湾岸カーレース イベント会場にて
下品シリーズ
一応これが最後
お台場。富嶽テレビ前のイベント会場にはずらりと並ぶ車とその側で飾るキャンギャルたち、その両者を見に来た内外からの客で溢れかえっていた。
ただの野良レースという名目だが、そのイベント力は欧米メディアに派手に宣伝された事で、国際レース並みの熱狂を持って歓迎されたのである。
「すいませーん!目線くださーい!」
「こっちにもお願いします」
そんな湾岸カーレースの予選前お披露目イベント。
何もかも突貫作業のお祭り騒ぎは富嶽テレビの最も得意とする場面であり、この夏はこのレースで視聴率を取りに行くとか。
いつの間にか社運を賭けている感じになっているがいいのだろうか?
「で、こちらがTIGバックアップシステムがスポンサーをする事になった車です!」
あれ?聞いていた奴と違うのだが???
「ああ。当初四人で話し合った車でワークスを探していたんだが……本家にバレてな」
発表後楽屋にて栄一くんは嘆き、私、裕次郎くん、光也くんの三人も『ああ……』と苦笑を隠せない。
というか、しっかり控室にその本家筋のスタッフ居るし。
「『勝つつもりもないし、邪魔するつもりもない。とはいえ瑠奈絡みで絡まないと』という俺の説明は聞いてはくれたが、はいそうですかと納得してくれる訳もなく、これ幸いとスタッフを押し付けてきた」
「栄一くん。これ幸いって何よ?
一応当人居るんだし言い方ぁ」
私のフォローも気にすることなく揶揄されたスタッフは笑顔である。
内心はどうか知らないが、とはいえそれはこっちも似たようなもので、テイア自動車のお家の事情を栄一くんは暴露する。
「このレース。テイア自動車の最優先目標はハイブリッド車の売込みだ。
ハイブリッド車がこのレースに参加し完走する。ついでに上位を取れるならばこれ以上ない売込みになるからな。
という訳で、そっちにプロジェクトの重点が置かれると……」
「ガチで鮎川自動車や鈴鹿技研に勝ちたい連中が締め出されたと?」
「そういう事だ」
裕次郎くんのツッコミに栄一くんも苦笑するしかない。
そんな所に鴨葱背負った私達がやってきたと。
かくして、金は出すが口は出さない私達に手八丁口八丁でチームを売り込んで今に至ると。
チームの確認をした光也くんがぼやく。
「困った事に実績ありだから断れなかったんだよ。
ラリーの人材だったから」
テイア自動車はラリーの方の参加歴史は古く、WRCこと世界ラリー選手権でも活躍していたが99年に撤退しF1参戦に的を絞る事に。
かくして、そのスタッフたちは各地に散りつつ埋もれようとしていた所に、この湾岸カーレースである。
レギュレーションの曖昧さに各社ともヤキモキしている中で彼らだけはテイア社内で真っ先に気づいた。
『これ、多分ラリーレギュになるんじゃね?』
と。
で、繰り返すがそんな所に鴨葱背負った私達がやってきた事で、テイア本体は私達に彼らを押し付けられたと。
無論、私達としてもメリットはある。
このチームはレース経験が豊富であり、しかも全員がそれなりに名の知れたスタッフたちである。
『参加する事に意義がある』から『大手メーカー食ったる。ついでにF1に行ったテイア自動車も見返したる』と。
「まぁ、金は出すけど口は出さないから外れるつもりはないけど、ドライバー大丈夫?」
このレースをなんとか影響下に置きたいFIAはあの手この手で介入しており、その中で大きいのが『参加した場合FIAのレースに参加する事を一定期間禁止する』という通達で、現在欧米の裁判所で激しくバトル中になっていた。
それは同時に野良レーサーの登場を促してしまい、丁度ハリウッドでそんな映画がブレイクした事もあって、ドライバーの確保は数だけはどうとでもなる分は確保できたのだった。
「外国は知りませんが、この国だと副業になるからとその道をあきらめた人間がいくらでも居ますからね。
記録には残らないが記憶には残るだろうこのレースだけ参加という人間で各社ドライバーを確保していますよ。
プロのレーサー相手にレース場では負けるでしょうが、湾岸ならば彼らの庭です。簡単には負けませんよ」
なお、口を挟んだそのスタッフが連れてきたドライバーは、引退した元ラリーレーサーだったりする。
ガチ過ぎて私達四人書類から目を逸らしたのは内緒だ。
「しっかし、良く集まったな。
内外うち入れて45台だろう?
参入発表しているのがあと12チームほどあるから、予選大丈夫か?」
「おそらく、書類選考で絞る気だろうね。
参加枠を確保したい大手はダミーチームの申請をしているみたいだし。
まぁ、うちは書類選考通過するだろうから」
栄一くんのぼやきに、裕次郎くんが苦笑する。
こういう時こそ、プレイヤーよりもゲームマスター、更にゲームデザイナーが強いというのが分かろうというもの。
光也くんがぼそっと呟く。
「テイア自動車のはぐれ者の押し付けも、多分計算づくだろうな。
メインを押し付けたらテイア主導と他社から突っ込まれかねん。
あくまではぐれ者を押し付けた体裁にして、一番の情報源である桂華院の動向を探っている。
うちのエントリー車を見て、それに準するレギュレーションを想定した車を各社揃えてくるぞ」
私はこのイベントについては精々レースクイーンぐらいでしかないが、私と繋がるコネにこのレースの実行委員長がおり、彼に意見が言える立場にある訳で。たしかにゲームデザイナーという見方も出来なくはない。
「坊ちゃんがた。
私らを話のネタにするのはいいのですが、もっと言わんといけない事があるでしょう」
あ。とうとうスタッフさんがしびれを切らして三人に突っ込む。
そう。今の私はレースクイーンの服を着てこの場に参加しているのだ。
それについて何か言う事は無いのだろうか?
「……」
「……」
「……」
何やら三人で暗黙のうちにコミュニケーションを放り出したのを見てスタッフが手を当てて駄目だこりゃと嘆く。
面白いので三人が何て言うかニヤニヤして待つことにするのだった。
車の変更
『湾岸カーレース TIGバックアップシステムスポンサー車選定 その2』の感想にて『86じゃ危ない』の意見と同時に、この時期ラリーを丁度撤退しているのでこっちに変更。
T200かT230かは読者の感想に任せる事にする。
お嬢の今回のレースクイーン
今回は鹿島。
秋の予選ではゴトランド。




