お嬢様の修学旅行 中等部 五日目 その7
ほら。こう繋がるorz
何をするにしてもグレートゲームこと米国大統領選挙の結果が出ない事には動けない。
そして、待つ事一時間ばかり、その結果が出た。
「オハイオ州は共和党現職か……これで決まったわね」
「テレビの票読みだと、選挙人の数は共和党が286で、民主党が251だ。
オハイオの選挙人は20人だから、ここを民主党が取れたら共和党266対民主党271で勝利が可能だったんだが……」
エヴァとその同僚の言葉が全てを示していた。共和党現職再選である。
まだまだ開票作業は続いているのだが、そう遠くないうちに民主党候補が敗北を宣言し、それを受けて共和党現職が勝利宣言をする事になるだろう。
米国大統領選挙は州に割り振られた選挙人で過半数を競う為、得票数で勝っているのに選挙人で負けるという事が発生したりする。
とにかく、長い長いグレートゲームの勝敗がついた訳で、ここからが本番である。
勝つ人も負ける人も結果が出た以上はその賭けを清算しなければならないのだから。
「で、私はどう動けばいい?」
「お嬢様はまだ動かないでください。
ルーブル美術館の動きが流れてきていません」
言われてみると確かにそうだ。
もともとシテ島とルーブル美術館は徒歩で行ける距離なのだが、それにしては動きが掴めない。
「どうなっているのかしら?」
「一つは、ルーブル美術館に入ったテロリストの協力者のあぶり出しだろうな。
どう考えても内通者がいる。そいつを捕まえないと次の動きに移れないという事なんだろう」
私が首をかしげると、エヴァの元同僚の人が説明してくれてる。
彼らとしてもゲームの勝者が決まった以上は勝ち馬に乗ろうという事だろう。
「栄一くん大丈夫かしら?」
「そっちはすぐ調べられますよ。
……シャトレ駅の混乱で生徒をかばって擦りむいたとかで命に別条はないみたいですね」
「よかった」
「ちょっと待て」
エヴァの報告に安堵した私に元同僚の人が厳しい顔をする。
同時に、この人がその筋で現役なのだという事を次の言葉で教えてくれた。
「そんな軽微な報告が、何であの時流れてきたんだ?」
その言葉に私もエヴァも真顔になる。
あの時、激昂した私は何をしようとした?
栄一くんの所に駆け付けようとしてこの車から出て……背筋が凍った。
私が気づいた事にエヴァも気づき、元同僚と楽しくない会話をする事になる。
「多分、ここに来る道中お嬢様を見つけられなかったのでしょうね。
けど、ここはセーフハウスとして警備陣には知らされていた上に、ここに逃げ込んだ情報は当然流れている訳で……」
「ドアを開けた瞬間にズドンだろうな。
車は防弾仕様だから中にいる限りは大丈夫だし、爆弾とかの巻き添えを避けるために、地面から床下まで事前にチェックしてある」
「動かす?」
「そっちの方が危ない。
避難路に爆弾でも仕込まれたら避けられない。
パリ警視庁本部はそういう意味で便利かつ厄介だからこそ、セーフハウスにここを選んだんだ。
確実に内通者がいるが、仕掛ければバレる場所だからな」
自分の事なのだがため息をつくしかない。
ゲームが終わっているというのに、まだ自由に動けないときたもんだ。
「おそらくルーブル美術館の方で動きがでるまではここで大人しくしておくべきかと」
「むー」
(むー)
私と一緒にむくれる蛍ちゃん。
さすがに飽きてきたのだろうが、ここでドアを開けたら私が狙撃されかねないと理解してくれているみたいで、一緒にむくれるだけにとどめてくれているのはありがたいというか……
待つ間は当然暇になる訳で、先ほどの岡崎とアンジェラの会話で気になる事を考える事になる。
「巨額損失の発生ねぇ……そりゃ、私のお金使えばその穴埋めぐらいはできるんでしょうけど、どうやって私からその金を奪うつもりなのかしら?」
「勝ちそうだから説明するが、馬鹿どもの仕掛けは複数あったんだよ。
お嬢様にインペリアル・イースターエッグを渡してロマノフ家継承への仕掛けの他に、ワシントン原則を用いてお嬢様の財産をかっさらうという大仕掛けがな」
「かっさらう? それが今ここに籠城する羽目になっている元凶なのかしら?」
「そういう事だ。
ワシントン原則は『ナチスによって没収された美術品は、奪われた家族の子孫に戻される』という国際的合意なんだが、『奪われた家族の子孫に戻される』って所がポイントでな。
お嬢様がロマノフ家の財宝を継承した上で殺されると、その財産は預けられたユダヤ系金融機関の物になる訳だ。
で、だ。
ルーブル美術館でのイベントでロマノフ家の財宝を手にしたお嬢様の口座が、ムーンライトファンドと一体化する事になる。
お嬢様のムーンライトファンドはこの間の日銀砲で500億ドルは転がり込んでいる上に、ロマノフ家の財宝と一体化したらどれぐらいの富になるか見当がつかん。
あんたの所の一条って奴が慌てて飛行機でこっちに来ているのはそれが理由だろうよ。
で、俺たちがまだ籠城している理由でもある」
「そういう事を言うって事は、お嬢様を狙っている奴の見当がついているみたいね?」
エヴァの鋭い目なんて気にすることなく、元同僚は笑顔でぶっちゃける。
なるほど。これが勝ち馬への乗り方か。
昔の私にはできなかった事だななんて思いながら、元同僚は狙っているだろうスナイパーの正体を口にした。
「DGSE。対外治安総局の奴らさ。
何でも、フランス製フリゲートを売ったマージンをマネーロンダリングした相手が欧州の魔女たちで、それ以前からも付き合っていたみたいだな。
今回の暴動のきっかけも彼らだったと言うし、本当に暴動のきっかけは彼らの『やらかし』だったのかね?」
恐ろしい事実。
この作者、ここまで行き当たりばったりでこれを書いている……




