東京 桂華金融ホールディングス CEO室にて その2
「当り前の話ですが、現地に金をばら撒くにはドルから換金する必要がありました。
昔は兌換紙幣だった事もあって、金に換えて現地勢力に渡していたそうです。
さすがにこの辺りはまた聞きの話になりますがね」
マークの説明に一条が口を挟む。
マークの話が正しいとするならば、当然しなければならない事があるからだ。
「なるほど。現地勢力への支援については理解しました。
ですが、それだと最後の段階でばら撒いたドルを回収する必要がある。
それはどういう形で?」
「アジアについては簡単です。
満州戦争やベトナム戦争が起こりましたからね。
軍事支援と称して現地に巨額の支援をしてその金で米国製の武器を買わせる。
それも、ベトナム敗戦で持たなくなりましたがね」
ベトナム戦争の巨額の戦費は、米ドル兌換紙幣の終わりの一撃となった。
そして、この一撃はそれから長らく米国の低迷の象徴ともなる。
「とはいえ、こちら側は比較的ましでしたよ。
究極的にはこの国だけを見ればよかった上に樺太銀行という金融機関の隠れ蓑を着る事が出来た。
バブルに踊り、今も苦しんでいるこの国の現状が米国の仕掛けと言われても、私は不思議ではないと返事をしておきましょう」
マークは軽口を叩きながら本題の欧州について語ろうとする際に少しだけ目を逸らした。
橘はここからがかなり危ない話と察したが、それを顔に出す事はしなかった。
「欧州については米ドルをスイスに預けて、それから西欧各国に流す必要がありました。
それに手を貸したのがカトリック教会とイタリアマフィアでした。
第二次大戦時イタリアファシスト政権に弾圧されていたマフィアは、イタリア戦線で連合軍に協力した事で復権の足掛かりを得た。
東側社会主義国家の宗教弾圧に対抗したのはローマカトリック教会で、この二者が水面下で繋がったのは必然と言えるでしょう。
ウォール街でも未だ動いているマネーロンダリングシステムの一番古いやつですよ。これは」
「ちょっと待ってください。
そのようなシステムがあることを米国政府上層部は……」
「『知らないし、知らない事になっている』。
もちろん理由があって、米国の政権交代では上から下まで全スタッフが入れ替わります。
そんな状況でまともな引継ぎが行われる訳もなく、しかもこいつはマフィアにバチカンまで絡む大スキャンダルの火種です。
二人して暗殺されたとある兄弟の事もあるのでしょう。
上は知らないふりをし、そのまま引き継ぎを忘れてシステムだけが動き続ける事になった」
たとえるならば、持ち主が死んだのに金が振り込まれ続ける口座みたいなもので、その口座を探る事はせずにその口座の金は使っていたという訳だ。
「今、そのシステムの管理は誰がやっているのですか?」
「金融ブローカーと呼ばれる連中ですね。
マネーロンダリングの実行者でもあります。
欧州の赤絨毯を歩く人たちはプライベートバンクに資産を預けるまでしか知らないし、知るつもりもありません。だからこそ、身を守れるのですが、結果ブローカー連中が力を持ちすぎる事になった」
橘の質問にマークはあっさりと返事をし、一条は額の汗を手で拭う。
盗聴などの掃除はしているはずだが、間違いなく今のマークの言葉は命がかけられる回答だと理解したからだ。
「つまり、金が振り込まれている限りは好き勝手ができると?」
「ええ。樺太銀行のマネーロンダリングシステムが日の目を見て潰されたのは究極的にはこれです。
この国の不良債権という貧乏くじを引いて、それでも配当を出すためにロシアンマフィアと手を組んで……そこから先は私も命が惜しいのでご容赦を」
一条の確認にマークは飄々と答えるが、聞かなかった事にしたい歴史の暗部にも橘が顔色を変える事はなく、鋭い目で更にマークに問いかける。
「具体的に、どういう形で欧州では金が回っていたのですか?」
「ロンドンって事で察してくださいよ。
……保険です」
その言葉で、察する一条とまだ分からない橘の為に、マークは具体例を出してゆく。
真っ黒な仕掛けの一部を。
「たとえば、スイスから出たマネーは信者の寄付という形でバチカンを経由し、ロンドンに送られて、そこで保険に掛けられる。
たとえば、高価な美術品が政府美術館にあって、その美術品が盗まれたら、当然盗難保険に入っているその政府に盗難保険が支払われる。
ほら。合法です」
そこまで話せば橘でも察する。
むしろ、裏に居た過去から、美術品の価値つり上げも噛んでいた事すら察してしまう。
「そうやって入ったお金は国家予算の中に組み込まれて、米国製武器購入という名目で米国が回収する」
マークが立ち上がって部屋を出ようとする。
話せる事は話したと言わんばかりの彼の後ろ姿に一条が思わず声をかけた。
「待ってください。
話せる話でこれという事は、あなたが知っている話せない事ってどれぐらい深いんですか?」
一条自身その問いに期待するつもりはなく、それでも問いただしたくなった言葉に、マークは薄く笑って部屋を出て行ったのである。
ドルの兌換紙幣の終わり
ニクソンショック
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF
二人して暗殺されたとある兄弟
ケネディ兄弟
ケネディ暗殺の有力説にマフィアがあったりする。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%8D%E3%83%87%E3%82%A3%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E6%9A%97%E6%AE%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6




