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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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お嬢様の修学旅行 中等部 五日目 その3

 サント・シャペルの一室で顔を拭いていると爆発音が聞こえ、エヴァに押し倒されたと同時に悲鳴も聞こえてきた。


「お嬢様は無事! 繰り返す!!

 お嬢様は無事よ!!!」


「セーヌ川で複数の爆発音!」


「避難マニュアルに沿って避難誘導を!!」


 私を押し倒したままエヴァが指示を出す。

 情報が洪水のように押し寄せてくるが、エヴァに押し倒されたままなので身動きが取れない。


「修学旅行生は全員無事です!」


「セーヌ川の浮遊物が爆発したとの情報が!」


「サント・シャペル館内に不審人物なし!!」


「エヴァ! ちょっと……重い……」


 ジタバタしてやっとのいてくれたが、目は完全に警戒を解いていなかった。

 私でもわかる。このテロの狙いはおそらく私という事が。


「改めて、お嬢様。ご無事で?」


「ええ。みんなを連れて逃げる事はできる?」


「無理です」


 分かってはいたが、即答されると寂しいものである。

 みんなと住む世界が違うと言われているようなものだからだ。

 そんな寂しさを押し殺して、私はエヴァに尋ねる。


「最善と思える手段で、私を含めた全員を無事に逃がして頂戴」


「そのご命令承りました」


 エヴァは私に笑顔を作る。

 本当かどうか分からないが、少なくとも不安を煽るような顔を私に見せないのはプロだなと素直に思った。


「シテ島にはパリ警視庁があります。

 お嬢様はそちらに避難していただくことになります」


「みんなは?」


「地下鉄のシテ駅から島外に脱出という事になるでしょう。

 ルートについては別行動になりますが、ル・ブルジェ空港で落ち合うことになるでしょう」


 部屋の周囲を見ると、エヴァの他に側近団の久春内七海が私に化けようとしていた。

 入口の側には遠淵結菜、秋辺莉子、イリーナ・ベロソヴァ、グラーシャ・マルシェヴァ、ユーリヤ・モロトヴァの四人が共に護衛用の盾を持って控えている。


「お嬢様。私がお嬢様の代わりになりますので、お着替えください」


 たしかに制服では目立つとはいえ、何に着替えるのかと渡された服を見て一言。


「これ、明日香ちゃんの松山の学校の……」


「夏休みにいただきまして。

 人数が多いので、一人二人の差は多分わかりません。お早く」


「あー。ちょっといい?」


 その声は、入口の外から聞こえてきた。

 露骨に警戒する側近団の五人相手をよそに、神奈水樹は私に向けて声を届ける。


「開法院さん。連れて行った方がいいわよ」


 その言葉に頭を抱えるエヴァと側近団の五人。

 隠密行動には間違いなく向いているのだ。

 ただ、蛍ちゃんの不思議ぱうわーに頼りきっていいのかどうかという所での葛藤が手に取るようにわかる。

 ここは、私が言わねばならない所だろう。


「蛍ちゃん。お願い。

 エヴァは、蛍ちゃんの手を握っておいて。三人で逃げるわよ」


(お役に立ちますのポーズ)


「わかりました。

 開法院様もお着替えを。

 五分後に修学旅行生をシテ駅に向かわせます」


 かくして、ここで皆と別行動である。

 すでにこちらの警備陣とパリ警視庁の警官が避難誘導を行っていた。

 セーヌ川にかかる橋はすべて封鎖され、地下鉄は電気を切られた上で線路上を避難する形となり、修学旅行生だけでなく避難民も集まって大混雑していた。


「そろそろ行きますよ」

(こくこく)


 蛍ちゃんの左手が私、右手がエヴァである。

 避難民を避けるために、サント・シャペルの礼拝堂の中を突っ切って行くのだが、のんびり見物している時間なんてある訳もなく。

 パレ通りからリュテス通りを経てパリ警視庁へ。

 着いたと気を抜こうとしたら、エヴァが蛍ちゃんと手を繋いだまま私と蛍ちゃんに囁く。


(気を抜かないでください。

 我々は、パリ警察内部に内通者がいる可能性を疑っています)


(びっくり)


 蛍ちゃんのびっくり顔に対して私はというと、ありそうだよなーとは思った。

 これがサスペンス映画なら、あと一・二幕どんでん返しがあると踏んだ方が気が楽ではある。

 とはいえ、このままかくれんぼモードの蛍ちゃんの力がどこまで持つかわからないのも事実。


(私だけ解いてください。セーフエリアにご案内します)


 そう言ってエヴァが一人離れて私たちを中庭の駐車場に案内する。

 端に止められていたワゴン車にエヴァが入るのに合わせて私たちも入ると、私たちの姿が急に現れたように見えたエヴァの元同僚の方々がびっくりしていた。


「わーお。彼女たちどこから現れたんだ!?」

「それは後で。状況は?」

「良くはない。フランス側の内通者が誰だかわからないから、こちらも助けを求める事ができないんだ。もっとはっきり言おうか。

 我々の中にも内通者がいる」


 英語での会話で蛍ちゃんはきょとんとしていたが、私はしっかりと聞いてその状況の悪さに頭を抱えそうになる。そして、私が理解している事を分かった上で、元同僚はエヴァにこんな事を言ったのである。


「なによりもおかしいのは、この状況になってもフランス政府がお嬢様をルーブル美術館に受け入れたいと言い続けてる点だ。こっちの解析では、この爆弾テロはお嬢様がルーブル美術館に入る予定だった時刻に起こされた可能性が高い。間違いなくルーブルに何かあるぞ」

シテ駅

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%86%E9%A7%85

素敵ワードをご紹介

『駅開業までの間、列車はこの工事中の駅を通過していた。 かつては、隣接するパリ警視庁や現在の入口から数十メートル離れたパレ・ド・ジュスティスに通じていたこともあった。パレ・ド・ジュスティス内にあるかつての入口は現在も見ることができるが、安全上の理由で、30年ほど前からはほとんど使われていない。これらの地下通路は、特に第二次世界大戦中に避難のために用いられたともいわれている。』


パリ警視庁

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AA%E8%AD%A6%E8%A6%96%E5%BA%81


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― 新着の感想 ―
蛍ちゃんの「お役に立ちますのポーズ」ってどんなポーズ?
お嬢が在学している学園は社会的地位のある人の子弟が多く通っていることになっています。 ここで問題になるのが、おおむね社会的地位のある人ってのは子どもとの年齢差も大きいのです、こちらの母校も世間的には…
古物蒐集にハマっている身からすると、お嬢は美術品の相対取引と遺品整理には絶対係わらざるを得なくなると感じています、高額な美術品は見えている市場でやり取りしているものもありますが、本当に良い美術品という…
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