ジャンダルムリの幹部室にて その2
感想の『でも敵対してる連中ならサーモグラフィと対戦車ライフル、またはRPG対戦車砲で瑠奈お嬢様吹っ飛ばすことできたかも』の穴埋め話。
筆が乗るとこういうのほいほい書けるのだけど、腱鞘炎が……
「何でDGSEの奴らはお嬢様を狙うなんて事になったんだ?」
「きっかけはフランス製フリゲートを売ったマージンをマネーロンダリングした相手が欧州の魔女たちだったという事だが、この話もう少し奥がある。
EU内部の主導権争いだ」
ルーブル美術館での戦闘はまだ続いている。
テロリストは三人とも射殺されたが、間違いなく彼らを手引きした内通者がいるからだ。
その内通者であるDGSEの情報を某所職員は尋問する。
「ああ。ドイツの復活を座視できない訳だ。
英国が統一時にドイツ復活について懸念していたのは知っていたが、どうしてフランスはその時に英国と組まなかったんだ?」
「組まなかったんじゃなくて、『組めなかった』んだ。
湾岸戦争から9.11まで、フランスは軍事力の一部を常にアフリカに注いでいた。
湾岸派兵も今だから話せるがギリギリだったんだよ。
そんな状況でロシアの壁にドイツがなってくれるのならば、それに越したことはない」
「いつまでも植民地に固執しているからだ」
「それもメリットがない訳ではない。
ハイテクの導入に後れを取った我が国は人に焦点を当てざるを得なかった。
アルジェリアをはじめとした北アフリカ系コミュニティからの情報は有益だったよ。
あの同時多発テロ、こちらの諜報筋はあのテロリストの動きを2000年には掴んで、警告していたぞ」
「なんだって!?」
「現職再選の前祝いに持っていけ。
民主党が勝ったらいい切り札になったんだろうが、こちらは2001年1月にやつらのハイジャック計画については掴んでいた。まぁ、ビルに突っ込ませるなんて事までは想像できなかったがな」
「ごほん」
某所職員と一緒に来た米軍士官がわざと咳ばらいをして話を戻す。
ルーブル美術館の方も状況が流れて来つつあり、国家憲兵隊と民間警備会社に化けた米軍コマンド部隊がルーブル美術館職員に化けたDGSE、もしくはDGSEに通じていた人間の排除に動いていた。
某所職員が話を元に戻す。
「つまり、イラク戦争で露呈した米国主導の世界秩序に異を唱えつつも、EU内部の主導権をドイツに渡さないようにする為に欧州の魔女たちと手を組んだと?」
「大枠はそれだろうが、種をあかせば、どこにでもある派閥争いとお役所仕事だよ。
この騒動で内閣はぶっ飛ぶ事になるが、次期大統領レースにおいて有力候補者が脱落する事を意味する。
我々ジャンダルムリは平時の警察活動に関しては内務大臣管轄で、対外治安総局は国防相だ。
それ以上の説明はいるか?」
国家憲兵隊と民間警備会社に化けた米軍コマンド部隊がDGSEこと対外治安総局を排除するなんて事がバレたらそれこそ大統領の首が飛びかねない。
穏便にかつ勝ち馬に乗る形で、フランス大統領命令という形でDGSEはルーブル美術館から退去してもらうという形をとり、混乱は発生すれども流血などの最悪の事態には至っていなかった。
「なるほど。辞任を表明したのは先に内務大臣だったな」
「ついでに言うと、内務大臣は次期大統領の有力候補者だった」
「OK。大騒動や陰謀の大元は大体似たようなもんだ」
ジャンダルムリの幹部は椅子に座り煙草に火をつける。
取引が成立しているから彼は気楽だが、彼以外の二人の顔は厳しい。
「吸うか?」
「仕事中だ」
「同じく」
「そうかい」
テレビの国際チャンネルでは、米国大統領選挙で民主党候補者が敗北宣言のスピーチを流していた。
コマンド部隊の士官は現職再選後に発動される中部イラクファルージャの掃討作戦が頭に浮かんだが軽く頭を左右に振ってそれを追い払う。
「さっきも言ったが、DGSEはヒューミントに注視していた。
だから、9.11の情報とかも捕まえられたが、裏を返せばこっちにも浸透している可能性がある訳だ。
ルーブルの騒動を見るに、マフィアか宗教過激派か知らんが、そっちに取り込まれた連中がいるとして、大部分は欧州の魔女たちの仕掛けであるインペリアル・イースターエッグを渡す事に奔走しているだろうよ」
「そいつらは完全に排除できたのか?」
「わからん。だが、宗教過激派の方はルーブル美術館に突貫しただろうよ。
この手のテロは大規模になればなるほど事前準備でバレる。
9.11ですら、届かなかったがこっちは掴んでいたんだ。
暴動があった上にルーブルに突貫する狂信者たちは射殺した三人以外に居たとしても一人二人が限界だろうし、それも今あんたらが追い出し中だ。
残っているのでやばいのは、マフィアの金狙いでDGSEを買収した連中だが、ありがたい事にセーフハウスに籠城しているから手が出せてない。
そう遠くない内にシテ島に配備されているDGSE職員全員の退去命令が出るだろうよ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
某所職員の質問にジャンダルムリの幹部はパリ警視庁の写真を渡す。
そのパリ警視庁の駐車場にお嬢様こと桂華院瑠奈が逃げ込んでいるワゴン車があるはずだった。
「俺たちは間抜けかもしれないが馬鹿ではない。
このパリ警視庁の内側に停まっている車を狙う場合、パリ警視庁の内側から銃を構えないといけないんだが、管轄の違うDGSEが銃を構えて車を狙うのを傍観する訳ないだろう?」
90年代フランスのアフリカ介入史
https://www2.jiia.or.jp/pdf/global_issues/h12_africa/kataoka.pdf
この論文面白くてさぁ……
86年―現在(於:チャード)
「エペルヴィエ」(ハイタカ)作戦。リビアの侵攻を抑えるため、900人が派遣。現在も駐屯続行中。
90年(於:ガボン)
「ルカン」(鮫)作戦。リーブルヴィルとポール・ジャンテイでの暴動の際に、在留仏人・外国人保護の目的で2000人派遣。
90―93-年(於:ルワンダ)
「ノロワ」作戦。ルワンダ愛国戦線の攻撃からルワンダ政府を護るために600人近く派遣。
91年(於:トーゴー・ベナン)
トーゴーでコク・コフィゴ首相に対するクーデター勃発の気運が高まり、コトヌ(ベナン)空港に450人の兵隊を派遣。実質的な介入はせず。
91―92年(於:ザイール)
キンシャサで反モブツ運動が高まり、在留仏人・外国人保護の目的で1000人派兵。
94年(於:ルワンダ)
「トルコ石」作戦。ツチ族の大虐殺を終わらせるのを目的として2600人が派遣される。国連マンデート付与。
96―97年(於:中央アフリカ)
根の深い部族対立(北部部族対ヤコマ族)による三度の反乱で、国は不安定化。在留仏人・外国人保護の目的で2500人まで増派。MISAB創設。
96―97年(於:ザイール)
ザィール東部で反乱が開始し、反乱軍が進軍し、キンシャサでの在留仏人・外国人保護を目的として300人の兵隊が派遣される。
97年(於:コンゴー(共))
大統領選挙を目前に控え、ブラザヴィルで政府軍と私兵が衝突し、戦闘が勃発。仏は在留仏人・外国人を救出するため、約1500人の軍隊をブラザヴィルに集める。
97年(於:シエラ・レオーネ)
シエラ・レオーネでの内戦が悪化し、在留仏人・外国人を救出するため派兵。
98年(於:ギニア・ビサオ)
ギニア・ビサオでの内戦が悪化し、在留仏人・外国人を救出するため派兵。
98年(於:コンゴー(共)/コンゴー(民))
コンゴー(民)での内戦が悪化し、キンシャサが緊張したため、在留仏人・外国人を救出するため派兵。
フランスのインテリジェンスコミュニティ
インテリジェンスの組織論的研究
https://takushoku-u.repo.nii.ac.jp/record/128/files/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%B5%84%E7%B9%94%E8%AB%96%E7%9A%84%E7%A0%94%E7%A9%B6.pdf
かなり読みごたえがあるのでお勧め。
次期大統領選有力候補者
辞任に追い込まれた内務大臣がこの人
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%B3
サルコジさんこの時経済・財務・産業相に異動していて奇麗にダメージ回避していて爆笑する私。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%82%B8
グーグルマップで『パリ警視庁』を検索して、その場所を航空写真に変えてみてみよう。
なお蛍ちゃん『みっしょん いんぽっしぶる』にてサーモグラフィにも引っ掛からないと明記しているんだが……誰だよこいつにこんな能力持たせたのはとセルフ突っ込みに悶えている私。




