道化余話 三田守と秋祭り 前編
長くなったので前後編
三田守の朝は遅い。
彼の上司である愛夜ソフィアが近藤俊作と結婚する事になったので、彼女の経営するネットカフェの夜の責任者が空く事になったのだ。
そんな状況でそのネットカフェに住み込みで働く三田守に白羽の矢が立ったのはある意味当然と言えよう。
「おはようございます。副店長。今から上がりですか?」
「そのつもり。軽く寝て昼から出かけるんだよ」
「あー。帝都学習館学園ですか。ご愁傷様です」
元ラブホテルを改造したネットカフェ『ズヴィズダー』の女性スタッフはお金を払っての自由恋愛OKな娘さんたちである。
転がり込んできた三田守が紀伊山地の土地持ち息子と知って露骨なアプローチをかけてくるのも居るが、極上娼婦でもあった北都千春に入れ込んでいるのを知って最近はそれも減ってきたり。
三田守が何で帝都学習館学園に出向くかと言えば、ここにも顔を出す北都千春の妹弟子である神奈水樹が学園近くの神社で巫女をするとかで、遊びに来る神奈水樹の妹弟子となった相良絵梨を連れてきてほしいとの事。
タクシーでいいじゃないかと思うが、神奈水樹のお願いを聞くと北都千春の自由恋愛の代金が割引されるのでホイホイ聞いてしまう三田守。ないすばでぃなのにJCな神奈水樹には手を出さない真面目系クズである。
「つーか、千春姐さん高嶺の花なんだから、私に乗り換えませんか?
万札の束じゃなくて紙一枚で使い放題ですよ♡」
「その紙って婚姻届けなんだろう?」
「店長みたいに縛ったりしませんよ。偽装結婚上等で使い放題……きゃん!!」
「まだ身分証更新してないのね。あんた。桂華が用意するってんだから、さっさと更新しろって言ってるのにもー」
「だって店長!三田くんを旦那にすればそのあたり全部解決じゃないですかー」
北日本併合の混乱から逃れて移住した住民の救済として施行された、本土の人間と結婚する際に本土側の人間が責任を持つ事で戸籍などを用意する救済策はいまだ廃止になっておらず、樺太の現地妻問題として問題化していたのだが、樺太道がケーカを推進した結果として、樺太と本土の戸籍の照合が容易になりこの問題が解決しつつあった。
もっとも、その戸籍そのものを売買する問題は北樺太から流れてくる難民問題と絡んで未だ解決していないのだが。
「おはようございます。店長。後はよろしくお願いします」
「はいはい。少し休んだら行ってらっしゃい。旦那のワゴン使っていいから。
で、イリーナ。あんたはこの後説教」
「店長の鬼!あくま!旦那殺し!!」
「減給も追加ね」
「きゃーーーーー!!」
そんな愉快なコントをバックグラウンドに聞きながら、三田守は与えられた個室に入ってひと眠りをする。
で、起きたのが12時過ぎ。
シャワーを浴びて受付に行くと、殺されたはずの旦那こと近藤俊作が暇そうに受付でカップラーメンを食べていた。
「お疲れ様です。近藤さん。殺されてないじゃないですか」
「誰だよそんな事言ったのは?」
「イリーナさん。『旦那殺し』って」
「ああ。困ったことに当たらずとも遠からずでな……」
近藤俊作の目がそれとなく遠くを見ていた。結婚は人生の墓場とはだれの言葉だったのか、三田守は踏まなくてもいい地雷を踏んだことを悟ったがもう遅い。
「いつの間にか、神奈水樹のお目付け役みたいになったろ。あれ。
で、その縁で千春姐さんや神奈水樹から、神奈一門の手管を教わっていてな。
娼婦復帰の噂まで出る始末だ」
「うわぁ……」
高級娼婦集団神奈一門。その一門の次期後継者候補のお目付け役というのは周囲から神奈一門入りと見られる訳で、娼婦としての愛夜ソフィアは今急騰していたのである。
「この店の借金もあるからな。
桂華グループが色々手を尽くしても、はいそうですかと受け取る訳にもいかんだろ。
『必要なら股を開く』って俺に筋を通して、あれの練習台になっているよ」
「……婉曲なのろけじゃないですか。それ」
「……のろけで終わっているのが救いがなくてな。
『神奈の名前で客の前で股を開かせたくない』んだと。千春姐さんの言葉だから重たいったらありゃしない。おかげで練習台の俺の方が参っちまう」
「うわぁ……」
系統だって相伝されてゆく神奈一門のテクニックと、己の才覚と体で自主的にやってきた愛夜ソフィアとでは相いれる訳もなく、かといって神奈の名前に瑕がつかないように、北都千春と神奈水樹がつきっきりで彼女に指導している映像はAVとして売れるのだが、もちろんそんなのが流れる訳もなく。
「まぁ、お幸せに。
俺は帝都学習館学園に行ってきますので」
「言ってろ。お前もそのうち俺みたいになるんだからな。
ああ。そうだ。無線つけたままにしておけよ」
鍵を投げつけられた三田守はそのまま地下駐車場のワゴン車に乗り込み、帝都学習館学園に向かう。
『無線をつけたままにしておけ』という近藤俊作のアドバイスどおりに、警察無線をつけたままにしておくと、帝都学習館学園に近づくにつれてその異常さが際立ってきた。
(こちら〇〇ワゴン車が通過。ナンバーは……)
(本部より〇〇そのワゴン車は関係者だ)
(北樺警備保障より各員へ。地域コミュニティーへの配慮から、過剰な警戒をしないように要請がされている。繰り返す。過剰な警戒は控えろ。以上だ)
(けどお嬢様来るんでしょう? 襲われたらどうするのよ?)
(襲われたならまだいい。京都の一件の再来になるのを恐れているのさ)
三田守はこの仕事を後悔したが、そこで引き返すほどのクズでもなかった。
#野生の拓銀令嬢
で話が膨らんだので書いている。
真岡イリーナ登場。
キャラ作成者雨宮薫@コントラ·ムンディ氏に感謝。
三田守と結婚できるかどうかは今後次第。




