ロマノフの財宝 その4
リアルパイセン「本が出るので販促よー」
いや。しなくていいので……orz
派手な空中戦をしているが、この話は帝西百貨店の独立運動から始まった桂華グループ解体を狙った仕掛けである。
という事で、火元の帝西百貨店の独立運動にメスを入れる事にした。
三木原和昭桂華鉄道社長と藤堂長吉桂華商会社長以下双方の重役連中を前に、私が決定を通達する。
「桂華鉄道と桂華商会同意の元で、コンビニ部門の取締役を増やします。
それによって不満が出る百貨店部門については新たな飴を用意します」
簡単に言う私だが、その筋書きはもちろん下の方で念入りに根回しされて私の口まであげられたものである。この手の根回しは時間がかかるが、軽視すると大体誰かを敵に回すのである。
「で、飴ですが、欧米の百貨店を買います」
この仕込みをしていたのは岡崎である。
まぁ、儲からない箱モノではあるが、本命はその箱の中にあった。
「そこから欧州のブランドと関係を築き、日本に持ち込む。
帝西百貨店の存在意義をその方向で再構築します」
欧州のブランド。そこに手を入れる。
もちろん、餌は私だ。
修学旅行ついでのお買い物としてはかなりでかいがまぁ必要経費と割り切ろう。
この時期、フランスではブランド企業が抱えていたデパートの売却先を探しており、米国ではネット通販が広がって百貨店の苦境が伝えられつつあった。
最終的には手放すだろうが、これをテコに向こうのブランドと組むというのが筋書きである。
「帝西百貨店の企業価値をこれによって高め、TOBを仕掛けた上で帝西百貨店は桂華鉄道と桂華商会双方の子会社とします。
持ち株比率は49対49で、残りの2%は私自身が保有します。
以上」
私の言葉に一同起立して無言で礼を取る。
どこの殿様かと突っ込んだが、『芝居も大事』という狸親父こと天満橋満桂華商会副社長の言葉に乗ったのである。悪役令嬢ですし。わたし。
まぁ、元から私が手放さなければ意味がない仕掛けである。
企業価値を高めてTOBをしかければ外馬の月光投資公司は利益を得るために株を手放すだろう。
「大丈夫ですか?お嬢様?」
その後別室でため息をつく私に岡崎が声をかける。
藤堂社長に三木原社長、天満橋副社長とかも当然来ているのでここからは身内の話である。
「私は大丈夫だけど、これそっちの身が危ないじゃない。私が言いたいわよ。
大丈夫よね?」
この仕掛けのからくりはこうだ。
コンピューターの私は計算はできるが手を作るのは難しい。
こちらが手を矢継ぎ早に打てばそれを読んで対処はするだろうが、その読み込ませる手に罠があったとしたら?
「イタリアのブランドメーカーのお家騒動はその筋では有名ですからね。
『そのまま映画にできる』と」
今回買収候補にある欧州企業のブランドで起こった華やかかつ映画みたいな殺人事件。
それをコンピューターに読み込ませるというのは欧米のその手の筋からの提案だったりする。
もちろん、私以下それについては反対したが、説得に来たアンジェラの顔はガチだった。
「お嬢様の修学旅行に間違いなくコンピューターは仕掛けてきます。
その上で、アンダーグラウンドの手を読み込ませて選択肢の中に入れる事で、奴らの足取りを掴みたいのです」
読み込んだコンピューターはするかしないかはさておいて、その選択肢を考えるだろう。
そこに罠を張るのだという。
アンダーグラウンドは法が無い為に最後は信用がものをいう世界だ。
そういう所に機械が指示を出してもまず食いつかないが、それに食いつく輩が現れたとしたら?
もちろんその輩がこちら側なのは言うまでもない。
「アンジェラさんも言っていたじゃないですか。
『この策ならお嬢様だけは絶対に安全だ』と」
「かわりにあなたたちが命を狙われるってわかってそれ言っているのよね?」
岡崎の軽口に私が怒気を込めて突っ込む。
こういう手を欧米が出してきたのは、グレートゲームこと米国大統領選挙がいよいよ佳境にさしかかろうとしていたからで、その前に騒動はともかく騒動を作り出すこの機械の私を潰すという強い意志が感じられるからに他ならない。
少なくとも機械の私は、他者を犠牲にする事を許さないなんて考えないし、機械という動けない体だからこそいやでも自分を守ろうとする。これもポイントでそこを突く。
「当り前じゃないですか。それが大人ってものです」
この場を代表して藤堂が言い切る。
最後にこの提案を同意した時、彼の目が山師のそれに戻っていたのは見なかったことにしよう。
「鉄道もその手の脅迫は慣れています。ご心配なく」
三木原社長の声もゆるぎないものだった。
こういう場所に来ている大人たちは少なくとも修羅場の一つや二つはくぐってきたという事なのだろう。
「いや。私だって修羅場……」
一応抵抗よろしく成田空港の件を持ち出そうとして皆の目に黙らせられる私。
両手をあげて降参するのだった。
「わかりました。大人の仕事は大人に任せます。
その代わり。誰か一人でも欠ける事なんてあったら駄目だからね!」
かくして、こちらの罠は仕掛けられ、それにコンピューターは食いついたのである。
元ネタ
『ザ・ハウス・オブ・グッチ』。
以下作者の嘆き。
あ、ネタとしておいしそーだから使おう>>トランプさんのあの写真>>6巻成田空港テロ未遂事件なんですけど……とガチ凹み。
という訳で、『リアルに勝てん』とさじを投げてネタに使う事にした。
あ、6巻とコミカライズ3巻8/25同時発売です。
欧米のデパート
PPRグループがプランダンを2006年に売却。
ロード・アンド・テイラーがこの時期あたりから経営不振に。2020年破綻。
ハロッズがカタール投資庁に買収されたのが2010年。
本命はプランダンかなぁ……




