面白ビジネス　お嬢様の『枠』売ります　桂華ツーリスト

　桂華グループの桂華鉄道に属する桂華ツーリスト。

　ここには面白いビジネスが存在している。

　その正体とは……

「お嬢様の移動手段の『枠』を売っているんです」

　桂華ツーリストの広報は笑顔で私たちに語ってくれた。

　お嬢様というのは言うまでもない。桂華グループを支配する桂華院公爵家のお嬢様である桂華院瑠奈公爵令嬢の事である。

「お嬢様の移動は成田空港テロ未遂事件から多くの護衛がつく大名行列になってしまいました。

　その為に、大人数をまとめて移動できる機材を押さえておく必要が出てきたのです」

　北海道や山形県に深い縁がある桂華院瑠奈公爵令嬢の移動は、飛行機や新幹線を用いるのだが、その移動費用を航空会社や鉄道会社に支払うのがこの桂華ツーリストである。

「飛行機は桂華グループのAIRHOがあるのですが、お嬢様の為に飛行機を遊ばせる訳にはいかず、遊ばせる為に桂華院公爵家がAIRHOにチャーターするという形で機材を確保し続けているのです。

　鉄道の場合は維持管理している東日本帝国鉄道や北海道帝国鉄道や西日本帝国鉄道、四国帝国鉄道に維持管理費用を支払っており、その桂華院公爵家と航空会社・鉄道会社の間に立って調整をしているのが我々桂華ツーリストという訳です」

　ちなみにお嬢様がチャーターしているものだが、飛行機は成田空港にボーイング747を一機、鉄道は新潟車両センターに485系列車四両編成一つを確保しており、先頃更なる列車を手に入れたという。

　まずは北陸方面で活躍している683系直流・交流50/60Hzの3電源対応改造列車六両編成一つ。

　これは、新常磐鉄道で160キロ運転の試験用として第三セクターより購入したもので、試験の他に485系の置き換えも視野に入れているとか。

　また、北海道帝国鉄道には283系気動車三両編成二つを確保しており、西日本帝国鉄道が鳴り物入りで用意したのは700系新幹線八両一編成。

　四国新幹線の新茶屋町車両基地に鎮座しているその列車は、マニアの間では『お嬢様新幹線(エクスプレス)』と呼ばれているという。

　とはいえ、お嬢様の体は一つであり、これらすべての交通手段を使う事は少ない。

「その為に、私たちが居るのです。

　確実に使わない時期のこれらの飛行機や鉄道車両を鉄道会社に貸すのです」

　桂華ツーリストの広報が楽しそうに種明かしをする。

　お嬢様の移動が発生しない事が確定した場合、それらの移動手段を貸し出すのである。

　例えば、新千歳空港駅改良工事が始まっている北海道帝国鉄道は樺太からの移民と季節労働者の利用によって車両不足が深刻化しており、283系三両編成二つは特急列車の増備車両として札幌-旭川や札幌-函館、札幌-釧路を走り回っている。

　また、AIRHOのボーイング747も普段は貨物機として成田と新千歳の間を飛んでおり、700系新幹線も四国新幹線を走るだけでなく、山陽新幹線として博多まで行く事もしばしば。

「これもお嬢様の移動が事前に分かっているからこそで、急に移動する際に移動手段がないという事が起こらないように、その際には代替機材を確保する事も我々の仕事なのです」

　苦労があったのだろう。この説明の際には桂華ツーリストの広報が苦笑していた。

　一つの例として、お嬢様が住む九段下を走る地下鉄東西線の例をあげてくれた。

「お嬢様が鉄道で移動できるようにと九段下駅から竹橋駅あたりを掘って待避線を確保したのはいいのですが、地下鉄東西線は日本でも屈指の混雑路線で、ラッシュ時間など2-3分に一本の列車がやってくる場所です。そこに特別列車を走らせるのは至難の業なのです。

　その際には車で、もしくはヘリで空港まで向かっていただくのですが、その手配などをする際にはハラハラしましたね」

　関東における桂華グループの大規模な鉄道投資をもってしても、ラッシュ時間の混雑解消には程遠く、それは遠距離の飛行機を使う際にはネックになるのだという。

「確保していた機材はお嬢様仕様の特注品である事もあって、鉄道の旅行客の中にはそれ目当てにわざわざ探して乗るお客様もいるみたいで、嬉しいのとお嬢様が使う際に何か問題がないかをチェックする為に夜遅くまで職員が残る事もあって整備する皆様に我々としては感謝するしかありません」

　との事。

　この枠を買う客も多くは華族や財閥関係者だ。

　おそらく、日本でもトップクラスの贅をこらした内装とサービスを堪能したい裕福層や上流階級はかなり多い。

　また、お嬢様の護衛の移動手段の確保も彼らの仕事だという。

「某地方番組のロケなのですが、東京から博多の深夜バスにお嬢様が乗った際には、護衛のバスが二台とトラックを二両用意する事になりました。

　16歳になったらお嬢様は原付免許をお持ちになるでしょうから、原付整備班もつくのでトラックがさらに増えるでしょうね。

　あの番組についてはお嬢様甘いから……」

　そう遠くない未来、愚痴りながら原付で日本を走り回るお嬢様が見られそうだが、彼らの苦労は尽きない……