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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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ジャンダルムリの幹部室にて

「要するに、仕掛けを作っているのは向こうもこっちもプロだ。

 だからこそ、手が組めるんだ」


 ジャンダルムリの幹部は、そう言って保身の為に身内を売る。

 売る相手が某所職員だからこそ、売れるものがあった。


「重要なのが、『公爵令嬢』が『ルーブル美術館』に行く事だ。

 それさえクリアできるならば、こちらは協力できる」


 某所職員の耳にはお嬢様がこっち側のワゴン車内に避難した事と、久春内七海が桂華院瑠奈に化けて側近団に囲まれてシテ駅に入ってゆく所まで伝わっていた。


「協力?

 ロマノフ家の財宝をお嬢様が開けて手にした瞬間、お嬢様のムーンライトファンドと一体化する。

 その上で、お嬢様が死んだらロマノフ家の財宝返還を名目に有象無象が集りに来る仕掛けにどうして協力できると?」


「そっちは確実に潰す。

 スイス銀行のプライベートバンク口座凍結解除についてはウォール街も絡んでいるんだぞ!」


「……なんだと?」


 虚実が簡単に入れ替わる諜報の世界だからこそ、こんな事はとてもよく起こる。

 相手の持っていない札を探り、それを出すことで勝敗が決まるゲームはジャンダルムリの幹部の方に主導権が移っていた。


「新大陸の連中は四半期経営とか株主重視とかほざいて見える所の化粧ばかりうまくなりやがる。

 ゼネラル・エネルギー・オンラインで何が起こったか忘れたのか!?」


「……損失飛ばしか!?」


「そうさ。去年の日銀砲に今年の東京での一連の騒ぎでヘッジファンドのかなりの所が大損失を被った。

この仕掛けの原点はそれだ。

 だが、四半期経営と株主重視は損失を許す訳がない。

 だから、損失を隠したんだよ!

 プライベートバンクの口座に!!!」


「……お前、何を言っているのか分かっているのか?」


「お前らこそわかっていないだろう!?

 あのお嬢様の仕手戦で彼女に転がり込んだマネーは500億ドルだぞ!

 ゼロサムゲームの金融市場でそれだけの利益が出たって事は、それだけの損失を誰かが被っているんだよ!!

 ヘッジファンドに出資していた金融機関がその損失の穴埋めに追われているのがなぜわからない!?」


 500億ドルの損失は欧米の金融機関をもってしても穴を埋めるのは大変で、良くても経営陣の首が飛び、悪ければ会社そのものが潰れかねない金額である。

 そして、それは四半期ごとの決算においてチェックされる訳で、己の身を守る為にもその損失は飛ばされる事になったのである。

 お嬢様こと桂華院瑠奈の担当がアンジェラ・サリバンだった事もあって、彼もウォール街の流儀を学んでここに立っているから、ジャンダルムリの幹部の言っている事に冷や汗が止まらない。


「……仕手戦であのお嬢様を殺したいって奴がウォール街に居るとは聞いていたが……欧州でもか……」


「いいことを教えてやる。

 プライベートバンクが高配当を出せるのは、ヘッジファンドへの出資がある。

 そこが軒並み焼かれたらこういう反応になるだろうが!!

 ウォール街の連中はサブプライムローンで潤ってお化粧もできるだろうが、こっちは食いつくのに遅れた。

 だからこそ、取引だ。

 条件は俺の身の安全」


 今、この男は自分の事を命綱と言ったなと某所職員は思った。

 このタイミングでの取引は、目の前のジャンダルムリの幹部との交渉次第と言う事になるのだ。


「上の決裁がいる」


「いいのか?

 その決裁の間に本物のお嬢様が害されても!?

 腹をくくれ。最悪、お前の退職金は俺が出してやる」


「お前……このギャンブルにいくら賭けていた!!!」


「イタリアのギャンブルでオールインしたのさ!

 勝てると分かっていたインサイダーほど面白いものはないだろうが!!

 『キャンプ・ニクラウス』はそれで手じまいしたはずだったが、この様だ。

 勝って儲けたはいいが、待っているのは責任追及といけにえの羊だ。

 一つヒントをくれてやる。

 繰り返すが、『公爵令嬢』が『ルーブル美術館』に行く事だ。

 それさえクリアできるならば、こちらは協力できる」


 某所職員はちらりと時計を見る。

 米国東部時間は投票が続いている。

 ここでお嬢様が健在を示さないと、本当に『まさか』が発生しかねない。


「シテ駅地下からルーブルへの隠し通路の地図を出せ」


「取引成立だ。

 ルーブルで保護された公爵令嬢はそのままイースターエッグを手土産にこの国を出国する事になるだろう」


 手を握る某所職員は忌々しそうな顔で、ジャンダルムリの幹部は安堵の笑みを浮かべて。

 それでも取引は交わされた。

 口約束でも、口約束だからこそ守らないと地に落ちる評判というのが裏の世界。


「暴徒とテロリストについては?」


「軍を前に出して夜間外出禁止令を出す。

 全力で潰すが今日の出国はまだ危ない。

 一般人が明日出国したとしても誰も気にしないだろう?」


「こっちも生贄の羊が要る」


「内相どころか内閣総辞職するからそこから選んでしまえ。

 どうせ、お嬢様が生き残って大統領が再選されればその羊もいらんだろうが?」


「『キャンプ・ニクラウス』にも事が終わったらきっちり詰めさせてもらうからな!」


「好きにし……待て。

 ……なんだと!?」


 男の言ったことは推測込みだが本当だった。

 ただ真実は男の予想よりも深かった。


「……情報屋からの信頼できない情報だ。

 スイスのプライベートバンク、公爵令嬢の口座がある銀行。

 巨額損失が発覚したらしい。

 去年の損失がばれ始めたぞ……」

ネタ元公開

ゴルゴ13『国王に死を』


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― 新着の感想 ―
今回(も?)お世辞にも綺麗とは言えない花火が数多く見えそうですね。 まあ、生産国が、紅茶の国か、衣服のブランドの国か、お砂の国か、寒い国か、海の反対側にある国か・・知りたくもありませんがw (肩書き付…
イースターエッグで企んでる人たちは頑丈だと良いねあのお嬢様は押し付けられた瞬間全力で破壊しかねない
「銀行家というのは他人の金で博打を打つ人たちとみられていた」(ゴルゴ13より引用)時代に逆戻りですね!
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