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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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カラビニエリローマ本部にて

一体どこの秘密結社なのだろう……(棒)

「お嬢様がホテルに戻ったそうだ」

「警戒態勢をホテルの警備にシフトしろ」

「自治体警察への文句はちゃんと言っておけよ!

 馴染みだからってスリ連中に買収されやがって……」

「妙な動きをしていたマフィア連中に脅しをかけておけ!」

「明日はローマからヴェネツィアだ。

 対テロ部隊も向こうに移動させるぞ!!」


 どこの国でも他国の組織が好き勝手しようものなら激怒するのが警察と言うものである。

 イタリアにおいて結果的に囮として利用する形となった桂華院瑠奈公爵令嬢の存在は、何かあったらイラク戦争を巡る米国と欧州の軋轢を増すだけでなく、現在行われている米国大統領選挙すら変えかねない劇薬だった為に、米国は伊国政府にたいしてかなり強引な内政干渉まがいの申し入れをしていた。


「ですから、米軍のコマンド部隊の出撃を……」

「それについては首相が大統領にじきじきにお断りの連絡をしたはずです」


 イタリア米国大使館だけでなく、お嬢様警備の総司令部であるカラビニエリローマ本部にまで米国関係者がやってきて現地折衝をしている様子は、かえってカラビニエリの火に油を注ぐ結果となったのである。

 そんな米国関係者がオブザーバーとして集められているカラビニエリ本部の一室にメイドが入ってくる。

 お嬢様こと桂華院瑠奈つきメイドでCIAの工作員でもあるエヴァ・シャロンで、修学旅行に内政干渉ぎりぎりで送り込んだ為にお嬢様のご機嫌を損ねているのだが、彼女がお嬢様のお世話をしながらここに来たのはお嬢様周辺の定時報告を行う為だった。


「お嬢様はホテルでお寛ぎになられているわ。

 少なくとも抜け出して遊ぶという事はしないはず。多分」


 この多分に込められたエヴァの万感の思いは他の米国職員には伝わらなかった。

 代わりに誰かが場を和ませる為だろう。お嬢様が諦めた事を成果として呟く。


「そりゃ朗報だ。

 少なくとも、バチカンには出向かないって事でいいんだな?」


「ええ。修学旅行の行動予定では、朝食後飛行機でヴェネツィアに向かう事になっているわ」


 『ローマに来たらサン・ピエトロ大聖堂を見たいわねー』なんて他愛ない思いつきであっても、ロシア正教の庇護者たるロマノフ家の皇位継承有力者がカトリックの総本山であるバチカンを訪れる、という事実が世界に与える波紋は間違いなく大きいのだ。

 それもあって、ローマ遺跡群すらローマ帝国の政治的幻影を与えかねないと危惧し、今回は時間の都合を名目にパスさせたぐらいである。


「で、こっちの連中何か動きはあった?」

「何も。内政干渉だからと俺たちをここに丁重に監禁する程度さ」

(盗聴されている)


 ハンドサインで盗聴器の存在を教えてもらったエヴァは雑談という体で会話を進めるが、その会話の内容に潜ませた情報の暗号強度はカラビニエリの諜報部隊が解読する頃には修学旅行が終わっている程度である。


「誰だよ。あのお嬢様を欧州くんだりまで連れてきた馬鹿は?」


(こっちの諜報機関には妙な動きはないが、マフィアの末端部が動いている。誘拐組織がイタリアに集まっているから事故として誘拐される可能性はかなり高い)


「それ、ワシントンDCで言ったらだめよ。欧州旅行のついでという形でお嬢様はアラスカに寄ったんだから」

(我々の内政干渉に激怒しているのは分かるけど、そこまでして我々の面子を潰すつもりなのかしら? 特ダネの代償に事件の責任でカラビニエリ司令官だけでなく首相本人の首も飛ばない?)


「まさか、帰りもあんな茶番を行うのか?」

(だから、向こうも本気で守っている。首謀者ではないんだろう。つまり、マフィアの末端の誘拐組織に接触した欧州諜報機関が別にいる)


「支持率次第じゃない?

 大統領が再選できそうならしないでしょう?」

(何処よ? その馬鹿は?)


「選挙戦終盤に入ってここからの逆転は無理っぽそうではあるが」

(『キャンプ・ニコラウス』。欧州の魔女たちの中枢で二次大戦の亡霊たちだよ。

 当然カラビニエリだけでなく、我々の中にもシンパが居る)


「……」

「……」


 エヴァとて噂は聞いていた。

 東西冷戦において欧州を東側の手から守った影の秘密結社の噂は。

 それが実在して、しかもその影響力がここまで強いなんてエヴァとて体感するまでよくある冷戦四方山話と思っていたのである。

 歴史は当然過去経由で現在と繋がっているので、こういう所で容赦なく牙をむく。


「そろそろ行くわ」

「お嬢様によろしく。とにかく馬鹿が止まらんから気を付けるように十分言ってくれ」


 エヴァはカラビニエリたちからの敵意と白眼視を浴びつつローマ本部から出る。

 本当に欲しかった情報は、最後の最後に出てきた。


(……馬鹿が止まらない?

 という事は、誰かがお嬢様を害する為に賞金をかけている訳だ。

 奴らの資金源であるお嬢様の思考を模したスパコンはタンカーごとアンジェラが押さえている。

 にもかかわらず、お嬢様を害する賞金がかけられ続けている?

 ……これ、間違いなく別の資金源があるわね……)



https://de.wikipedia.org/wiki/Organisation_Gehlen


カラビニエリ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%83%93%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AA


コマンド部隊の出撃

『パイナップル・アーミー』(作:工藤かずや 画:浦沢直樹 小学館文庫)のオマージュ。

お嬢様の価値はハートランド上院議員よりも当然高い。

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― 新着の感想 ―
欧州の魔女達について色々と書きたいのですが、先ずは書籍版第7巻発売おめでとうございます。 そして第7巻の発売日はJR西日本・福知山線脱線事故から20年。 時系列としては現在のストーリーの翌年になります…
2025/04/25 23:50 瀬戸の住人
使徒を殲滅する人型兵器(たぶんカトリックじゃない)エヴァ・シャロン、ローマに推参! (バチカンに対して) 「お嬢様を賞金首にして!サンピエ壊すわよ!(次回もサービス、サービスぅ!!)」
2025/04/25 06:21 米亭よしは
取り敢えず、社会福祉公社 が出て来なくて良かったと思いました まる
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