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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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ワシントンD.C.某所にて その2

Q なんで前の話にFBIが居ないの?

A 9.11の責任を取らされて大粛清中だから。FBIは大粛清後の2005年に加わる事になる。

 アンジェラが某施設の地下駐車場に向かうと一台の車のドアが開く。

 ついてきたCIA外国指導者分析部長がアンジェラに目線で乗れと合図すれば当然乗るしかない訳で、車に乗ったアンジェラが見たのは、近頃引退を発表した元CIA長官代行の姿である。


(さて、何処までが芝居だったのかしら……)


なんて思いながらもアンジェラがドアを閉めると車が走り出す。

 長いドライブになりそうだと思いながらアンジェラが待っていると、元CIA長官代行が重たい口を開く。


「すまないね。退職後だが引継ぎをしておこうと思って」

「引継ぎですか?」

「そのまま長官に話すも話さないも君の好きにするといい。

 つまるところ、金がなくなった昔話というやつだ」


 元CIA長官代行はアンジェラの顔を見ずに、車窓を眺めて独り言のように呟く。

 30年以上CIAで勤め上げた彼の横顔はワシントンD.C.の車窓と重なって歴史のように重々しい。


「ベトナム戦争で負けて金がなくなったこの国だが、東側は健在で我々の仕事はいくらでもあるのに金がないという事態に陥った。

 そういう中で、自前で金を稼いでくれる口座というのはとても便利でな」


 その自前での前に『マネーロンダリングで』という注釈がつく事をアンジェラは分かっていたが口に出すほどの愚か者でもなかった。

 今、語られているのは双方知らない事にして互いに互いを利用し尽くした悪党とスパイのハネムーンの話なのだから。


「アジアはともかく、欧州は色々とうるさい連中が多い。

 こちらを新大陸人と舐めているかと思えば、それに頭を下げる屈辱も混ざるから金ですら解決できん事もある。

 そういう時は現地に任せる方が話が早くてな」


 アンジェラが息を飲む。

 何を言わんか察したが、そういう事を気にする事もなく元CIA長官代行はあっさりと歴史の闇を言葉にのせる。


「『欧州の魔女たち』は米国が金を出し、マフィアと教会が管理し、欧州の情報機関がそれを使って東側の脅威に対抗するシステムだった。

 白色テロを用いて西側諸国を引き締め、テロの被害を保険でカバーして各国に金を回す。

 誰もが一面しか知らず、知らない事を良いことに各々が対東側で結束する限りは、東側もこのシステム全部を潰すことができない。

 ベルリンの壁が崩れたのには『欧州の魔女たち』の活躍を外して語る事はできんよ。

 ……今は暴走しているがな」


「それが暴走している理由は?」

「東側の崩壊。簡単だろう?」


 永遠に続くと思われた東西冷戦は東側の崩壊という形で終わり、新世紀の現在は想定していなかったテロとの戦いに世界が明け暮れている。


「お嬢様に目をつけたのは?」


「EUおよびNATOの拡大は知っているだろう?

 グルジア共和国の革命についてもだ。

 金もある。王冠もある。物語もある。欧州統一の夢を見たくなるのも分からないではない。

 その口座を誰が管理して、何処と繋がっているのか忘れていたのが今回の話の笑える所だ」


 EUとNATOの拡大は米国の想定以上に進んでいた。

 2004年5月には、チェコ、エストニア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロベニア、スロバキアの10カ国がEUに加盟。

 NATOは1999年にポーランド、チェコ、ハンガリーの三か国が加盟した上で、2004年にはスロバキア、ルーマニア、ブルガリア、旧ソ連バルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニアおよび旧ユーゴスラビア連邦のスロベニアが加盟し東方に拡大していたのである。


「……笑える所とは?」


「最近のマフィアはビジネスマンに転職したらしくてな。

 第三世界への武器輸出に噛んでいるといえば君でも分かるだろう?」


 各々が一面しか知らないという事は、各々が好き勝手しだした時に統制が取れない事を意味する。

 マフィアの第三世界へのビジネスは、第三世界に武器を売り、第三世界から麻薬を購入し、東西諸国に売りつける事で成り立っている。

 特に旧東側諸国の兵器は第三世界で広く使われており、その供給源がEUやNATO加盟拡大諸国と重なるのは偶然ではない。

 アンジェラは、そんな欧州地図の中で外されている国に気づく。

 偶然というにはあまりにも悪意があるみたいに、その国はちょうど大統領選挙真っ只中だった。


「……ウクライナ」


「今の我が国にあの国まで手を広げる余裕はないよ。

 だが、勝手に使える口座があり、勝手に動ける諜報機関があるなら別だろうがね。

 第二次世界大戦の亡霊とか」


 欧州の魔女たちのあまりに深い深淵にアンジェラは息を飲むしかない。

 そんなアンジェラを気にする事なく、元CIA長官代行は過去に向かって呟く。


「我々は何処で間違えたのだろうな?

 ツインタワーに飛行機が突っ込んだ時か?

 湾岸戦争でイラクに攻め込まなかった事か?

 ヨーロッパピクニックを承認してベルリンの壁を壊した事か?

 ベトナム戦争に負けた事か?」


 車が止まりドアが開いても彼の呟きは止まらなかった。

 彼のCIAのキャリアの終点がこの呟きならばあまりにも切なくてやるせない。


「……第二次世界大戦に勝ってしまった事か?

 いや、そもそも参戦しなければ……」




 部屋に戻ったアンジェラは着替えようとして気づく。

 気づいてしまう。


(……白色テロを用いて西側諸国を引き締め、テロの被害を保険でカバーして各国に金を回す……ツインタワーに飛行機が突っ込んだ時か?)


 その白色テロの手駒があのツインタワー崩壊に絡んでいたとすれば、大スキャンダルどころの騒ぎではない。

 そして、ウクライナと同じでこの国も大統領選挙真っ只中だった。


「忘れましょう……忘れるのよ。アンジェラ」


 小さく呟いて、アンジェラは忘れる事にした。

元CIA長官代行

丁度この時期、民主党のCIA長官が辞職してCIA副長官が長官代行として組織を切り盛りしているが、9月に共和党CIA長官が就任している。元CIA長官代行も民主党である。


アメリカ同時多発テロ事件陰謀説

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%8C%E6%99%82%E5%A4%9A%E7%99%BA%E3%83%86%E3%83%AD%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E9%99%B0%E8%AC%80%E8%AA%AC


ヨーロッパ・ピクニック

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%8E%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF


第二次世界大戦の亡霊

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3



ね。筆が遅くなるでしょう。ここ。(血涙)

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― 新着の感想 ―
サアカシュベリの狂犬ぶりは、アメリカが餌を与えて躾をしているにはおかしいとは思ってたけど、資金が東欧の特にセルビア周辺を通ると、まあバルカン人らしいアナキーズムさと気性に資金先もなるのは正直おもろい
割ともはや歴史かなぁと思ってたらまだまだ地続きで過去から手が伸びてくると言う恐怖
ブラックラグーンで張が言ってた通り、皆アンクルサムの太鼓持ちでしかなかったって事なんですかね。
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