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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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お嬢様と兵器見本市 その2

お嬢様キャンプ(ガチ軍装備)

 展示会場を眺めていると、何というか場違いな場所に出た。

 まるでアウトドアというかキャンプ用品というか?


「何を考えているか当てましょうか。お嬢様。

 軍隊の行軍においてこれらのグッズは必需品なんですよ。

 何処でも車が使える訳ではありませんから」


 納得。

 とはいえ、その手のグッズは分かるが、馬ってこの21世紀に?

 もう顔が語っているらしく岡崎が苦笑して解説してくれる。


「馬なんてその最たるもので、油と部品がないと動けないのにくらべたらこいつは草と水で大丈夫ですし。何より、最悪こいつを殺して自分たちの食料にできるのもありがたいですね。

 ちなみに、最後の騎兵の勝利は第二次世界大戦ですね。

 軍としては使い道が無くなりましたが、テロ相手だと十二分に威力を発揮します」


 ここで終わるならばまだいいのだが、この場は兵器見本市。

 ちゃんと裏側というのもある訳で。


「あまり大きな声では言えませんが、こいつなら現地に渡して裏切られても対処できるんですよ」


 そんな騎兵の末裔たちはユーラシアに散って今も生活している訳だが、その場所と紛争地帯が見事に重なるのは何というか色々と考えてしまう。

 用途の資料を見ると、かつて国境なんて気にしなかった草原の民向けで、彼らを武装化して戦場に送りつけてうんぬんかんぬん。

 チェチェン紛争の泥沼真っ只中のロシアでもこういう兵士を必要とするぐらい戦争というものは社会を、国家を歪ませる。

 東は共産中国と満州国国境の草原あたりから、西はカフカスの山の中まで、戦場というか国家が管理しきれない場所が未だソ連崩壊後のかの地には多くあったのである。


「……なんか、競馬で見ている馬と違うわね?」


「仮にも軍馬ですからね。競走馬は速さですが、軍馬となるとパワーが命です。

 今度樺太でも行われるばんえい競馬やトロットレースなんかで活躍する馬たちと同じです」


 ぼそっと岡崎が小声でぼやく。

 その声にはやるせなさとも感じるような口調で。


「競馬で走れる連中は一握りです。

 それに対して、こっちはまだ需要が確保できていますからね。

 樺太競馬はそういう交流の場にもなるのでしょうな」


 需要が無ければ供給は生まれない。

 苦境のばんえい競馬に、そういう需要が生まれるならば助かる牧場もあるという事なのだろう。

 岡崎の声が元に戻って説明を続ける。 


「ユーラシアの地方有力者ってのは、まず国家を信用していませんからね。

 未だ部族社会なんてざらで、そういう所に競馬場で走っていた馬を飼育している牧場から馬がやってきたという物語は大きいんですよ。

 下手に武器をばら撒いて裏切られたら元も子もないし、まず金が信用できないなんて連中もいる始末。

 その点、これだと連中にも分かりやすいんですよ。

 まぁ、若い連中には車やバイクなんでしょうが、部族社会の長老連中にはこういう贈り物はよく効きます」


 そんな話を聞いていると、更に場違いな場所に出る。

 鳥である。

 具体的には鳩。


「ま、まさか、伝書鳩?」


「ご名答。これも馬鹿にならないんですよ。

 電話を使うには電気が必要な訳で、このあたりはハイテクならぬローテクにてテロとの戦いに対応するという場所です。

 何しろコストが安いから、発展途上国でも導入がしやすい。

 こちらも差し上げるならば、コストが安いものがいい訳で」


「か、核の時代に伝書鳩……」


 なんだろう。胃のムカムカどころか大きなカルチャーショックに襲われる私。

 湾岸戦争のハイテクぶりはまだ分かったが、見てきたのが馬に鳩である。

 ハイテク武器の冷酷さとは違う、生物の生々しさがより戦争というもののリアルを私に教えてくれる。


「非対称の戦争というのは、言葉遊びですが『戦争』にしたら駄目な戦争なんです。

 ベトナム戦争が良い例ですが、米軍兵士の死亡数がそのまま戦争の敗北に繋がる今、米軍の代わりに戦場で死んでくれる兵隊を欲していると」


 そういう言葉に本当に胃がむかむかして……ん?


「めー♪」


「あれ?何?」


「めー♪」


 私が指差した先で山羊が気持ちよさそうに鳴いていた。

 兵器見本市で山羊とは?

 首を捻る私に岡崎は何とも言えない顔で『兵器』としての山羊を語る。


「あの山羊、このブースでの一番の売れっ子ですよ。

 馬より扱いやすく、持たせられる荷物は結構ある。

 何よりも高地耐性が大きい。

 パキスタンやアフガニスタンの現地勢力にとって一財産なんですよ。

 多分、イラクでもあいつら大活躍するでしょうな」


 アフガニスタンでは山羊とあまった武器の交換を行って、緩やかな『刀狩り作戦』を行いつつあるという。

 インドとパキスタンの代理戦争の果てにジェノサイドの応酬が続くかの地の安定は道半ばというのがよく分かるのと同時に、馬や鳩や山羊の飼育や生産が兵器関連というか安全保障費用で行われているというのが何を意味するか分かる一例なのだが、そんな事は目の前の山羊に分かる訳もなく、誰かが与えた見本市のパンプレットをむしゃむしゃと美味しそうに食べていた。

 まだこの時期は、馬が戦場を駆けていた連中が生きていた世代だったりする。

 個人的に印象が強かったのは『ランボー3 怒りのアフガン』だなぁ。

 2001年を境にあの作品の評価がこんなに変わるとは……


 なお、岡崎の言う地方有力者っては『乙嫁語り』のあのあたりの部族たち。

 近代的になったとしても中身は変わっていないというか、ソ連崩壊後の民族のアイデンティティに揺れていた時期だったりする。


 https://www.afpbb.com/articles/-/3314676


山羊

 イスラム教徒は豚を食べない代わりに山羊を食べる。

 つまり、想定戦場がイスラム宗教圏という事を示していたり。

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― 新着の感想 ―
[一言] アフガンからイラン、トルコにかけての山岳地帯だとまだロバが現役ですよね。「その辺の草食わせておけばOK」なのは、むしろ馬よりもこちらですな。
[一言] 更新お疲れ様です。 お嬢様、人命が絡む話になると途端に弱くなるから家臣団がやばい話をお嬢様に上げないのは正解よね
[一言] 販売物に 訓練した犬 が有っても納得しそうですね。( ・ω・) 違うブースに ジャパニーズレーションのレトルトカレー のデモンストレーションしてそう
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