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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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東京—ウォール街国際電話

「何が起こっているんだ!?」


「落ち着いて。ミスター岡崎。お嬢様は今のところ無事よ」


「……わかった。すまない。

 ミズ・サリバンに怒りをぶつけても解決しないことは分かっているが……」


「私もウォール街じゃなかったら、ワシントンDCで暴れ散らかしているわよ」


「あんたが仕掛けた事ではないのは分かるが、何処が何のために仕掛けたか分かるか?」


「たしか貴方の言葉だったと思うけど?

 『仕掛けが大仕掛けになったんじゃない。複数の意思の関与で仕掛けが大きくなってしまった口か。多分、全員がレイズし続けて降りれなくなったポーカーみたいなもの』と」


「……あれか。

 分かっているプレイヤーは?」


「まず、お嬢様をロシア帝国女帝にしたい連中。

 ノルドストリームを作りたいのがここ」


「イースターエッグをお嬢様に押し付けようとした所か?」


「それが違うのよ。

 ロシアには建前というロジックは基本存在しないのよ。

 力が全てだから、むしろロマノフ家すら彼らにとってはそれほど大事ではない」


「ああ。そいつらなら、今のお嬢様を女帝として戴冠させるからイースターエッグとかも考えないと」


「で、もう少し建前を用意する連中。

 欧州の魔女たちが組んでいるのがここなんだけど……中が割れているのよ」


「桂華の中ですら派閥や足の引っ張り合いがあるんだ。あって当たり前だろうな。

 で、何個に割れているんだ?」


「なんと四つ。

 まずはロシアと組んでいる奴で、最初の連中が軍を中心とした保守派ならば、これは旧KGBを中心とした諜報系と組んで、お嬢様の資金でノルドストリームを作りたいと思っている」


「最初のと何が違うんだ?」


「これはロシア現政府の主流派でもあるから、お嬢様がロシア女帝となったら実権をうしなうのよ。

 だから、ロシア女帝を求めてはいない。

 桂華グループのロシア開発のパートナーもここで、ノルドストリームの出口に当たるドイツが主に繋がっているわ」


「なるほど。次の連中は?」


「欧州統一を夢見つつ、ドイツにでかい顔をさせたくない連中。

 具体的に言うと、イタリアやフランスやバチカン。つまり欧州のカトリック系」


「あー。ドイツはプロテスタントか」


「そう。だからお嬢様に接触してきたあの御曹司が所属しているのはここなのよ。

 同時に、イースターエッグを渡そうとする仕掛けを考えたのもここ」


「の割には、ここも中割れてないか?

 ヴェネツィアのあれとパリのこれとは明らかに仕掛けが違うぞ」


「その懸念は正しいわ。たぶん、反ドイツで組んでるだけで中の意思疎通ができていなのよ。

 イタリアとフランスでここが二つ目と三つ目」


「……大きな組織はうちもそうだけど、中がどうしてこう荒れるんだか……」


「四つ目が英国系。

 あの国は地政学的に欧州の統一を許容できないから、欧州統一の象徴になりかねないお嬢様が欧州に帰る事を基本的に望まない。

 南イラク首長国という米国国務省試案の出所が英国なのはこんな理由があるのよ」


「で、そいつらはまだロンドンで出番を待っていると。

 他には?」


「馬鹿たちでお嬢様を害そうという連中。

 あなたと組んで派手な仕手戦で大勝利を収めたお嬢様を憎んでいる連中は、ウォール街とロンドンにかなりいるのよ。

 殺して日米露三国の敵視を受けたくはないが、いやがらせぐらいなら喜んでという連中が、本気で害したいイラク中部の宗教過激派を支援してこの様よ」


「なるほど。

 あの爆発でお嬢様が無事なのは、誰の仕掛けか知らないが、ミスだったと?」


「ええ。たぶんあの爆発はお嬢様がルーブル美術館に入った後に爆発する事になっていた。

 つまり、本来はルーブル美術館で何か起こるはずだったのよ。

 今、お嬢様たちはシテ島のサント・シャペルに避難している。

 逃がそうと考えているけど、暴徒がテロの混乱にかこつけてルーブルに向かっているわ。

 仏政府はテロ鎮圧を名目にNATO軍の出動を要請したけど、まだお嬢様のルーブル受け入れを要望しているとか」


「何を求めてるんだ……あー。大統領選挙の投票が始まるからか」


「すでに欧米ではこのニュースがトップ扱い、市場も大混乱中でCDSの仕掛けでどれだけの金が流れるか見当もつかないわ。

 その上に誰もこの狂った茶番劇の落しどころが見えていないのよ……」


「舞台はミスキャストで一杯、誰もその役を望んじゃいないのにな。

 素敵な話じゃないか。これが俺達のマネーゲームってやつさ。欧州の魔女たちはこの間お嬢様が壊滅的打撃を与えたのと同じルールで今度は俺達がどんなマネーゲームをするのか、それを見たがっているのかもしれんな……」


「ミスター岡崎。えらく感傷的で何処かで聞いたことがあるようなセリフね?」


「お嬢様が見ていた映画のセリフをアレンジしたのさ。

 で、マネーゲームには裏で金を用意する銀行が必要なんだが、何処か分かったのか?」


「ええ。敵対的買収を繰り返しつつ英国トップの商業銀行に成長し、米国でも有数の支店網を持つ世界有数の金融機関グループ。王立エディンバラ商業銀行。

 ここ、拡大路線をひた走った結果、のれん代に苦しんだ上にお嬢様の仕手戦にやられて巨額損失を出しているわ。

 そして、例のCDSの仕掛け人でもある」


「なるほど。

 だが、赤字を出しつつもCDSにまで手を出すって自転車操業過ぎるぞ。

 これ、他の連中も何か悪さをしていないか?」 

舞台はミスキャストで一杯

『パトレイバー2』の荒川のセリフ。

 元はこんな感じ。


「舞台はミスキャストで一杯、誰もその役を望んじゃいないのにな。素敵な話じゃないか。これが俺達のシビリアンコントロールってやつさ。柘植は3年前自分の部下を死なせたのと同じルールで今度は俺達がどんな戦争をするのか、それを見たがっているのかもしれんな」


王立エディンバラ商業銀行

 元ネタはロイヤルバンク・オブ・スコットランドとHBOS。

 ネタバラシ。

 パナマ文書とLIBOR不正操作に連鎖します。

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― 新着の感想 ―
CDSを食べまくったロンドンの鯨だったJPMとベアリングス銀行のオプショントレードを想像しちゃった どちらにしても展開は不穏
第三次世界大戦ってこんなふうに起きるんだろうなあ(他人事)
パナマ文書…、下手するとムーンライトファンドの全貌が明らかになっちゃうんじゃ。
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