お嬢様の修学旅行 中等部 四日目 その3
水上バスに乗った私たちを待っていたのは、知らないイタリア人のテレビカメラだった。
あー。このノリ、テレビで味わったことがあるぞ。
「何でいるの?あれ?」
「地元警察の取材許可証持っていたんですよ……おまけにテレビ局は首相が持っている局で……」
ユーリヤ・モロトヴァのおこ顔に、イリーナ・ベロソヴァが苦虫をかみつぶしたような顔でつっこむが君たち仲いいだろう?
そんな事を思いながら我々学生の白眼視を気にすることなくイタリア人レポーターは私にマイクを向けて言い切る。
「公爵令嬢。
我々は貴方に事実を伝えに来ました」
「事実?」
考えてみれば、この時にこのレポーターの術中にはまったのだろう。きっと。
水上バスに積まれた箱から取り出したたくさんのイタリアンドルチェを見せながら、こんな事を言ったのである。
「はい。
公爵令嬢。クリームは顔に付けるものではありません。
食べるものです」
「ぷっ!」
笑ったら負けである。
私の笑いに一同に笑いが広がるのにそう時間はかからなかった。
かくして始まるイタリアスイーツ試食会。
もちろん毒見はOKにしてもらったが、毒も入っておらず、出てくるお菓子は美味ばかりでコーヒーまでついてくる。
ドッキリの仕込みだろうが、ここまでもてなされれば気分もいいというもの。
「このマリトッツォ美味しい!」
「ティラミスも本場なだけあって美味しいよねー」
「パンナコッタこっちが本家なのか……」
「お菓子とコーヒーがまた合うな」
わざわざこの仕込みの為に職人を乗せるあたり彼らの本気度がわかる。
それを当然カメラが全部捉えている訳で。
「ここまでする?」
「これが流れると売り上げが最低で倍になるなら当然では?」
私のぼやきに劉鈴音が突っ込むが、この手のノリは日本のテレビで散々味わったので私も慣れたもの。
周りに警備の船もあるし水上バスは目的地のマルコポーロ国際空港へのんびりと進む。
「あれ?スピード遅くない?」
「撮影の尺が足りないので頼んでスピードを落としてもらっています」
「ああ。わかったわよ。もぉ……」
イタリア人レポーターの笑顔に私はげんなりしつつも苦笑するしかない。
こうなると私の芸人部分がむくむくと頭をもたげる訳で。
「なんならパイ顔からかぶるわよ」
「それすると、青い血の皆様が怒るんですよ。
ですから、『食べている際に』『クリームが口からはみ出る』ぐらいの絵が欲しいんですけどね」
「ちなみにいくら賭けたのよ?」
「借金してオールインを」
「あははははははは」
繰り返すが笑ったら負けである。
イタリア人は陽気とは聞いたが、こんなノリで話されたらそりゃサービスもしようかなという気になる訳で。
マリトッツォをパクリと大口で食べつつ、クリームが口元につくサービスをしてあげたのであった。
そんなこんなでマルコポーロ国際空港に到着したのだが、なんか明らかに空気が重たい。
警備員が完全武装でお出迎えしているし、他局のカメラなのだろう報道陣もかなりいる。
で、水上バスが岸について我々が降りると、重武装の警官たちがわれ先に突貫しているしレポーターたちの声も……ん?
「たった今、シージャックされた水上バスから公爵令嬢たちが降りてきて、解放され……」
シージャック???
と我に返る前に、メイドゆえに水上バスに乗っていなかったエヴァに引っ掴まれて安全が確保された部屋に。
「な、何事!?」
「お嬢様。よく聞いてください。
お嬢様があの水上バスに乗っていた間、あの水上バスはシージャックされていた事になっています」
「し、シージャック?
私たちは、あの水上バスでイタリアスイーツを堪能していただけよ?」
「はい?」
私の説明で突拍子のない声をあげるエヴァ。
なお、水上バスの船員たちはおとなしく捕まり、スイーツを堪能していた間の外と私の言葉が真実と分かると同時に頭を抱える私とエヴァ。
「スイーツ堪能ツアーで尺が足りないから速度を落としていたけど、無線封鎖してガン無視していたって……」
「元々の船員が縛られて転がされて、別の船員があのテレビクルーを入れたって……」
せいぜい一時間の予期せぬスイーツツアーは欧州主要市場の大暴落と、パパラッチ(テレビクルーでないのがポイント)の暴走と解決が流れた事で急騰というジェットコースターを生み出し、私は飛行機に乗る前に釈明会見を開く羽目に陥ったのである。
なお、なーぜーか、突入した警官たちに押収されたカメラフィルムがその日の夜のニュースに流れた事で、イタリアスイーツがブームになったのだが、それについて私はコメントを控える事にする。
とにかくそんなハプニングがありながら私たちはイタリアを後にしパリへ。
もちろんパイ投げコントなんてさせてもらえる訳もなく、ホテルに直行と相成ったのである。
敗因
某地方番組のノリで接触されると、それがテロの仕掛けと気づかない。




