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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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コングロマリット・ディスカウント その4

 帝西百貨店を巡る騒動は、時間外取引で親会社保有株50%越えの企業に仕掛けた騒動という事でそこそこの経済紙のネタにはなっていた。

 その仕掛け人の月光投資公司は大陸系企業なのを良い事に雲隠れして取材を拒否し、桂華グループ側は防備を固めつつ出方を待つという感じになっていた。

 その間にも帝西百貨店内部のごたごたや桂華鉄道と桂華商会の綱引きなどが分かって関係者が奔走しているのは言うまでもない。

 で、この手のプロであるアンジェラ・サリバン桂華金融ホールディングス北米本部長がウォール街から戻った所で話を聞くことにする。

 桂華金融ホールディングス次期CEOが内定している彼女は、一条が椅子を譲った後財界で活躍するのか政界に引っ張られるのか、橘よろしく桂華院公爵家の中で働くのかを決めた後、今年中にも次期が取れる予定である。


「まず確認しなければならないのは金の出所ですね」

「欧米の小売企業って話じゃなかったの?」


 アンジェラの言葉に私が口を挟む。

 岡崎の話ではそういう事になっているからで、私の確認にアンジェラが言葉を付け足す。


「その小売企業に誰が金を融資したかという話です」


 当たり前だが、数千億円単位の企業買収ともなると大企業といえども資金を賄うのは無理があり、その企業に金を貸す金融機関が背後にいる事が多い。

 むしろ、金を貸す以上仕掛けを組んだりと黒幕ムーブをかますことが多い。


「私が帝西百貨店にしかける場合、おそらく百貨店・スーパー・コンビニを三分割しますね。

 欧米小売企業が欲しいのはスーパーで、コンビニは国内同業他社に売るかMBOで独立させるか。

 多分百貨店も切りますね。土地建物の再開発でデベロッパーに一括なら売れるでしょう」


「バラバラにするのはいいけど、百貨店って売れるの?

 私のブランドつけて必死に赤字回避させているのに?」


「だから、駅前の百貨店を潰してタワーマンションに建て替えるんですよ。

 この国は『都市再生特別措置法』で本格的に土地が動きだしつつありますからね。

 バブル崩壊で下がった土地を買い叩いて再開発すれば、悪くないリターンは得られると考えているかなと」


 そういう仕掛けをする場合、こちらの保有株を考えない場合の必要資金を考える。

 多分一兆円は超えるな。これ。

 私の頭の中の計算を覗いた訳ではないのだろうが、アンジェラはその金額を口にした。


「多分一兆円ではきついですね。余力を持つなら一兆二千億は必要でしょう」


 不良債権処理で散々聞いた兆円単位もなれると当たり前に聞えるから不思議である。

 とはいえ、この金額を一企業が用意する場合、確実に金融機関がバックにつく訳で。


「ウォール街?」

「彼らがいくら強欲とはいえ、去年お嬢様に負わされた大火傷はまだ癒えていませんよ。

 今年春に彼らが動かなかった事がそれを証明しています」

「ならば、欧州かー。

 欧州の何処?」


 米国のウォール街と違い、欧州の場合EUという枠組みの中に各国経済が蠢いているので、微妙に金の出所が違う。

 欧州の金融市場として君臨しているロンドン、欧州中央銀行が置かれたフランクフルト、いまだ孤高を保つスイス等。

 マネーには色がないが、その保管先には国旗という色がある。


「多分スイスですね。

 あまりよろしくない筋の金でしょう。

 私が知っている限り、ウォール街で洗濯機は修理されていません」


 洗濯機とはマネーロンダリングシステムの隠語であり、アンジェラの言葉に何とも言えない顔になる私。

 今年の春からの騒動も元はその手の資金が絡むマネーゲームだった事を忘れたわけではない。

 

「懲りないわね。あいつら。

 私がそれを知って動かないと思っているのかしら?」


 そういう背景なら遠慮なくその喧嘩買ったと言おうとして、私はアンジェラの顔を見てその言葉を呑み込む。

 なんだろう。この感じ。

 突っ込んだらカウンターを食らって負けるような感覚は。

 その私の予感は間違ってはいなかったらしい。


「お嬢様。多分ですが、ここまでは相手も情報を掴まれる事を想定しているかと」

「だとしたら、本命は何処だと?」


 アンジェラは私の言葉の返事とばかりに自分を指さした。

 それは、彼女自身ではなく、彼女が就く椅子のある場所。桂華金融ホールディングス。


「お嬢様はずいぶん前から確信していたみたいですが、恋住総理は本気で郵政民営化法案を通すつもりです。

 それはつまり、郵便局というこの国トップクラスのメガバンクが誕生する事を意味します。

 これを前提に、各金融機関間で買収合併の椅子取りゲームが始まるでしょう」


 誰が言ったか知らないが、この頃からよく言われていた言葉を思い出す。

 『この国でメガバンクは四つ』と。

 郵便局がその一つに座るなら、残り三つを争う事になる。


「残り三つの内、帝都岩崎銀行と二木淀屋橋銀行は確定。うちは当落線上ですが今のままなら座れます。

 帝亜グループに駆け込んだ穂波銀行は解体の話が聞こえるので脱落でしょう。

 これに、マネーロンダリング事件の後始末の後で処分されるだろう樺太銀行が入ります」


「……つまり、うちが穂波銀行と樺太銀行を食べると?」


 ジト目の私にアンジェラは笑顔でウォール街の論理を諭してくれたのである。


「うちを含めた三行を保険や証券、外資や新興企業が食べかねないと言っているんです。

 そのマネーゲームの金が帝西百貨店まで届いている。

 私はそう見ています」

MBO

 経営陣による買収なんて訳される事が多い。

 その際の資金は大体借金となる。


デベロッパー

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%99%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%83%BC_(%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%A5%AD%E8%80%85)  

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本だと株式の大量取引とか大量取得は届け出が必要なんでしたっけ。米国にも似た規則はありそうですが、香港だとやりたい放題だったりするのでしょうかね??? 百貨店とスーパーの違いは、どちらの業…
[気になる点] 一条がお嬢様と出会ってから約10年 一条の次の人生はどうなるのか
[一言] 「郵政民営化法」 我々の現代社会ではゆうちょ銀行は存続し郵政民営化の方針も撤回され失敗に終わったがこの物語ではどのような道をたどるのか
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