夏だ！プールだ！水着だ！！

　夏である。

　7月に入って最高気温は30度を超えるのが日常となる中、エアコンが常備されている帝都学習館学園でも暑いのは暑い訳で。

　そんな日の体育がプールというのは女子でも嬉しいものだったりする。

　という訳で、皆お揃いのスクール水着を着てのプール授業。

　男子はこの暑い中、サッカーをやっているのだから大変である。

「こらー。男子ー。

　見るんじゃないわよー」

　スクール水着姿の神奈水樹がプールサイドの金網前で煽る煽る。

　一応、学校の施設なので男子生徒もいる訳で、チラ見の仕方なしというかガン見してボールを奪われるなんて事もちらほら。

　つーか、何で居る。神奈水樹。ここは2－Cと2－Ｄの合同授業で、お前2－Fだろうに。

「何やっているのよ？神奈さん？」

「うちの伝統行事みたいなもので、こうやって良い男相手にアピールを」

　笑顔で言うが、伝統行事という所に闇が見える高級娼婦集団神奈一門。

　笑顔は崩さず、水着姿の私も横に並ばせての呟きは私にしか聞こえない。

「ほら。ここの連中は家の論理で後継者は絶対に必要だから、私たちみたいな人間はこういう所で合法的にアピールしていたのよ」

「……まぁ、そうでしょうね……じゃない！

　クラス違うのに何で居るのよ？あなた？？」

「桂華院さんがプールに入るから急遽呼んだんです。

　パパラッチ対策の為に」

　そんな説明を私にしてくれたのが、恥ずかしそうにタオルで水着を隠す華月詩織さん。

　この手の対処は橘由香か久春内七海がするのだが、橘由香は２－Ｂで久春内七海は２－Ｅである。

　サボってまでこっちに来たら学校側からよく思われない訳で、かくして彼女が私の体をタオルで隠そうとすると、どこからともなくブーイングが。

「これはいいの？これは？」

「学校側もそういう認識ですので」

「青少年の不健全な欲情を受け止めるのも神奈の仕事ですので」

　その理屈は解らなくもない。

　でなけば、特待生制度みたいなもので在野の優秀な人間を受け入れたりはしない。

　特に女子はその容姿こそ求められたというのは昭和の最後あたりまでの話で、つい先ごろの事だったりする。

　今の時代は女も仕事ができる時代であり、彼女たちに求められるものは変わってきたが、そんな過去もまだ見えるところにある訳で、この学校はそういう生徒も枠として受け入れていたのだ。

　たしかに華族や財閥関係者に見初められて妾になれただけでも、田舎出の美人さんなら大成功。

　妻にまでなれたら人生勝ち組ってものである。

　その結果、学生恋愛につきもののドロドロもあり、それを利用した座敷童子生産システムは見事ではある。人の心はないと思うが。

「ちなみに、貴方を除いて神奈一門ってここにどれぐらい居るの？」

「私を除いたら三人かな。

　三人とも高等部。

　さすがに、中等部から入ると苦労するわ」

「え？しているの？苦労？」

　真顔で突っ込む私。

　こいつ腰振って勉強して腰振って占いして腰振って寝てという生活をしているはずなのだが？？？

「しているわよ。桂華院さん。貴方のせいで。

　どれだけ『真人間になってくれ』って言われているか知ってる？」

「本当にすいませんでした」

「私は、桂華院さんのお友達なのだから、真人間になってほしいんですけどね」

　即謝罪する私に、恥ずかしそうに愚痴る華月詩織さん。

　そんなやり取りだが、このプールが見える高所はスナイパー対策で全部チェックしているのを私は知っていた。

　それでも数日後の欧米タブロイド紙に私のスクール水着写真が載るのだから侮りがたし。パパラッチ。

　そりゃ偉い人はプライベートビーチとかで羽目を外す訳だと他人事の様に思う私、桂華院瑠奈公爵令嬢。

「まぁ、気にしなくていいわよ。

　そういうのを見越した上の入学だったし、私はこの生き方しかできないけどね」

　横でサッカーをする男子相手に水着姿で声援を送る神奈水樹はいい女にしか見えない。

　私もここまで開き直れれば楽なんだろうけどな～と思いつつ、別れてプールの中へ。

　授業と称しているが、ほぼ自由時間のようなもので、泳げない人だけは体育教師の指導の下で泳げるように練習していた。

「なんでこんな……ぶくぶく……」

「……」

「二人ともはやく泳ぎを覚えてくださいね」

　死んだ魚のような目でビート版を抱きしめてバタ足の練習をしている野月美咲とイリーナ・ベロソヴァに付きっきりで秋辺莉子が応援している。

　『泳がなくていいじゃん』派の二人だが、私がこうしてプールに出るのでついでとばかりに泳ぎを覚えさせられる事に。

　そしてその隣では……

（><）

「開法院さんがんばって！

　みんなで春日乃さんの実家に遊びに行って泳ぐって言ったじゃないですか！！」

　『私、座敷童子だしー』でそのあたりさぼっていた蛍ちゃんが、神奈水樹によって見つけられてカナヅチという事が発覚。

　元田舎系元気娘の栗森志津香さんによって同じくバタ足の練習をする羽目に。

　私を見る目が『瑠奈ちゃん！助けて！！』と明らかに言っているのだが、蛍ちゃん。人間って言わないと分からないんだよという事で見捨てる事にした。

　なお、私も明日香ちゃんの実家に行く予定なのは言うまでもない。