某　深夜番組にて　2024/07/09投稿

「では、今日のゲストをご紹介しましょう。

　今をときめくお嬢様こと桂華院瑠奈公爵令嬢です」

「どうもよろしくおねがいします。

　今日はおしゃべりのプロ相手にどこまで猫をかぶれるか頑張ろうかなと」

「またそんな事言うて、お嬢が怒る時てな、プロデューサーやのうて局長呼びつけんねん。局長やで局長。わいらの方が戦々恐々しとるわ」

「そりゃあ伊達にCMの深夜枠をお小遣いで買っておりませんから」

「おこづかいときたか。さっすが天下の桂華グループ」

「それでも私はテレビが怖いですよ。今のテレビは平気で白を黒と言える勢いがあるから」

「まぁ、今や政商桂華の勢いっちゅうたらニュースで見ぃひん日はあらへんからな。

　実際、嬢ちゃんの影響力ってどんぐらいあんの？」

「逆にお聞きしますけど、劇場で看板に名前載せる以上、ある程度はできないとみんなついてこないでしょう？」

「まぁ、そのあたりもこっちと変わらへんのかもな。

　こんな感じで深夜枠らしゅうゆるーく嬢ちゃんとおしゃべりしようっちゅう回ですわ」

「改めてよろしくお願いします」

「で、まぁ嬢ちゃんのプロフィールやねんけど。改めて見るとえげつないな、これ」

「最近は華族系のタレントや俳優かてしょっちゅう見るようになったけど、嬢ちゃんは別格やわ」

「そんな私が、深夜バスに乗ったり、ゲームで発狂したり、えっちなブロマイドを出したりのギャップでこの業界で生息させて頂いています」

「礼儀もしっかりしとるで。

　なんせ、スタジオ来たら居る全員に挨拶して手土産まで渡すんやから。今どきなかなかせえへんでこんなん」

「あれ、礼儀よりも安全対策が目的なんですよ。

　挨拶し、手土産を渡すことで不審者が紛れ込まないようにすると」

「そのあたり聞くと、やっぱ嬢ちゃんは雲の上のお人やなって思うわ。

　たしかパパラッチに写真撮られたんがテレビのスタジオやったっけ？」

「ええ。あの時は家の方が大激怒で、そのテレビ局の社長が家まで謝罪に来る結果に。

　芸能界活動引退の危機だったんですよ」

「聞きたかったんやけど、そのやらかしよった後も嬢ちゃんがテレビに出続けとるんは何でなん？

　若うて地位も金もあって、別に顔売ってな消えるような商売でもあらへんやろ？」

「それが厄介なんですよ。

　地位も金もあって、幸せに暮らしました。めでたしめでたしで終わるほど世の中簡単じゃない訳で」

「そんなもんかいな？」

「というか、その最たるものがテレビじゃないですか」

「「あー」」

「変に生活乱されるぐらいなら、こっちがある程度情報を出してという訳で」

「なんや金持ちには金持ちの苦労があんねんな」

「ありますよー。テロリストから手榴弾投げつけられるぐらいの苦労は」

「それ、嬢ちゃんの定番ネタやないかい！」

「まー。武勇伝ならこれで話題になりますから。

　けど、あの後ものすごーーーく怒られたんですよ。私」

「そらそうやわ」

「危ない所にガキが出張るなって叱らへんかったら大人の面目立たへんからな」

「深夜のテレビにちょくちょく顔出しとるけど、ゲストやのうてモブ出演なんは何でなん？」

「せやせや。今回はゲストとして来てもろたんやけど、普段この時間帯の番組出るときはメインやのうてモブでばっかり出てんねん。嬢ちゃん追っかけとる人はよう知ってはる思うんやけど、何でやろな思うてな、腑に落ちひんねん」

「ほら。深夜って基本スタッフ足りないじゃないですか。

　で、バックダンサーを急遽頼まれたのがきっかけで」

「きっかけて……」

「基本何でもやりよんねん。この嬢ちゃん」

「褒めたって何も出ませんよ。案外楽しいものですよ。バックダンサー。

　未来のスターたちとも仲良くなれますし」

「けどあれドッキリや思てた人多いで」

「メインで踊っとったアイドルが自分らより目立たれとるっちゅうて落ち込んどったんやで。あれ」

「そこはそれ。ちゃんと背後で気配を消して踊れるように最近なりましたので」

「「やらんでええ」」

「えー」

「結局、嬢ちゃんにとって、このテレビって何なん？」

「それは聞いてみたいな。嬢ちゃんが住んどる世界はウチらとはちゃうし、下手に勘ぐりされへんよう顔出すっちゅうのはまぁ分からんでもないんやけど、かっちゅうてここまでのめりこむ理由がようわからへんわ」

「それほどのめりこんでませんよ、私。本気なら今頃冠番組持ってますよ」

「まぁ……なぁ……」

「嬢ちゃん、アイドルやれるしスポンサーやっとるし、取ろう思たらいつでも取れるわな。うちの局だけやのうて方々から誘い来とるやろ」

「真面目な話、これが私の限界でもあるんですよ。

　いずれはテレビという遊び場を去らないといけない訳で、その際にここに本気になった人たちの邪魔はしたくないので」

「邪魔……ねぇ……」

「去るっちゅうても嬢ちゃんの姿がテレビから消えることなんてあらへんやろ」

「ちなみに、笑えない話ですが、私、進路志望がまだ出せないんですよ。

　影響が大きすぎて」

「というと？」

「たとえば、音楽の道に進むならそれだけで世界各地からスカウトがやってくるし、映画の道でも日本よりハリウッドからお声がかかる。公爵令嬢として過ごすならいずれは枢密院経由で国政に関わる事になるし、結婚するときは大変ですよ。下手したら王子様からプロポーズが」

「この王子様っちゅうのが大袈裟やあらへんのがたち悪いわな」

「だから長くはいられないだろうテレビという遊び場を私は汚したくはないという訳で」

「傲慢やなー」

「傲慢ですよ。だって私、お嬢様ですから」

「ほな、きりのええ所で締めの一言を」

「はい。今日は呼んでいただいてありがとうございました」

「ありがとうございました。次回のゲストは……ではまた来週」