表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

826/827

お嬢様の修学旅行 中等部 五日目 その14

調べていって『こんな所まで真似なくても』と腹を抱えて笑いながら頭を抱えたリアルパイセンの容赦ない所業。なお、この時点2004年時点では『まだ』サブプライムローンの傷は浅い。

 みんなを帰して、ホテルの最高級スイートルームに入ったのは私と一条のみ。

 エヴァすら一礼して出ていくのを見て、本当に深淵がやばいという事を察せざるを得ない。


「エヴァさんの言葉を信じるならば、この部屋は掃除済みという事です。

 居てもらってもいいのですが、『知ったらキャピトル・ヒルの赤絨毯の上でお話しする事になりますよ』と言ったら丁重にお断りされまして」


 キャピトル・ヒルの赤絨毯の上でお話って、米国上院公聴会コースの深淵って事ですかって言おうとしたら、一条が先に口を開く。


「今、アンジェラさんもニューヨークからこちらに向かっているはずです。

 朝までにはこちらに着くでしょう。で、深淵の話ですがどこから話しましょうか?」


 私も一条も深夜なのにとてもいい笑顔である。

 笑わないとやってられないともいう。


「とりあえず、直近の事から片づけていきましょうか。

 英国がここまで、関与している理由は?」


「今回の黒幕の一つであり、欧州の魔女たちの資金源の一つである王立エディンバラ商業銀行なんですが、あそこ、うちと似ているんですよ。

 小が大を飲み込む合併をやって規模を拡大して、不良債権をまだ切り離していない事を除けば」


「はい?」


 私の間抜けな声が自然と出るのをどうして止められようか。

 私の唖然とした顔を見ている一条の顔は変わらない。


「金融ビックバンは元々英国の金融制度改革を手本にしていました。

 つまり、我々の所で起こった事が先に起きていたんです」


「不良債権処理も?」


「ええ。ですが、ロンドンは欧州金融の拠点だったので、欧州各地から金をかき集めてなんとかしていたんですよ。それを可能にした魔法がありました。

 ……CDO。債務担保証券です。

 前にアンジェラさんが私とお嬢様に話したサブプライムローン。あれの証券化ですよ」


 その時の私の顔を見れなくて良かったと本当に思った。

 まさかあのサブプライムローンという言葉をこんな所で聞くことになろうとは……


「東西冷戦の終結とEUという巨大市場に欧州共通通貨ユーロが誕生した事で、この国はバブルの真っただ中にあるんですよ。

 だから、全てが上手く回っているので、大胆な事ができるし、実行する。

 我々が10年前に失った時間の中にこの欧州というかロンドンは漂っているんです」


「つまり、私たちの国の銀行が10年前のイケイケどんどんでやってた事が今回の顛末?」


「はい。今回の賭け金は500億ドル。お嬢様が去年の日銀砲で手に入れた儲けが賭けの対象です。

 おかしいと思いませんか?

 ゼロサムゲームの金融市場で、お嬢様が500億ドルを勝ち取ったという事は、誰かが500億ドルの損を出さないといけない。

 その規模なら、最低でも金融機関の首脳陣が引責辞任させられるか、経営危機で金融当局に助けを求めるか、500億ドルというのはそういう金額なんです。

 それなのに今の今まで、そんな話が聞こえてきていない……」


 一条にそこまで言われると私も察するものがある。

 一人負けなら、確実に国家レベルの金融危機になるし、複数の金融機関が負けを分散したにせよそれがニュースにすらなっていないのはおかしいという事に。

 となればと思いつく過去がある。ゼネラル・エネルギー・オンライン。

 あれは損失隠しであっけなく潰れる事になった。


「……損失隠し?」

「なら御の字です。

 おそらく、その穴埋めを止まったマネロン資金でごまかしています」

「……」


 なぜマフィアのヒットマンまで出張ってきたのかやっと納得がいった。

 というか、あちこちから金を引っ張りすぎだろうと内心思っていたのが顔に出たらしく、一条にたしなめられる。


「500億ドルというのは、そういう金額なんですよ。

 神すら動かし、悪魔とすら契約するマネーの宴です。

 で、ここまでが前提です」


「これが前提なの!?」


 さすがに大声で叫ぶ私に一条がやっと笑みを見せる。

 その笑みが苦笑というのがまた救いがないのだが。


「だってこの話、まだ英国がこれほど速く動く理由を語っていないじゃないですか」


 言われてみればそうだった。

 英国がこんなに速く動く理由を一条は語っていないのだから。

 私は一度深呼吸をして、一条の言葉を待つ。


「王室が動いたのは簡単です。

 王室のプライベートバンクの一つが王立エディンバラ商業銀行にあるんですよ」


 納得。

 言われてみれば納得するしかない利害関係である。

 『本体にダイレクトアタック』を宣言した私から逃れるために、王立エディンバラ商業銀行がプライベートバンクの大口顧客である英国王室に泣きついた。

 分からなくはないのだが……と疑問を口にする。


「それなら、英国政府がこんなに前に出ているのは何故?」

「英国の首相は歴史と伝統があるのでなかなか古風な別名を持っているんですよ」


 いきなり話が変わったなと思いながら私は一条の話に乗る。


「内閣総理大臣みたいなやつ?」

「ええ。古風かつ優雅なその別名を『第一大蔵卿』と言うそうですが」

「……」


 察した。私でも察した。

 ここに繋がるのかと悶絶したい所だが一条の話は続く。


「つまり、大蔵、今は財務とお呼びするべきでしょうか。

 ここと政治の関係は我が国よりも深く、暗い。

 おまけに、英国経済立て直しの切り札がビッグバンこと英国の金融改革です。

 つまり、英国政局と密接にかかわっているんですよ。これが……」


「……ぉぅ。もぉ……」


 手に目を当てて天井を眺めて嘆くのをどうして止められようか。

 そんな事お構いなしに一条はぶっちゃけたのである。


「英国の現政権はイラク戦争の関与で支持率を落としており、既に現首相は次期総選挙前に禅譲する事を発表しています。党内で次期首相を狙う人物は現財務大臣で、王立エディンバラ商業銀行をはじめとした英国金融機関のメガバンク化を業績として次期首相の椅子を狙っている……どこかで聞いたような話ですな」


 ああ。英国にも当時の泉川蔵相と渕上外相みたいな争いが……そういえば、加東議員が全権委任大使としてやってくるのがこのあたりを踏まえてなら、恋住総理も泉川副総理も分かって送り込みやがったなー

と天井を眺めて嘆きながらうわごとのように思ったのであった。

米国議会公聴会

 上院・下院とも行え、政治議題において世論形成を行う場としても有名。

 ベトナム戦争やウォーターゲート事件はこの公聴会証言が世論が形成された。

 なお、ロッキード事件で田中角栄元首相の逮捕に繋がったロッキード社の幹部の証言は1976年の上院多国籍企業小委員会における公聴会である。


https://imidas.jp/hotkeyword/detail/D-00-107-10-03-H006.html



この時の英国政局

 イラク戦争の米国支持が『対米屈従』として非難を浴びて支持率が低下していた。

 そして、2004年10月にトニー・ブレア首相は4回目の総選挙に際しては党首を後継に譲ることを発表。その禅譲相手が盟友かつライバルだったゴードン・ブラウン財務大臣である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=890190079&s
― 新着の感想 ―
ギャンブルの負けをギャンブルで取り返そうとするなという教訓をなぜ活かすことが出来ないのか 頭はいいのにウシジマくんの債務者並みのメンタリティとか嫌すぎる(2004年に闇金ウシジマくんの連載開始)
メンツ大事なのはわかるが、やりすぎると国家間の温度がどんどん高まっていくな 経済的に不安定になれば民の感情暴走は中に行くのやら外に行くのやら おひいさんも以前の経験で自分から戦争を起こせないのはわかっ…
ヨーロッパもアメリカも、日本がやらかしたのと同じようにバブルと崩壊と処理を繰り返して長期停滞、が少なくとも1970年から。 ロバート・ゴードン、タイラー・コーエン、バーツラフ・シュミルの停滞論…「空飛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ