お嬢様と兵器見本市 その3
まだ続く兵器見本市見学。
今度は現代兵器の展示場へ。
純粋な兵器が並ぶ場所なのだが、胃がムカムカする前に現実の世知辛さが私を襲う。
「テロとの戦争の場合、高コスト兵器が売れないんですよ。
ここの兵器たちの主要顧客は今やPMCですよ」
話が厄介なのが、今のご時世『テロリスト』なのか『犯罪者』なのかのボーダーがかなり曖昧な点で、『犯罪者』のくせに『テロリスト』仕草をする事で大衆の支持を得るなんて事がざらにあるから本当に困る。
結果、こういう兵器が流行する。
「強化装甲骨格。中島大尉が着ている奴だっけ?」
「あれの最新バージョンで、稼働時間の向上と対NBC耐性つきながら、小隊編成の装備価格込みでも戦車を買うよりコストもメンテナンスも激安というお買い得商品になっています。
今や、PMCは雨後の筍のごとくできているのですが、これぐらいの装備がないとビジネスをするのは無理でしょうな」
備え付けのテレビには防盾を構えた装甲兵が銃弾に耐えきったシーンが繰り返し流されていた。
世の発展途上国の対ゲリラや対テロリスト相手には十分だろうという説得力がそこにはあるように見えた。
眺めていた私に声がかかったのはそんな時だった。
「やぁ。桂華院さん。奇遇だね」
「あら。岩崎さんじゃないですか。
こちらに居るのは応援か何かで?」
「そんな所さ。
『岩崎は国家と共にあり』とは言うが、これはあまり儲からないが捨てられない。
早いうちにそれを肌で知って切り捨てるような愚行をするなという事を叩きこまれるのさ」
食券絡みで会った岩崎和弥競道会会長とビジネスライクな挨拶を。
なお、この会場の最大手が彼の居る岩崎財閥なのは言うまでもない。
樺太という植民地まで抱えている事もあって統治アドバイサーからPMCの手配、その支払いの為の融資と担保としての資源開発まで一体で提案できるのは強みでもあるのだが、素直に喜べない事情も吐露してくれた。
「うちの子会社になっている樺太重工なんかがまさにそれでね。
政府は米国を主体とした西側規格に統一したがっているが、発展途上国で流通している東側武器のメンテナンスと流通を切り捨てると樺太の失業率が急上昇するから潰すに潰せない。
PMCも削減される陸自の人間を優先的に受け入れているが、他所に掻っ攫われるケースも発生して米国が頭を抱える始末。
それを我々に言われてもと思うが、彼らも言いたいのだろうね」
「はて?
イラク以上に需要がある場所がありましたかな?」
岡崎が首をかしげる。
ぶっちゃけるとこの兵器見本市は、イラクに向けてこの国の防衛産業がどう関与するかの場と言っていい。
それを横から掻っ攫う馬鹿なんて日米から敵認定されるというのにと考えていたら、岩崎会長から出てきた言葉は私の想像を超えたものだった。
「南米と欧州の犯罪組織さ。
樺太銀行マネーロンダリング事件によってロシアルートが機能不全の今、彼らが握っていた北米のシェアを狙って欧州と南米のマフィアが血で血を洗う抗争に突入していてね。
『レッドサムライ』こと日系傭兵の相場は現在も上昇中という訳さ」
おぅ……もぉ……胃のムカムカを通り越える世界のリアルさに頭を抱える私。
で、そんな犯罪組織に大人気なのが、戦車は無理でもそのあたりのテロリストや犯罪組織相手には十二分に脅威となる強化装甲骨格という訳だ。
岡崎がフォローにならないフォローを言う。
「まぁ、ここに来る連中は米国関係者にチェックされるんで犯罪者やテロリスト相手にそのあたりを売らないと思いますよ。多分」
「問題は、汚職が蔓延している発展途上国において、買収は比較的容易という所なんだよね。
ここに来る連中が星条旗に忠誠を誓いながら買収されてどれぐらい装備を『紛失』させるか、考えただけでも頭が痛いよ」
岩崎会長が自分のブースの一角を眺めてため息をつく。
樺太重工の兵器ブースに東側規格の戦車や装甲車が鎮座しているが、閑古鳥が鳴いていた。
たしかに、あれはテロリストやマフィア側に流したりしたらまずいだろう。うん。
「お嬢様。ちなみに、今回の兵器見本市の裏テーマは『イラク三分割で中央イラクに投入される戦力の確保』です」
「南イラクはシーア派を懐柔すれば英国の舌先三寸もあって発火はしない。
中央イラクは、権力を握っていたバアス党の連中が野に下って復讐の機会を探っているから、更なる戦力投入は不可避なんだが、大統領選挙がある米国ではこれ以上の損害を許容できない。
そんな状況でまるで都合が良い感じにこの国の自衛隊二個師団がリストラされた訳だ。
使おうと考えるのは当然だろう?」
二人の台詞の後にその金はどこからと言おうとして気づく。
なるほど。ここにいる企業全員がこれに乗っている訳だ。
私の考えを先回りした岡崎が口を開く。
「お嬢様のドレスに血どころか油の一滴すらつけさせませんよ。
そういう仕掛けは既にできています」
「で、それに我々も一枚噛ませてもらっている。
この国はお披露目する前に根回ししておかないと、大体失敗するからね」
私は胃のムカムカと、守られている事の優しさと、この見本市そのものが虚構という国際政治のリアルさに目を閉じて色々なものを呑み込む事にした。
銃弾に耐えきる強化装甲骨格
『ケルベロス 地獄の番犬』
観光映画なんだが、あのシーンだけはかっこいいんだ。これが。
マフィアに買われる特殊部隊 別名今日のネタ元
https://twitter.com/sabatech_pr/status/1652898826582392837?s=20
調べると丁度この時期にマフィア側の重武装化が始まっていたり。




