TVを見た某所某職員の反応 パリ編
出発前投稿。
後で加筆予定。
「あのマカロン何処から飛んできたんだ……?」
完全不意打ちでマカロンを突っ込まれた桂華院瑠奈公爵令嬢が慌てて警備に囲まれながらサント・シャペルへ避難してゆく。
今頃現地警備員はマカロンを投げた犯人探しに奔走しているのだろうが、無線を聞いている限りだと犯人は未だ見つかっていない。
「お嬢様のルーブル美術館入りのスケジュールを繰り下げろ。
一時間は遅らせるんだ」
「警備員とスタッフの身元チェックを再度行え!
あんな事をする奴が何処かにまぎれている以上、他にも居るぞ!!」
現地の修羅場を無線で聞きつつも現在進行形で進んでいるパリの暴動にも視線を向ける。
パリ北部の暴動は未だ治まっておらず、暴徒はレピュブリック広場にまで迫り、威信をかけてルーブル美術館へご招待するはずだった桂華院瑠奈公爵令嬢には何処からかマカロンを突っ込まれる顛末にエリゼ宮の主はついに軍の投入を決断。
待機していた米国コマンド部隊にも協力要請が出たあたり、フランス政府はここにいたって面子を捨てて鎮圧に動いたという事なのだろう。
もちろん面子を捨てた訳だから責任問題が発生する訳で、既に内務大臣が鎮圧後に辞任を表明。
それだけで収まる訳もなく、首相が辞職を表明する記者会見を夕方に開く事が既に関係各所に伝えられていた。
「で、コマンド部隊は?」
某職員のやつれた顔にコマンド部隊より派遣された士官は状況を説明する。
テロ攻撃の名目で、NATO軍としての出動になるのだが、テロとの戦いからイラク戦争を経て米仏間が冷え切っている今、この出動はフランスの全面降伏を意味していた。
「ル・ブルジェ空港に展開し、退路の確保に動いております。
我々が後ろを守り、正面は仏警察と軍が出る形です。
我々も大統領が辞職する事は望んでいませんので」
国家の付き合いというのはこういう所に面倒くささがある。
利害関係が対立しても、国という秩序を維持しなければならない身だからこそ、暴徒やテロには毅然と対応しなければならない訳だ。
あのマカロンテロがどうも自作自演であるというのは、桂華院瑠奈公爵令嬢の護衛であるエヴァ・シャロンが暗号無線でこちらに送ってくれたからこそ胃が痛くなる事はないが、同時に手を出す以上は暴動を鎮圧する責任が彼らにも出た事を意味する。
「わかった。
とにかくバカ騒ぎを終わらせるぞ。
レピュブリック広場の暴徒の動きは常にチェックしておけ。
そこからルーブルまで一キロも離れていな……」
彼の台詞が途切れたのはセーヌ川でたて続けに水柱が吹きあがったからである。
悲鳴に割れるガラス。どうみてもこれは本物のテロだった。
「何が起こった!!!」
「わかりません!
セーヌ川の漂流物が爆発したと……」
「お嬢様は無事! 繰り返す!!
お嬢様は無事です!!!」
最悪の状況に最高の報告が飛び込む。
彼は自然と安堵の息を漏らすが、モニター向こうの状況は変わらない。
彼は専門家であるコマンド部隊の士官に質問する。
「ヘリで脱出させる事は?」
「難しいでしょう。
まだテロリストがいる可能性があります。
セーヌ川の漂流物を排除しないと、シテ島から出すのは難しいかと」
「お嬢様をシテ島に閉じ込めた理由は?」
「テロリストがいるならば、間違いなく捕まえての籠城」
「……地下か」
パリの地下は大都市特有の地下鉄だけでなく、カタコンベや第二次世界大戦時のレジスタンスの秘密通路などでその全貌を知る者は少ない。
それを使っての陰謀に彼は心当たりがあった。
「ついてこい」
彼は士官を連れてジャンダルムリの幹部を捕まえると首を絞めて脅す。
「言え! 『キャンプ・ニクラウス』は何をしようとしていた!!」
「テロじゃない! 信じてくれ!!
あれは我々の仕掛けではない!!」
他の職員から見られないように彼のオフィス内での脅迫。
他の職員を呼ぼうと思えば呼べたが、捕まえて『キャンプ・ニクラウス』の事をばらされたら幹部自身の身が危なくなる訳で、彼はこの時点で詰んでいた。
「だったら全部吐け!
お嬢様が害されたら、俺たちだけでなく貴様もただじゃ済まんのだぞ!!!
なぜ、お嬢様をルーブルに向かわせようとした!!!」
「……お嬢様にイースターエッグを渡す為だと聞いている」
全ての情報は与えられていないが、ここで漏らす事でこの後起きる引責辞任の嵐からの命綱になるように、推測込みで話す。
そんな暗黙のサインを某職員はしっかりと理解していた。
「イースターエッグ?
復活祭の卵にどんな意味がある!?」
「……ただのイースターエッグじゃない。
インペリアル・イースターエッグ。
ロマノフ家に伝わる至宝の一つを渡そうとしたんだ」
何かあると思っていたが、出てきたのは想定外の大物で某職員も顔を引きつらせる。
彼の持っている情報と組み合わせた瞬間、この仕掛けがとんでもない大陰謀で、それが破綻しかかっているのを嫌でも理解した。
「そんな卵にどんな意味がある?」
「渡そうとしたのは51個目のイースターエッグ。
ロマノフ家が国を追われた際に利用する事を目的として、スイス銀行の秘密口座の凍結解除キーになっている。
ロマノフ家の血を引く者が、それを持ってスイス銀行のプライベートバンクに行く事が口座凍結解除の条件になっていたんだ……」
「51個目?
そんな卵がどうして今まで出てこなかった?」
「……おそらく、ロシア革命後ユダヤ系金融機関に預けられたそれをナチスが奪い、第二次大戦のどさくさでそれは失われた。
だが、凍結されたスイスのプライベートバンクの口座はそのまま金をため込み、利子が利子を産んで今なおそこにあり続けている。
その金を使いたがっている連中が居るんだ」
「意味がわからないぞ!
その閉じたプライベートバンクの口座とお嬢様へのテロがどう繋がるんだ!?」
「だから、テロは別口だ!
おそらくは中部イラク、ファルージャの状況打開に宗教過激派が煽動したんだよ!!
それに乗っかる馬鹿どもを押さえそこなった……」
「はっきりと言え!」
「……今、馬鹿をしているテロ連中がお嬢様を害する理由は一つだ。
ロマノフ家の財宝をお嬢様が開けて手にした瞬間、お嬢様のムーンライトファンドと一体化する。
その上で、お嬢様が死んだらロマノフ家の財宝返還を名目に有象無象が集りに来る。
そっちの仕掛けとバッティングしたんだよ!!!」




