TVを見た某所某職員の反応
「誰だ!あの鐘を鳴らした馬鹿は!?」
鐘というのは時間を告げるのだからきりのいい時間に鳴るものである。
その時間ではないことに気づいた某国某職員は警察署内で絶叫する。
なお、人は音がする方向に振り向くものである。
「たかが鐘じゃないですか。時間になれば鳴りますよ」
その某職員を歓待という名目で監禁していた地元警察官の現場認識は甘い。
えてして人というものは、その時において日常に近いものを受け入れる傾向にあるからだ。
時間がずれていようが、誰かが鳴らしたのだろう程度にしか捉えられない。
「信頼できるものがついているので不審者は入りませんよ」
「鳴らした事そのものが問題だろうが!
対象がこっちを向いて……何をするんだ?」
「〜♪」
頭を抱える某国職員と歌声に聞きほれる地元警察官。
ついにテレビを指さして某国職員が怒鳴る。
「何やっている!?
あのテレビ中継を止めさせろ!」
「たかがお嬢様が歌っているだけじゃないですか」
このテレビのチャンネルはイタリア首相の影響下にあるチャンネルだった。
そのせいもあってか、イタリア国内において彼女の独占的中継を行っており視聴率はうなぎのぼりになっていた。
何か起こればそれすらニュースにできるのだから、イタリア国内において彼らの動きは警備陣にとって目の上のこぶになっていた。
「たかが?
場所が特定できて姿が見える事がどれだけやばいのかわからんのか!」
「米国人はせっかちですな。
しかし、あの美声は本当に『21世紀のサラ・ベルナール』にふさわしい」
後にこの放送の視聴率は驚異の38.6%にのぼり、翌日の欧州の話題になるのだが某国職員は気が気でなかった。
絵になるという事は、このタイミングで狙撃されたら歴史に刻まれる一撃になるという事でもあるのだ。9.11のように。
「そんな事を言っている場合か!」
激昂するCIA職員を尻目に地元警察の動きは緩慢なことこの上ない。
地元警察が買収されている可能性は囁かれていたが、ここまで露骨にサボタージュしてくるとは思っていなかったのだ。
そして、恐れていた事態が発生する。
「旧ユーゴ側からラジコン飛行機らしきものがヴェネツィアに向かって飛んでいます!」
「落とせ!騒ぎを起こさせるな」
お嬢様周辺の警備は地元警察やカラビニエリに睨まれてできなかったが、その分外周に観光客に紛れ込んで職員が、さらにヴェネツィア沖合で観光客用のヨットや漁船を用いて警戒を続けていたのである。
米国側警備陣の無線報告に即座に撃墜指示を出すCIA職員に地元警察は不快感を隠そうとしない。
「あまり勝手なことをしてもらっては困りますな。
たかが、ラジコンではないですか」
「あれに毒ガスなどが積んでいたらどうする?
サンマルコ広場が地獄になるぞ」
「なりませんよ。近づく前に電波が届かずに落ちるでしょうし、ヴェネツィアは海風が常に吹いている。
ガスなども散ってしまうでしょうな」
(……自作自演のテロか?
パイをぶつけると意気込んでいた馬鹿どものヴェネツィア侵入報告があるから、テレビのハプニングとして流すつもりか?
ばかばかしい……)
たとえ、それが事実でもそれを口にすれば関係は決定的に悪化する。
お役所仕事は面子と書面が全て。
CIA職員は最後の自制心で告げる。
「話にならん!上を呼べ!上を!!」
「その上ですが、首相じきじきに大統領にお断りしたはずですがね?」
ことここに至ってCIA職員ははっきりと地元警察の緩慢な態度に意図を感じざるを得なかった。
桂華院瑠奈公爵令嬢がテロにでもあえば、地元警察の上層部どころかイタリア首相すら引責辞任に追い込まれかねない。
だからこそ、ローマでははっきりと守っていたのにその動きの鈍さはどういう事だ?
(……もともと今のイタリア首相は黒い噂が多い。その噂の中に『キャンプ・ニコラウス』との繋がりもあったと聞く……イタリア首相の首を差し出してまでテロを起こさせる腹か……?)
目撃されたラジコン飛行機は電波外距離でも平然と飛び続ける。
地元警官が怪訝な顔をするのをCIA職員は怒りも込めて解説する。
「そんなに不思議か?
電波を受ければ飛び続けられる代物だぞ。
コントローラーが複数あったら引継ぎもできるだろうが」
「こちら警備艇。対象をスナイパーライフルで落とした。
残骸を回収する」
「近隣の船は電波の発信源を特定しろ!
飛ばしたクロアチア側にも人員を派遣しろ!!
さっさとお嬢様をサンマルコ広場から逃がせ!」
さすがにここにいても仕方がないのでCIA職員が部屋を出ていこうとするが、その場に別の地元警察官が飛び込んできた事で、CIA職員はラジコン飛行機の意味を知る。
「大変だ!
水上バスの運転手が職場のトイレで縛られているのが発見された!!」
「なんだって!?
じゃあ、今、お嬢様が乗り込んだ水上バスは誰が運転しているんだ!?」
後日、撃ち落としたラジコン飛行機には何も積まれていない事が判明し、操縦者たちも『金をもらってこの方向に飛ばせ』という指示しか受けていなかった事が判明する。
これ書く為に『ゴッドファーザー』を軽く見たんだが、断れないオファーを巧みに出したのだろうなと思ったり思わなかったり。
なお、『ゴッドファーザーPART III』の仕掛けはモロに現実……げふんげふん……




