某ラジオ番組にて その4
音楽や寸劇を挟んで大体四五人から話を聞いているので、〆となる話を。
意識してなかったが、書いてこの回の語り手は絶対神戸教授だなと思った。
「こうやって色々な人の話を聞いていると、桂華院瑠奈公爵令嬢の事がわからなくなってきましたよ。
結局、彼女は何者なんです?」
「我々メディアの側からするとスターであり、マルチタレントなのでしょうが、別の所だとまた別の見方もあるのですよ」
「別の場所?
たとえば、どういう所ですか?」
「たとえば華族界隈では彼女が誰と結婚するかで、噂が持ちきりなんですよ」
「ああ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの桂華グループのお嬢様ですからね。
逆玉も夢ではないと」
「そうですね。
これも有名な話なんですが、桂華グループのほとんどの財産は桂華院公爵ではなく彼女の所有になっているんですよ」
「え!? そうなんですか!?」
「ええ。これは公然の秘密ですがね。だから彼女を嫁にすれば、自動的に桂華グループは丸々自分の物になるって事です。
そして何より、あの美貌とスタイルですよ。
もし結婚できれば男としてこれほど嬉しい事はありません」
「なるほど……そう聞くとアタックしてみたいですね」
「我々程度ならば近づく事すらできないでしょうね。
そんな彼女がメディアを騒がせている。
この新世紀に入って日本が、世界が誇るスターでありセレブなんですよ。彼女」
「セレブ?それは大袈裟でしょう?」
「いや、事実ですよ。彼女はむしろ欧米諸国の方が人気が高いんですよ。
かつてのロシア帝国を支配したロマノフ家の末裔の一人であり、アカデミー助演女優賞を獲得し、現米国大統領のお友達という大物ですから。
ちなみに、今、米国で彼女絡みで騒動が起こっているのは御存じですか?」
「いや。知りませんね。
何が起こっているんです?」
「イラク戦争、この秋に分離独立する事になる南イラク。
そこの有力首長家に嫁ぐなんて話が出て、大騒ぎになっているんですよ」
「有力首長というと、アラブの石油王みたいな?
凄いじゃないですか!」
「まぁ、イメージとしては当たらずとも遠からずですね。
米国としては独立させる南イラクが成功するかどうかで秋の大統領選挙の結果に関わると言われているから、ぜひとも成功させたい。
日本にとっても石油のほとんどを湾岸諸国から輸入している現状、嫁いだ際に親日国になるだろうこの国からの石油の安定供給が期待できる。
この縁談には意味があるという事なんです」
「でも、大騒ぎになっているという事は、この件反対している人が居ると?」
「そうなんですよ。
正確にはこの話は米国国務省、日本で言う所の外務省側の試案だったらしいのですが、米メディアがすっぱ抜いて米国議会にまで行く大騒動になっているとか。
日本政府は『うちの国民なのに何勝手に話進めているの?』とばかりに米国大使を呼んで懸念を表明。一方で『彼女はロシアを導く人物だ』と米国内のロシア人圧力団体が大激怒。
『我々の親戚になに勝手に縁談進めているの?』とEU諸国外交関係者から非難の声があがって米国大統領が火消しに回る始末」
「米国の政治も大変ですね。
あれ?ロシアは分かるのですが、何でこの話に欧州が出て来るんです?」
「欧州の王族や貴族は長く続いた婚姻政策の結果、みんな親戚みたいな血筋になってしまっているんですよ。
彼女のオペラ歌手としての才能から欧州留学が噂されていますが、そのまま日本に帰らずに欧州の貴族に嫁ぐのではという噂も出ていますからね」
「石油王に嫁ぐのも凄いですが、本物の王様や貴族に嫁げる格というのはなんというか想像がつきませんね。
最近は彼女を狙うパパラッチが東京に常駐しているとか。
彼らの強引な取材のおかげでこちらもとばっちりを受けて頭が痛いですよ」
「彼女の写真は一枚最低でも20万ぐらい。
センセーショナルなものになると、けた違いの値段がつくらしいですよ」
「うへぇ……よくやりますね。
そのけた違いの写真ってどんなものなんですか?」
「多分ご存じだと思いますよ。
まずは成田空港テロ未遂事件の一枚で、あれは数も多かったのですが、それでも一枚500万円の値がついたとか。
もう一枚がピューリッツァー賞写真家石川信光の代表作となった9.11テロ時の倒れこんだ彼女を抱きかかえる恋住総理の写真」
「ああ。あれはあまりにも有名になりましたからね」
「成田空港テロ事件の時、あの写真も再度世に出て、欧米における彼女の知名度を決定的なものにしましたからね。
世界が注目するスターでもあるんですよ。彼女は」
「なるほど。
凄いというか、ああはなりたくないというか……」
「かつてスターとして名を馳せた方も、本人が望むならば引退できたじゃないですか。
いかに周囲が持ち上げようとも、ただの人に戻ると言う選択はあるのです。
しかし、桂華院瑠奈公爵令嬢の場合、もはやそういう選択肢はありません。
世界でも指折りの富豪一族な上に、彼女自身が持っている世界的ブランド。
これら全てから逃げる事は不可能でしょう」
「そこまで行くともう雲の上の話ですね。
そんな彼女がタレントとしてこの国のメディアに出ているのは面白いですね」
「彼女にとっては、この国のメディアなんて遊び場なのかもしれませんね」
パパラッチの相場
写真1枚の値段はいくら?パパラッチの実態に迫る https://www.nikkansports.com/entertainment/news/1730587.html?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=nikkansports_ogp @nikkansportsより




