お嬢様の企業組織論

「そういえば、基本桂華グループって私が動かしている訳よね」

「そうですな」

　なんとなしの会話だが、橘が乗ってくれたので私はおやつのシフォンケーキを食べながらそのまま話を続ける。

「思ったのだけど、私が意思決定してるのは今更として、その決定ってグループ各社にどういう形で届いてるのかしら？」

　巨大企業グループを率いているとはいえ、私はまだ未成年な訳で。

　その意思決定がどういう形で流れているのかを問うたのは、神戸教授の授業で組織論をやっていたからだろう。

「お嬢様自身の立ち位置としては、株主という形が一番わかりやすいですな」

「ふむふむ」

　橘の説明に頷く話。

　あぶく銭で会社を買いまくったのは覚えているが、今は連結会計の時代になりつつあり、企業再編でそのあたりの悪い事も表向きはできなくなっていこうとしていた。

「多くの会社の株式をお嬢様個人名義ではなく、ムーンライトファンド名義にしているのは、お嬢様自身が感じていらっしゃる通りお嬢様が未成年という理由が大きく、私や一条が管理代行をしやすいようにという意図がありました」

「つまり、私はムーンライトファンドの所有者で、その下に桂華グループがあるって事？」

「おおよそ、その通りに考えて頂ければと」

　控えていたメイドの橘由香に紙とペンを持って来させて、書き書き。

　メモにこんな文字が書かれる。

　桂華院瑠奈　>> ムーンライトファンド　>>　桂華グループ各社

「あれ？

　たしか、ムーンライトファンドって桂華資源開発に名前を変えたんじゃないの？」

　たしか、一番の稼ぎ頭である資源管理部門を桂華商会の子会社に移して桂華資源開発という形にした覚えがあるのだが、そうなると話がややこしくなってくる。

　　　　　　　　　桂華商会

　　　　　　　　　　　↓

　桂華院瑠奈　>> 桂華資源開発　>> 桂華グループ各社

　　　　　　　　　　　　　　　　　(ここに桂華商会も入る)

「これ、どうなるんでしょうか？」

　見ていた橘由香が首をかしげるが、それは私も同じである。

　まぁ、桂華資源開発には岡崎が居るのでそれほど問題はないのだろうが、橘と共にムーンライトファンドの仕掛けを作った一条に電話で聞いてみる事にした。

「お嬢様。昔に話したと思いますが、元々ムーンライトファンドとはお嬢様の口座の名義なんです。ですから、その口座は今も生きているし、そこに保有株なども置いている訳です」

「ふむふむ」

「けれど、事業体としてのムーンライトファンドが資源管理部を中心に大きくなったので桂華資源開発という形で独立させた。そう考えてください」

　一条への電話中にメモを書き書き。

　こうなった。

　桂華院瑠奈　>> ムーンライトファンド　>> 桂華グループ各社

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　>>桂華商会　　　>>桂華資源開発

　基本、子会社が親会社の株式を持つ事は認められていない。

　桂華資源開発は桂華商会と私で50％の株式を持つ桂華商会の子会社という形ではあるが、私が持つ株式はそのままムーンライトファンドに残されたまま。

　資産管理部門と事業部門を分けたと考えたらいいのだろう。

「けど、これだと意思決定にお嬢様が多大な影響を与えるのはともかく、責任がお嬢様の所に行きませんか？」

　横から見ていた橘由香の言葉にたしかにと頷く私。

　未成年だからって到底のんきなキャンパスライフをエンジョイできる訳もないのだが、橘がここで私の為の仕掛けを言ってくれた。

「その為に鳥風会があるのです。

　意思決定を社長会である鳥風会で調整する。

　同時に、お嬢様が未成年である事を理由に、ムーンライトファンドの管理を鳥風会に一任させる事でお嬢様をお守りしているのです」

　なるほど。

　意思決定に制限がかかると同時に責任も制限分回避できるという訳だ。

　そんな事を考えていたらある事を思い出して、思わず笑みがこぼれた。

「どうなさいました？お嬢様？」

「いやー、今になって分かるわ。

　岡崎と組んで悪さをした時にみんな激怒したのが。

　恋住総理に叱られたのも自業自得よね。これ」

　自分一人ならばギャンブルも悪くないが、ここまで大きくなってのギャンブルはあまりに巻き込む人間が多すぎるのだ。

　橘が、真面目な顔で私に注意をする。

「ですから、お嬢様。

　どうかご無理をなさらぬように。

　もはや、ご無理をしなくてもいいほど桂華グループは大きくなりました。

　どうか、お嬢様が信頼する者たちにお任せくださいませ」

「はーい。悪さは少なくとも橘たちに相談してする事にしまーす」

　目を逸らしながらケーキを食べつつ反省しているふりアピール。

　少なくとも2008年のあの博打だけはみんなを巻き込まないように考えないと……

「お爺様。お嬢様反省していないように見えますが？」

「そういうお方だが、本当に嫌がる事はしないお方です。

　由香。その時はお前からも諫言をしてあげなさい」

　あのー。そこの二人。露骨に聞こえるようにひそひそ話をしないでいただけると嬉しいのですが……