お嬢様の修学旅行 中等部 五日目 その12
状況説明会。
長くなったので途中まで。
長い長い一日が終わろうとしていた。
こんな時の為に予備日を設けていた訳で、明日の予定は基本なし。
ただし夜から晩餐会があるのため、それだけは出ないといけないけれど。
夜更かしもできるという事で、とある問題を解決する為にラウンジにて全員集合と相成ったのである。
私を含めたカルテット全員、栄一くん、裕次郎くん、光也くん。
橘由香以下側近団、久春内七海、遠淵結菜、野月美咲、留高美羽、秋辺莉子、イリーナ・ベロソヴァ、グラーシャ・マルシェヴァ、ユーリヤ・モロトヴァ、劉鈴音に神奈水樹。
明日香ちゃん、蛍ちゃん以下、友人たちは薫さん、詩織さんに、待宵早苗さん、栗森志津香さん、高橋鑑子さん。
大人として入ってきたのがエヴァとスイスから飛行機でやってきた一条である。
で、これだけの人間が雁首そろえて困惑させられているブツがテーブルの上に無造作に置かれていた。
「で、瑠奈よ。あれどうするんだ?」
「栄一くん。どうするも何も……ねぇ……蛍ちゃんが嬉しそうに眺めているから、悪いものじゃないんだろうけど」
(にこにこにこにこ)
それがかえって本物疑惑を増しているのが本当に困る。
こういう時、最終的には私が決定者になるとしても、人が多すぎるから誰かに議事進行をという訳で、
「明日香ちゃん。議事進行お願い」
「何で私が~」
「何か愛媛県にいい事をするから。私のおこづかいの範疇で」
「野球チームを持ってくるってのは?」
「他県との戦争になるからちょっと……」
「今、愛媛ってサッカーチームが頑張ろうって所なのよねー」
「わかった。なんかスポンサー企業用意するから。一条。おねがい」
「かしこまりました。探しておきます」
「乗った。瑠奈ちゃん。大船に乗ったつもりで任せなさい!」
こういう時の明日香ちゃんの強さたるや。
何しろ、将来政治家か政治家の妻なので、金の桁に驚かないのが素敵。
億や兆の金額で政治家というのは表情を顔に出したらいけないのである。
「という訳で、桂華院瑠奈公爵令嬢から委任されて議事進行を私、春日乃明日香が進めたいと思います。で、どこまで聞いていい訳?」
「明日香ちゃん。友達相手に、隠し事はなし。
フルオープンで、みんなで頭を抱えてもらおうじゃないの」
「それ、みんな道連れって事じゃない……と、瑠奈ちゃんの仰せなので、エヴァさんと一条さんは、うまく我々が頭を抱える程度に話を説明していただけるととても助かります。ええ」
長い付き合いで、疑似姉妹として桂華院公爵家のそこそこ暗い所も知っている明日香ちゃんの言葉にまず一条が口を開く。
こういう所で場の空気に適応した状況説明をする能力から、地方の社長連中相手にやりあっていた地銀のエリート行員の顔を垣間見ることができる。
「端的に言うならば、お嬢様に舐めた真似をした連中を金と権力でぶん殴るという時にこんなものが贈られたという事は、『これをやるから勘弁してくれ』というサインかと」
一条の言葉にその背景を感じ取った皆が嫌な顔をする。
ここにいる多くの家は日本における上流階級であり、だからこそ高価な品による手打ちのサインの真意を察してしまったからだ。
そのあたりをとてもよく見ていた明日香ちゃんが議長役らしからぬ発言で確認をとる。
「つまり、舐めた真似をした連中がお上に泣きついたと?」
「その通りでございます。春日乃様」
国に泣きつくのならばまだ殴りようがあるのだが、困った事に今滞在している英国という国は王国な訳で、王室というものがあるのである。
こういう高価な品物がやってくるあたり、そのお上も英国政府ではなく英国王室の可能性がとても高い。
光也くんが手をあげて発言する。
「前提条件を確認したい。
そのインペリアル・イースターエッグは本物なのか?」
「後藤様。
あれは、何処に持ち込んでもおそらくは英国政府もしくは英国王室が『本物である』と担保するだろうインペリアル・イースターエッグでございます。
この時点で本物か偽物かという議論は無意味になるかと」
光也くんの質問にエヴァが否定する。
そのポーカーフェイスから感情を読むことはできないが、あのインペリアル・イースターエッグを見た瞬間小声でFワードを呟いたのを私の耳はちゃんと捉えていた。
そういう厄物な訳だ。ここで言うのは憚られるが。
「という事は、瑠奈さんがテレビでおっしゃっていたロマノフ家の財宝をこれで手に入れる事ができるんですの?」
「いいえ。スイスのプライベートバンクで確認しましたが、このインペリアル・イースターエッグでロマノフ家の秘密口座は開かないと」
一番貴族的思考を持っている薫さんが言葉を発し、それに一条が丁寧に返事をする。
たしかに私たちは貴族というか華族ですけど、乙女ゲームにはこんなに露骨な金と権力と陰謀はなかったぞ。あったら売れないからだろうなぁ……
「そもそも、桂華院さんがこれをもらうような事になった理由は、あのルーブルの件なのですか?」
「いいえ。本来はグレートゲーム、米国大統領選挙でどちらが勝つかというゲームでお嬢様は共和党現職に賭けておりました。
結果、大統領選挙は現職再選となった上に、ルーブルのあれがあった事で、ミスター一条の言う『舐めた真似をした連中を金と権力でぶん殴る』前にこのインペリアル・イースターエッグがやってきたと」
待宵早苗さんが口を開くと、それにエヴァが大元のゲームの結果を告げる。
飛行機の中で大統領は『勝者として凱旋する』と言ったはずなのだが、この仕打ちである。
一番一般人に近い栗森志津香さんが、それっぽい質問を口にした。
「高いの?」
「数億から数十億円」
「うーわー」
エヴァの即答に皆の感覚がマヒするが、そもそもこのゲーム桁が兆円なのである。
言うつもりはないが。
そんな感じで場がほぐれた所に高橋鑑子さんがぽつり。
「つまり、殴りたいけど、殴るとまずいよねって事?」
その発言を私を含めて誰も否定できなかったのである。
愛媛のサッカーチーム
愛媛FC。この時はまだJFL。




