お嬢様が馬主になるそうです ケイカプレビュー 樺太国際競争 桂華杯
いろいろ書けないところはすっ飛ばして投稿再開。
順位とかはさいころで決めていますが、レース展開は殿下や騎士見習いの馬については読者の感想に任せます。
ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になることより難しい。
英国の宰相の言葉とされているが、どうも創作なのだとかなんとか。
それでも、この言葉の価値は変わらない。
だからこそ、この言葉をグレードダウンしてみよう。
GI馬のオーナーになることは一自治体の知事になることぐらい難しい。
なんとも微妙な感じではあるが、GIというものの価値を表していると言っていいだろう。
そこに、金と忖度を織り交ぜて、GIを取りに行こうというのが私なのだが、この時期は無党派の嵐の真っただ中。ぽっと出の有名馬に持っていかれるというのもこの時期の知事選あるある……話がそれた。
「で、ご説明をしていただけると嬉しいのですが?」
不機嫌極まりない私の声に、殿下と騎士見習いが笑う。
理由はこの二人がこのレースに持ってきた馬にある。
「そりゃあ、貴族のスポーツですし、やるからには勝たないと」
いけしゃあしゃあと騎士見習いが言ってのけるが、パドックに居た彼の馬はダートが本場の米国血統でGIを取っていた良血種だったりする。
「ここで欧州馬を持ってこないんですか?」
「ナショナリズムも大事だけど、勝てる馬のオーナーの国旗が欧州ならば欧州の勝利という事で」
夜の晩餐会でも散々見たイケメン笑顔だが、言っている事は性格が悪いことこの上なく実に貴族らしい。
とはいえ、米国から持ってくるのに疲れたとかで、調子はあまりよくはないみたいだった。
「こちらは、競馬を盛り上げようという事で本気で来た。
彼みたいに間に合わせではないから覚悟してくれ」
「の、割には、殿下の馬もあまり調子はよろしくないようですが?」
私の突っ込みに沈黙で返事をする殿下。
こっちもGI血統で固めた良血馬らしいのだが、本調子ではないみたいだ。
じー。
それに比べて私のケイカプレビューは、いつものようにパドックで私を見ている。
まぁ、この様子ならば大丈夫だろう。
問題は……という事で、少し離れて控えていた岡崎を呼んで確認。
「大丈夫よね?」
「絶対はないですが、取りに来ている連中がいます」
忖度という紳士協定をチャンスと見込んで、ガチに勝ちに来た馬がいるらしい。
それでも、岡崎はお手上げのポーズをして苦笑する。
「これがギャンブルなんですよ。お嬢様。
打てる限りの手を打ち、死力を尽くしても届かない可能性。
そして、それがあるからこそ、人はギャンブルに魅かれるんですよ」
多分岡崎の目には、私こそ極上の賭け馬じゃないかと思ったが今更である。
ため息一つついて、私は捨て台詞を吐いた。
「まぁ、ここで負けても次があるわ」
そう。まだ私が破滅する高3の秋まで時間はあるのだ。
そう。私が破滅する高3の秋まで、時間はそれだけしか残されていないのだ。
相反する思いに目を閉じ手を握って笑顔を作って、私は殿下と騎士見習いのいるテントに戻っていった。
樺太競馬場は、東京の大井競馬場を模して造られたが、このレースが始まるまでに建物とかは間に合わず、設備と人員を急遽国内からかき集めて行われたという裏事情がある。
ここまで急ぎたかったのは、GⅠを取りたい桂華側と手を差し伸べた欧州とアラブの事情がある。
「車のレースよろしくポイントつけて優劣を、というイベントがありましてな。
それに桂華を巻き込みたいんですわ。向こうさんは」
とは、裏を仕切っている天満橋のおっさんの言葉。
中東の航空会社の協賛で始まったこのレースはスポンサー不足に頭を抱えていた。
そこに樺太競馬を絡めてGⅠレースをでっち上げるという天満橋のおっさんの顔は、間違いなく仕事よりもイキイキとしていた。
そんな訳なので、GⅠレースなのに、レース場の周囲にいるのは豪勢なテントの中で座る有閑層の皆様方。
一般ぴーぽーはというと、富岳テレビ独占放送という事で、豊原地下都市の中でテレビを見ながら携帯を片手に馬券を買っているのだろう。
樺太競馬場で行われるこの競走は、正式名称を『樺太国際競走』と言い、私の君が代独唱の後、いくつかのレースを挟みながらダート1200メートルの『岩崎杯』、ダート1600メートルの『桂華杯』、ダート2000メートルの『樺太杯』の3つのG1レースを行うことになる。
で、『桂華杯』の前に行われた『岩崎杯』だが、波乱もなく人気順にゴールするという結果となり、そっちにも馬を出していた殿下と騎士見習いの馬は二位と三位という結果に終わった。
「悔しいな」
「同じく。届かなかったか」
そんな二人の感想だが、二人とも目が真剣だったのは言わないでおこう。
『桂華杯』の一番人気は私のケイカプレビューである。
CMでも流れる桂華グループの音楽をファンファーレとして『桂華杯』が始まる。
ゲートが開く。ケイカプレビューは綺麗に逃げる。
序盤から中盤にかけて終盤でも、ついに誰も捕まえる事はできなかった。
五馬身差をつけての圧勝。
私と後ろで控えていた岡崎は万歳をしたのだが、殿下の馬は二着。騎士見習いの馬は掲示板外だった。二人とも拍手をしてくれたが、背後の空気が実に冷たい。
なお、最終レースとなった『樺太杯』だが、殿下の馬が一着。騎士見習いの馬は四着となり、殿下らしかぬ歓声が轟き、騎士見習いの目は全く笑っていなかった。
天満橋が言っていたレース
ワールドレーシング・チャンピオンシップ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97
この樺太競馬をダート部門の一つとしてねじ込む事でスポンサーに名乗り込み、樺太競馬がらみの協力を引き出したのだろう。




