12:敵兵殲滅
身を隠す場所を探して周囲を見る。森の間のクネクネした道を抜けてくるらしいから、長射程の銃器持ちにそちらはあまりよろしくない。森の外れから少し離れたところに斜面が崩れた場所があり、俺とミルリルが隠れられそうな大きな岩が転がっていた。
ふたりで岩陰に駆け込み、敵の到着前に息を整える。
「これは、もう撃てんのかのう?」
「いまは弾薬の手持ちがない。あっても装填を教えてる時間がない。後でな」
「楽しみにしておくのじゃ」
この子はもう……“言質を取った”みたいな顔をするのはやめなさい。
森を抜けてくる人影が見えた。俺はAKMを構え、発射のタイミングを計る。重装騎兵というだけあって、当然ながら馬に乗っている。手持ちの武器は長槍。腰には剣もあるがそれは補助武装だ。肝心の魔導師が見えない。できれば現在の俺たちにとって最大の脅威であるそちらを先に倒したい。
周囲を警戒している騎兵たちを見ていたミルリルが、俺を振り返って首を傾げる。
「撃たんのか?」
「しッ」
魔導師。どこだ?
意図を察したらしく、ミルリルも周囲の警戒に入る。探知魔法というわけではなく、単に耳と目と感覚を総動員しているようだ。彼女の視線がなにかを辿り、俺たちの背後に向く。
「ああああぁッ、ヨシュアーッ!?」
「地獄の業火よ闇の息吹に踊れ、ファイアストームッ!」
黒いローブを着た男が、杖を振るいながら叫ぶ。背後に回り込むつもりだったが、発見されたとわかって魔法による攻撃に転じたのだろう。
俺とミルリルは逆方向に身を投げ出し、ふたりの間を渦巻き状の炎が抜けて行った。隠れていた岩を削って騎兵たちを掠めたらしく背後で馬の嘶きと怒号が上がる。
狙いが外れてパニックになったのか、魔導師は逃げるか再度攻撃をするかで迷っているように見える。俺たちとの距離は10mと離れていない。どうも最初に殺した魔導師より経験が浅いようだ。
「殿下を守れ!」
重装騎兵の叫びから察するに、魔法適性がある経験不足の王族か。師匠の魔導師が露払いに失敗、敵討ちに来たと。
知るかボケ。無関係で何の罪もない――こともないが……俺たちを勝手に攻撃しておいて何様だ。王子様か。
肩付けして単射で1発。胸に銃弾を受けた“殿下”は糸が切れたように倒れた。
「殿下!!」
蹄の音を聞いて背後に向き直る。槍の穂先を水平に構えた騎兵たちの突進。あと数秒で俺たちを蹂躙すると確信した男たちの怒声。
「うおおおぉッ、この下郎がぁッ!」
クソが。甲冑着けて馬に乗って、それだけで自分たちだけが安全地帯にいるとでも思っているのか。神のように無慈悲な鉄槌でも下すつもりか。俺を勝手に引きずり込んでおきながら殺そうとした王族たちみたいに。
「絶対に許さん! 貴様ら、八つ裂きに……」
まずは1発。先頭を走っていた騎馬の首が弾けて傾き、貫通した弾丸を受けた兵士が後方に仰け反る。倒れた馬に巻き込まれて後続の一頭が吹っ飛んだ。間近に迫っていた騎兵の胴体に1発。次々に倒れた仲間か上官かを見てビビったのか、速度を落とした騎兵に、よく狙って1発。最後に倒れてうめく生き残りに銃を向け、ミルリルを見た。
「他に敵は」
「いや、確認できんの。それで最後じゃ」
どうしようか。キラキラした目で見つめるドワーフ娘の意図は明白だ。
「わ、わらわにも撃たせてくれんかの?」
やっぱり。
「若い娘さんが、人間を殺すのに抵抗はないのか?」
「いまさらじゃな。身を守るためとはいえ、もう何人かは手に掛けておるしの。わらわは自分を殺そうとした者たちに慈悲を与えるほど人間が出来てはおらん。貴重な技術と経験を得るためと思えばそれは尊い犠牲というものじゃ」
呆れ半分で俺は安全装置を掛けた後でAKMをミルリルに手渡す。
銃口の向きと銃床の肩付けを確認し、反動と銃声を説明し、装弾・装填とセイフティ解除の手順を教える。
半死半生だった生き残りの兵士はブツブツと何か呪詛らしきものを呟いてはいたが、知ったことか。ここまでこじれて敵だらけの状況で、ひとり分の恨みや憎しみが増えたところで誤差でしかない。
「安全装置解除」
「解除したのじゃ」
「狙え」
「狙うのじゃ」
「撃て!」
ドン、と銃声が鳴ってミルリルの身体が揺れ、銃身が跳ね上がる。
「……快感、じゃ」
そら結構。だけど古いね、しかし。




