某ラジオ番組にて その3
この話はもちろんゲッター線を浴びたのが理由である。
ハマるから見ないようにしていたのだが、ゲッターに焼かれるとは思わなかった……
「アイドルという言葉には偶像って意味があるんですよ。
もう少し言うと、崇拝される物や人って意味ですね。
その結果、日本のアイドルは別定義として『Japanese idol』なんて呼ばれているんですよ」
「なるほど。確かに偶像ですね。
少し昔のブームを思い出しますよ」
「我々にとってなじみ深いのは80年代のアイドル黄金時代でしょうね。
当時は歌番組に出ているアイドルを観るだけで興奮しましたから」
「分かります! あの頃はまだテレビっ子でしたからね!」
「えぇ。日本におけるアイドルの歴史でテレビを外す事はできません。
このあたり面白くて、芸能人の呼び方として『スター』と『アイドル』が混在していた時代でもあるんですよ」
「え? そうなんですか?」
「そうです。私の知り合いは『アイドルというのは崇拝する為に手の届くところにある。天高く見上げる星であるスターと違い身近にあるのだ』と言ってうまい事をいうなと思いましたよ」
「へー……なんかいい言葉だと思いますね。
そう聞くと、アイドルがもっと身近な感じに思えてきますよ」
「私も同感ですね。
昨今のアイドルの形成はオーディションから全て公開する形で、テレビで見る我々はその偶像形成という物語を追っている側面があります。
始まりから完成まで見守ったアイドルがテレビに出る。
そりゃ崇拝しますよね」
「そういう見方もあるんですね。そう考えると、80年代くらいまでのアイドル黄金期こそ、日本における本当の意味でのアイドルブームだったのかもしれませんね」
「芸能人。この場合は分かりやすく芸人と呼びましょう。
彼らの芸は、劇場という芸人と客が会する場所で披露されました。つまり、芸人と客の一体感こそが芸の本質と言えるでしょう。
ところが、テレビというのは全国規模で、あまりにも多数が同時に視聴できるのに、芸人の前に客が居ない。一体感を形作れない。
しかし、崇拝であれば同じ場にいる必要は薄い。かくして、テレビ越しに崇拝する存在であるアイドルが世に出る事になった」
「……なるほど。確かにそれは一理ある気がしますね。
でも、私はテレビの向こうにいる人が近くに感じられる今の時代の方が好きですけどね」
「そうなんですよ。
アイドルというのは偶像故に身近にあるべきで、その近くに感じられるようになったというのが、テレビにおいてアイドルが隆盛を極めている理由なんですよ。
テレビにおいて、成功する秘訣は二つあります。
『素人が芸を見せる』か『プロが私生活を見せる』かです。
アイドルというものがどちらなのか、言わなくてもいいですね」
「そう考えると、巷で話題の桂華院瑠奈公爵令嬢は後者、『プロが私生活を見せる』ですね。
もっとも、彼女何のプロなのかわかりませんが」
「彼女の厄介な所は、自分がスターであるという事を本能的に察している点でしょう。
深夜番組などでアイドルと絡む際に両方が引き立てられるのは、彼女がスターとしてアイドルを照らすからなんですよね。
それは同時に、彼女を最近主流のアイドルユニットという枠組みに組み込むことはできないという事を意味します」
「なぜですか?」
「例えばAさんとBさんがいるとしましょう。Aさんの方が美人だったら、Bさんを引き立て役にしてAさんを前面に立てた方が売れるでしょう?」
「まぁ……そうですね」
「こうしたプロデュースは芸能事務所が意図して仕掛けるものですが、タレント本人が無意識のうちに仕掛けてしまう場合もあります。
桂華院瑠奈の場合、後者の無意識な部分が大きいと思われます。つまり、他者のプロデュースを必要としていない。
彼女は自分ならこう動くだろうと、スターとして動いているんです。そしてあの美貌と才能。引き立て役も必要ありません。
2000年代のアイドル復興期に現れた、天高く輝くスター。
テレビ側は頭を抱えたでしょう」
「うーん……なんとも凄まじい話ですね……。
じゃあ、彼女が最近作ったグラビアアイドルユニット『トライダナ』は?」
「あれは完全に彼女の身内で固めたユニットですね。
桂華院瑠奈公爵令嬢に、今や急上昇中のグラビアアイドル神奈水樹とユーリヤ・モロトヴァの二人で、元は写真家石川信光先生が写真を撮った際の面々とか。
アイドル側が複数人でやるゲームに呼ばれて、あれよあれよとブレイクしてしまったのですが、星の近くの偶像なんだからそりゃ輝くでしょう」
「それでいて、プロが私生活を見せる場面になるバス企画とかは元秘書のアンジェラ・サリバンさんとかになるのですから、スターというのは本質的にユニットを組む事が難しいのでしょうね」
「あの人、今度桂華金融ホールディングスのCEOになるとかで。
話はそれましたが、彼女はアイドルではない。スターだと言った理由がようやく理解できましたよ。
今のテレビだと使いにくいでしょうね」
「そうなんですよ。
彼女は劇場や銀幕においてのスターであり、テレビアイドルではないんです。
多くの業界人が彼女をテレビに引っ張ろうとして失敗したのはそこを間違えたんでしょうね。
まぁ、深夜バスのブレイクはもう難しいみたいですが」
「どうしてなんです?」
「テロとの戦いが続くご時世、警備が大変だそうで」
「そういう話を聞くと、あの人が公爵令嬢なんだと納得しますよ」
『素人が芸を見せる』か『プロが私生活を見せる』
上岡龍太郎『芸人論』より。
前にも書いたが、この話の基本ペースはここにある。
ここからニコニコのコメによる空気の取り込みが始まるとは思わなかった……
書いてる途中意識したのは『少女歌劇レヴュースタァライト』だったり。
なお、そもそもこの小説を書くきっかけとなる『アイドルマスター』のアーケード版が2005年。
書いたかどうかわからないので再度言うが、ニコマス民だった私の押しは『魔王エンジェル』所属の『レッドショルダー』である。
という訳で大百科ペタリ。
魔王エンジェル
https://dic.nicovideo.jp/a/%E9%AD%94%E7%8E%8B%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB
レッドショルダー
https://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC%28%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%29
トライダナ
掲示板回で掘り下げる予定。
由来のダナはケルト神話のダナなので最初から地母神系。
初手ユニコーンの角をポキポキ追ってゆくスタイル。




