お嬢様の夏休み in 愛媛 その6
まだ梅津寺パークがあった頃のお話である。
私たちがなんで明日香ちゃんの地元の愛媛に遊びに来ているかというと……
「海よ!泳ぐわよ!!」
夏のプール授業でそんな話となり、関東あたりでそれをすると色々面倒なのでという事での愛媛である。
とはいえ、ここは松山市の中心部。
さて、どんな海に連れてってくれるのかと楽しみにしていた私たちを次の日迎えに来た明日香ちゃんはその場所を教えてくれた。
「島で泳ぐわよ!」
そ、そうきたかー。
という訳で、電車(私鉄の方は電車なのだ)に揺られてやってきたのは高浜港。
数百メートル先に松山観光港が整備されたのだが、そこまでの移動がそこそこ面倒なので鉄道敷こうという話が出ては費用が高くて消える場所である。
「そのあたり、私に言ったら考えるけど?」
「帝国鉄道系なら陳情するけど、私鉄でしょ?
第三セクター作っての絡みがそこそこ面倒なのと、ここに鉄道敷くなら先があるだろうってツッコミに耐えられないのよ」
「先?」
「松山空港と松山市駅高架化」
「……納得」
松山は鉄道の街でもあるが、それは踏切による交通渋滞の慢性化を伴う事を意味する。
空港から市街地に入る際、結構な渋滞だったのを覚えている。
「松山観光港は関西側のアクセスが良くないのよ。
今治辺りで迂回する羽目になるから。
高速が伸びてきた今、トラックなら西条あたりの港で降ろして、高速で松山へって選択肢に勝てないのよ。
おまけに、これだとそのまま高速を南下して大州、八幡浜、宇和島まで行けるし。
広島との連絡があるからひとまずいいとして、大分とは割に合わないのよね」
地方都市の物流は基本大都市に荷物を送る事で利益を得ている。
大分も松山もその意味では大阪というか阪神圏に荷物を送る事で利益を得ている訳で、大阪行きの荷が西条あたりに集約されると、松山がスルーされてしまう事に危機感を覚えているという訳だ。
「お嬢様。たしかこの前フェリー会社をお買いになりませんでしたか?」
「ああ。たしか、高知のフェリー会社を買ったわね。
水を運ぶために」
橘由香の振りに私が返事をする。
昔、足摺岬あたりでやっていた海洋深層水プラントがテレビで紹介されて大ブレイクを引き起こしたのだ。
瀬戸大橋ができて四国と阪神間の物流がトラックに切り替わりつつある今、松山と同じジレンマを抱えていた高知のフェリー会社が救済を求める声を上げ、うちがそれを受けた形になっている。
元々持っていた大阪航路だけでなく、廃止した東京航路を復活させて、首都圏に海洋深層水と木材を送り続ける事に。
収支的にはトントンというか赤ではあるが、モーダルシフトの実例として近く出来上がる炭素債の材料の一つになる予定である。
話がそれた。
そんな訳で、高浜港から連絡船に乗ってやってきたのは興居島。
対岸の海水浴場にはここから人が見えるぐらい海水浴客がたむろしていた。
「こっちは人がすくないわねー」
「だから警備がしやすいんです」
持ってきたトレーラーハウスで着替えながら私が漏らすと、鳴地湯姫さんが説明する。
というか海水浴場が貸し切りである。
まぁ、公爵令嬢が泳ぐのだからさもありなんというべきか。
「いっちばーん!」
とばかりに砂浜に出る。と、そこには水着姿の美少女たちが。
なお、私の水着は帝西百貨店のブランド『ティル・ナ・ノーグ』のちょっと大人な水着である。
というか、今回の全員の水着は帝西百貨店提供である。
ちょっと大人なのは多分布面積だろうが。
「おー。みんな華やかねー」
続いて明日香ちゃんも水着で出る。
今回の主役は私と明日香ちゃんなので、この二人を基準に水着が……ん?
「ねぇ。あれ、なに?」
側近団のユーリヤ・モロトヴァの水着は、私がちょっと大人な水着なら彼女のはかなり危ない水着である。
というか、地元の護衛連中がガン見しているのだが。
当人はあっさりと一言。
「虫よけです。
これなら、パパラッチ以外ならお嬢様を見ないでしょうし」
そんな訳で夏の瀬戸内海を堪能したのである。
なお、しっかりとパパラッチに撮られた。
恐るべし。パパラッチ。
海からの帰り道、高浜駅から一駅の梅津寺駅で降りる。
ここはテレビドラマのロケで使われた場所なのだそうだ。
その結果、柵にハンカチを結ぶ輩が続出……いかに当時のドラマが凄かったかわかろうというもの。
なお、ここも夕日がきれいなスポットとして有名である。
「へー。遊園地があるじゃない」
「愛媛の人間の憧れの場所の一つよ。
松山に来て遊園地で遊ぶってなったらここなのよ」
昭和から平成にかけて、デパートの食事と並んで遊園地で遊ぶというのは確かに子供たちの憧れだったのである。
昨今はバブル崩壊と交通網の整備の結果、地方遊園地が次々に潰れようとしている中、ここは未だ昭和の記憶を残していたのだった。
「じゃあ、遊びましょうか?
どうせ時間はあるし」
という訳で、夕日が見えるまで私たちはこの遊園地を堪能したのだった。
こんな感じで、私たちの愛媛旅行は終わる事になった。
「はい!お土産!!
夏休み終わったら学校で会いましょうね!」
という訳で飛行機で東京へ。
その明日香ちゃんのお土産リストを見て私は苦笑するしかなかった。
「ポンジュースにタルトに団子は分かるけど、鯛メンに鯛めしにじゃこ天にうどん……これデパートで物産展開けるじゃない……」
どうやら、私が使ったら売れると感づいた愛媛の商工会議所の連中がかき集めたらしい。
下が貨物スペースなのをいい事に遠慮なく積み込みやがって……このまま使わずに処分はもったいないので、都内の帝西百貨店の空きブースで売り払う事にしたら、『お嬢様の愛媛の旅(サイコロやお遍路じゃないよ)』とタイトルをつけられた上に即完売して追加発注する事に。
その為に写真家の先生が私たちを水着姿で撮るとかで、来ていなかった神奈水樹まで水着になるという本末転倒ぶりに。
先生。呼ばなかった事を根に持っていたらしい。
興居島
http://gogoshima-ferry.com/
高知のフェリー会社
大阪高知特急フェリー。ちなみに廃止された東京航路はブルーハイウェイラインの東京-那智勝浦-高知航路。
樺太があるので、日本の物流かなり面白い事になっていると思うからRORO船あたりも交えて一話作ろうとメモ。
テレビで紹介で大ブレイク
『午後は○○おもいッきりテレビ』
ここで取り上げられて大ブレイクしたのが『日田天領水』だったりする。
梅津寺駅のドラマ撮影
https://matsuyama-sightseeing.com/spot/58-2/#:~:text=%E4%BC%8A%E4%BA%88%E9%89%84%E9%81%93%E9%AB%98%E6%B5%9C%E7%B7%9A%E3%81%AE,%E3%81%84%E3%81%8F%E6%9D%A5%E8%A8%AA%E8%80%85%E3%81%8C%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82




