報道特番 パリ暴動とルーブル美術館襲撃事件
さすがにこの空気で霧のロンドンエアポートにする勇気はなかった。
「はい。こちらはロンドン、ヒースロー空港から中継しております。
少し前にパリのル・ブルジェ空港からチャーター機で飛び立った桂華院瑠奈公爵令嬢はもうすぐここヒースロー空港に到着する予定です。パリの暴動にルーブル美術館襲撃、それに伴う裏事情が当の公爵令嬢によって暴露された結果、イギリス国内は最大級の警戒態勢を敷いています。
チャーター機にはNATO軍戦闘機による護衛がつき、英国国内の治安維持に英国政府はスコットランドヤードだけでなくSASの投入を決定。
これはパリ暴動に煽られてロンドンでもデモが発生した事と、昨今のテロがネットワークを構築してグローバルに動くようになった事で、英国国内に無視できない影響力を持つIRAにテロを依頼した可能性があるとスコットランドヤードの広報官は我々のインタビューに応じてくれました。
それだけでなく、英国政府は米国政府にテロ予防のための協力を要請しており、米国側もこれに応じて部隊を出しているそうです。
現地からは以上です。一旦スタジオに戻します」
「はい。
現場からでした。
解説の○○さん。
欧州は大変なことになっているみたいですね」
「ええ。
一連の暴動の背景が、狙われた公爵令嬢によって暴露されたものだから欧州各国は外交的失策に対応せざるを得ません。
この事件の大元は桂華院瑠奈公爵令嬢が将来何処に嫁ぐのかという話で、英国提案で米国国務省が試案を出した南イラク首長国に嫁がせるという話がリークされて国際問題化した事です。
米国大統領選挙投票日という米国が動けないタイミングを見計らって、ロマノフ王家由来のイースターエッグを渡す事で彼女のロマノフ家継承者としての側面をクローズアップし、欧州統合への一里塚にするという企みは、この暴動とルーブル美術館襲撃に伴う彼女自身の暴露によって潰える事になりました。
今回の事件によって、その責任は政治レベルを超えて外交問題に発展するのは間違いないでしょう」
「その責任問題ですが、パリ支局の××さん?」
「はい。
こちらまだ熱狂が冷めやらぬエリゼ宮前です。
桂華院瑠奈公爵令嬢がフランス国歌を歌いながらルーブル美術館に入ったのをパパラッチによって全て中継された結果、多くの市民が国旗を持って通りに繰り出してフランス国歌を歌っております。
暴動そのものも沈静化に向かいつつありますが一部宗教過激派が暴徒に対して攻撃を行っているとの情報もありまだ予断を許さない状況ではあります。
既に内務大臣の辞職にとどまらず、首相も責任を取って辞職を表明。
また、今回の暴動に関与しているとみられるDGSE長官が拘束され、DGSE本部の周囲は警察及びフランス軍の車が囲んで厳重な警戒を行っています。
事件を公爵令嬢が暴露した結果、フランスだけでなく先に滞在したイタリアでも再度責任追及の声が上がりましたが、既にテレビ局のプロデューサー、ヴェネツィア警察署長が辞任を表明し、ドッキリとして片づけたためにイタリア国内では広がっていません。
『我々はジョークでもてなしたのに、フランスは暴力でもてなした』
というイタリア政府関係者のコメントがイタリア国内の空気を代弁しているでしょう。
その一方で衝撃に襲われているのがブリュッセルのEU本部で、複数国家にまたがる外国人を巡る大陰謀に関係者が慌ただしく駆け回っており、インタビューしても『ノーコメント』と言って立ち去るばかりで、未だ混乱は収まっていません。
こちらからは以上です」
「ありがとうございました。
ここで、桂華院瑠奈公爵令嬢が自らルーブル美術館に入るシーンをもう一度お見せします。
○○さん。
公爵令嬢凄く凛々しいですね」
「ええ。
最初に見た時、ウジェーヌ・ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』かと思いましたよ。
ここでパパラッチを排除せずに一緒に入り、彼女自身にまつわる全ての陰謀を曝け出してしまうのですから昨今のハリウッド映画より面白かったですね。彼女はアカデミー助演女優賞を持っていますが、将来そちらの道へとハリウッドがオファーを出しているというのはあながち嘘ではないのかもしれません」
「ここで今度はこの暴動と襲撃事件に伴う我が国の対応ですが、国会記者クラブの××さん?」
「はい。
今回のパリ暴動およびルーブル美術館襲撃事件ですが、政府は素早い対応を見せています。
外務大臣はイタリアとフランス大使を呼んで厳重抗議を行い、両大使は外務大臣に対して謝罪を表明。
続いて呼ばれた英国大使においては国内の治安対策を要請し、英国大使は『万難を排して応じる』という回答を頂いたとの事です。
更に現職大統領の再選が決まった際に、恋住総理自ら米国大統領にお祝いの言葉を送った際にこの件に触れて欧州内で密かに協力してもらっている米軍コマンド部隊に感謝の言葉を述べたそうです。
また、EUに対しては今回の件の釈明を求める為に加東一弘氏を特命全権大使に任命して欧州に派遣する事を決定しました。
加東氏は桂華グループのおひざ元の山形県出身の議員で、一時は総理総裁に最も近い男でしたが秘書の脱税容疑での逮捕を受け立憲政友党を離党し失脚。
総選挙後に復党しましたが元外務官僚というキャリアを買って恋住総理や泉川副総理が加東氏に要請しこれを了承したそうです。
元々桂華院瑠奈公爵令嬢は先の成田空港テロ未遂事件の際も、米国からの注目も高かった為に二度目となるパリ暴動およびルーブル美術館襲撃事件に永田町関係者も動揺を隠せません。
桂華院瑠奈公爵令嬢は若年ながら桂華グループの広告塔として活躍し、再選を決めた現大統領とも親密な関係を築いているセレブの一人です。
その彼女が再度狙われたということで、ワシントンでは大統領選挙当選後に欧州各国大使を呼んで状況説明を求めました。また、先程ホワイトハウスの報道官は会見で『米国は欧州の混乱を望まず窮地に際してありとあらゆる支援を行う用意がある』というコメントを発表しました。
外務省の関係者によると『中部イラクファルージャで大規模な戦闘が続いている現状、投票前にもし公爵令嬢に何かあったらホワイトハウスの主人が変わっていたかもしれない』とはっきりと口にして、何かしらの動きがあったのではと推測されています」
「元々は、公爵令嬢ではなく公爵令嬢が通う学校の修学旅行という話でしたよね?」
「はい。
桂華院瑠奈公爵令嬢が通う帝都学習館学園中等部の修学旅行だったのですが、日本の政財官の多くの子弟が通う学園の修学旅行が巻き込まれた事で各界に動揺が入っています。
政府の強硬姿勢の他に、公爵令嬢が再度巻き込まれた桂華院公爵家では一条進桂華金融ホールディングスCEOが欧州に赴き、そのムーンライトファンド移設の話を口にしてスイスの銀行業界に動揺が走っています。
更に、欧州における投資や観光についても既に見直しの動きが出ていると言われ、先の9.11テロ事件にSARSによって世界の航空業界は打撃だけでなく、欧州へのネガティブイメージの払拭に欧州各国は頭を悩ませる事になるでしょう。
一方でこの件で一番激烈に反応したのは実はロシアでした。
既にロシア政府はフランスおよびイタリア大使召還を表明し、英国大使に状況の説明を求めていると言われています」
「何故、ロシア政府が桂華院瑠奈公爵令嬢に対してそんなに反応しているのでしょうか?」
「はい。
桂華院瑠奈公爵令嬢がロシア帝国ロマノフ家の血を引いているのは周知の事実なのですが、今回の陰謀ではスイスのプライベートバンクにロマノフ家の亡命用資産が残されていた事と、それを彼女に渡す事で彼女をロマノフ家皇位継承者として仕立て上げるという目論見がありました。
ロシア革命によってロマノフ家を否定したソビエト連邦が崩れてロシア共和国となった際の経済的窮乏時にロシア国債を買って支援し巨万の富を得たのがロマノフ家の血を引く公爵令嬢が所有者であるムーンライトファンドであり、それゆえにロシア国内に熱狂的支持者がいるのですが、自分たちを抜きにこんな仕掛けが行われてしかも、彼女が欧州なり南イラクなりに嫁ぐと言われてはいそうですかと言える訳もなく。
この国民感情にロシア政府も強硬姿勢を崩す訳にも行かないのでしょう。
現在、ロシアの南にあるウクライナ共和国でも大統領選挙が行われており、今回の仕掛けで稼いだ資金がウクライナに流れたと公爵令嬢の口から聞かされて……」
「あ、今、ヒースロー空港の現場に動きがありました。
そちらに繋ぎます」
「はい。
こちらヒースロー空港です。
たった今、桂華院瑠奈公爵令嬢が乗ったチャーター機が到着しました!
繰り返します!公爵令嬢が乗ったチャーター機が到着しました!!!」
テロのネットワーク化
元ネタは『パイナップルARMY』。実際、その動きはあり、それが一番成功したのがISことイスラム国である。




