紙を持ってテーブルに歩み寄る。

「皇国軍の反動勢力が共和国の叛徒と結託して内乱を企てたようですな。もはや大勢は決し、事態は収拾に向かっています。評議会理事の皆様には、キャスマイア常任理事より書状を預かっております」

「おお」

「共和国の危機に立ち上がってくれたのは、南領だけであったな。北領主は皇国との連名で評議会に宣戦布告をしてきよった」

「北領の無敵艦隊は、魔王の力の前に壊滅。領主は北の領府まで逃げ落ちたようです。東領主は艦隊を率いて我が領に攻め込みましたが、海戦で惨敗、現在はキャスマイアで入牢しております」

「皇国の砲艦は」

「砲艦のみならず、皇国海戦力の大半は魔王の前に海の藻屑になりましたな」

「……素晴らしい」

 うん。ウソはいってないけど、事実でもないね。空気の読めない“吶喊(バトルクライ)”の面々は、“ああ……うん”って顔で互いに目配せしている。

 そこで俺を見るな。事はお前らの国の内部事情じゃねえか。俺は知らん。

「そこで、だ。マッキン領主。この書状だがな」

「は」

「首都奪還を果たした暁には、王国及びケースマイアンと協定を締結する、というのは、どういうことかな」

「王国と? 正気か?」

「うむ、キャスマイア常任理事七名の署名がある」

「王は魔王との戦争で崩御し、王国は南部貴族領を中心に再興を図っております。僭越ながら、王国南部には私の係累がおりますので事情は把握しております。復興を果たした新生王国と協力関係を築くことができれば、両国の発展に繋がるものと思われます」

 評議会の意見としては協定締結に反対というよりも、情報が少なくて判断できないと言った印象だ。

「王国は、わからんでもないがケースマイアンというのは?」

「皇国と王国に挟まれた亜人の国だろう? 滅びたのではなかったのか?」 

「それが、現在はこちらにいらっしゃる魔王陛下の主導で再興され、凄まじいばかりの発展を見せているのです。此度の内乱も、魔王陛下と妃陛下の協力があったからこその勝利。良縁を繋ぐ又とない機会と考えます」

「……なるほど。それで得心がいった。魔王陛下、妃陛下。ご尽力感謝いたします」

「貴殿ら、ずいぶんと呆気なく信じるのじゃな?」

 ミルリルが不思議そうな顔で評議会理事たちに尋ねる。彼らは恥じ入るように頭を下げたが、しっかりとミルリルを見返す。

「共和国の政体は、滅びの際まで行っていたのです。誰が信じられるかを問う段階ではないかと。どうすれば生き残れるかを考えれば、答えなど決まっていましょう」

 本音はともかく、返答はそうなるか。首都奪還と人質救出のためとはいえ、こちらは砲艦外交に近いことをやってしまったわけだ。そら正面切ってノーとはいえんわな。

「ターキフ」

 ルイとティグが俺の背後に立つ。

「取り込み中に悪いが、議事堂正面にいた皇国軍の残党が動き出した。こちらに踏み込んでくるのも時間の問題……」

 兵士の一団が突入したのか、階下でドアを蹴り開けて内部に入り込む音が聞こえてきた。俺はミルリルから預かっていたUZIとM79を手渡す。彼女はふわりと笑みを浮かべて、俺を見る。

「さて、仕上げの残敵掃討じゃ。共和国からの依頼、最後まで済ませるとしようかの」

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