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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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お嬢様の修学旅行 中等部 一日目 その2

 私たちの乗った飛行機は無事にアラスカ州のアンカレッジ国際空港に到着した。

 ここで給油してそのまま飛び立つというのが本来の流れだが、政治というものがこれに待ったをかける。


「へー。だいとうりょうきがてんこうとらぶるでこっちにくるのかー。へー」


 予定されていたトラブルなので私のセリフも棒読みになろうというもの。

 そもそも、ここに寄ったのは大統領選挙の応援というのもあったのだから。

 それを聞いた私たちはアンカレッジ国際空港名物のうどんをずるずると啜っていたのだからなおの事である。


「うーん。みんなこのうどんを食べたくなるのかしら?」


 味については正直微妙であるが、まだ日本を出てから半日しか経っていないというのもあるのだろう。

 給油中の待機時間の間、乗客は空港ターミナルビル内で過ごすことが可能で、そこのうどん屋にお邪魔しているのである。


「けど、なんかここは日本らしさがあるよな」

「そりゃそうだ。帝亜よ。かつてアンカレッジの最大客は日本人だったのだからな」

「今やここの最大の客は貨物だって」

「なるほど」


 栄一くんに光也くんと裕次郎くんが説明するが、三人ともうどんを啜っていたのは私がうどんに向かって突貫したからに他ならない。

 なお、ここのスタッフもこの日の為に桂華グループが一時雇用したわけで、素材も日本から持ってきたのだが、旅情もまた味なのだろうと納得してうどんを食べ終わる。


「で、私たちはいつまでここに居ればいい訳?」

「とりあえず到着して大統領が移動しないと動けません」

「へー」


 まぁ、給油が終わるまで時間がかかるし、大統領機がやってくるのだからその後の出発もいろいろ大変だろう。

 こうやってのんびりと待てるのもまた旅情と割り切る事にする。


「しっかし、閑散としているわねー」


 私たちの為にとりあえず稼働させた国際線ターミナルは栄枯盛衰の匂いを濃く残していた。

 東西冷戦終結によってロシア通過ルートが広がると、直行便が次々と開かれ、それに合わせるがごとくこのアンカレッジ経由が廃止されていったのである。

 今は、裕次郎くんが言った貨物便の拠点として栄えているが、旅客便は米国国内便と日本からのチャーター便ぐらいである。

 ん?


「チャーター便?」

「ええ。例の番組でツアーが組まれるほどに」


 ああ。あれかと納得する私。

 放映時まだ私自身修羅場だったのだが、今やあの番組も知名度が増えてツアーが組まれるほどになったとか。

 そんな話を橘由香としながらクマのはく製を眺める。

 さすがアラスカ。人より熊の方が多いというジョークは伊達ではない。


「スイマセン。シュザイヨロシイデショウカ?」


 片言の日本語で現地のテレビ局が取材を申し込んでくる。

 もちろんこれもシナリオありである。

 あくまで、私は欧州に修学旅行に行くのであって、大統領の応援をするためにここアラスカに降り立ったのではないのである。そういう建前なのだ。

 他の修学旅行生を撮りながら、インタビュアーとカメラマンが私の所に真っ先に来たのはそういう事である。ついでにいうと、米国は生活に政治が当然のように入り込む。

 アラスカ州なんて共和党地盤の州ならば、現地テレビ局も当然共和党員なわけで。


「ええ。大統領機がこちらに来るので待ちぼうけを。

 それでもこれも旅の醍醐味ですわ。

 それにしても、素晴らしいですわね。

 こんな地にも大統領はやってくるのですから」


 なお、誰が知恵をつけたか知らぬが、私の隣に立つ橘由香が持っているフリップには『She doesn't know anything』なんて書かれているあたり、あの番組の影響力はかなり大きいらしい。

 ちゃんとリップサービスも忘れない。


「そういえば、貴方は昔共和党大会で『カントリー・ロード』を歌っていたと思うけど?」

「ええ。昔の事です。よく覚えていますね」

「私もあの場所に居てね。あなたの美声は忘れなかっただけだよ」

「それは光栄です。なんなら何か一曲歌いましょうか?」


 今回の仕掛けはこのためにある。

 ただ一曲。たまたま地方テレビ局の取材に答えて歌うだけ。

 それが何処で使われるかをあえて知らないふりをして私は歌いだす。


「~♪」


 『アメイジング・グレイス』。

 米国第二の国歌と言われるこの曲ならばどこに出しても問題はない。表向きは。

 何も知らない修学旅行生がカラオケ気分で地元テレビ局で一曲披露しただけである。


「そろそろ機内に戻ってくださいー!

 安全が確保されたのを確認してから、飛行機が出発しますー!」


 アテンダントさんの声が聞こえたので私たちは機内に戻る。

 大統領機の到着から一時間後に私たちはアンカレッジ国際空港を後にした。

 なお、訓練の名目で米国のF-16二機が私たちの機についてくるそうだが、訓練である。



 その後、その日の集会からモニターで私が歌う『アメイジング・グレイス』が共和党の集会で流れ続け、『内政干渉だろ!』と民主党が裁判に訴えたそうだが、私自身については何もなかった。

アンカレッジ国際空港

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%A9%BA%E6%B8%AF


アメイジング・グレイス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%82%B8%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B9


例の番組

『水曜どうでしょう』北極圏突入 〜アラスカ半島620マイル〜


なお、最近見ているYouTubeでアラスカ旅行に行った人がいるのでご紹介。

見ているのは田舎暮らしとDIYの方である。


田舎暮らしのビル

https://www.youtube.com/@%E7%94%B0%E8%88%8E%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%AE%E3%83%93%E3%83%AB


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― 新着の感想 ―
[一言] 偶然……じゃなくて、訓練だぞ
>なお、訓練の名目で米国のF-16二機が私たちの機についてくるそうだが、訓練である。 実はアンカレッジの近くに在るエルメンドルフ米空軍基地には2004年当時F-15C/DとF-15Eが配備されていた(…
2025/01/30 07:04 瀬戸の住人
男の子三人衆が出るのは久々のような。
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