野月美咲のある一日
本編に入る前のリハビリ回。
野月美咲。中等部二年生にしてオタク。本業はお嬢様の護衛&側近団の参謀役。
彼女はその為にとある時期に地獄を見る事になる。
「……あー。この先生お嬢様を描くのか。
アウトっすねー」
お嬢様こと桂華院瑠奈の薄い本ナマモノ対策係である。
桂華院瑠奈公爵令嬢。
日本有数のお金持ちでロシア皇帝家の血を引き、米国大統領とお友達という華麗なるお嬢様。
薄い本界隈がネタにしない訳もなく、様々な妄想がされている訳で。
それをチェックしているのが、ガチオタである野月美咲だった。
七月というのは薄い本界隈のお祭りに向けて〆切間際であり、どんな本で行くかの告知期間でもあるので、そのチェックは必然的に多忙になるのだ。
「……R-18以外は基本OK。
けど、芸能人との絡みは、芸能人側の方がまずくないっすか?
それとなく確認入れておきますか」
なお、素通しなのが、お嬢様深夜バスネタとお嬢様ゲームネタ。
某北海道地方番組軍団とこんにちわ計画あたりは同人界隈の定番なのだが、同人誌ではよくお嬢様は深夜バスにのせられ、いつの間にか一大ジャンルにまで育ってしまっていた。
同じくレトロゲーハンターお嬢様のお勧めで娘メンバーが阿鼻叫喚するというのもあるあるだったり。
現在彼女が読んでいるのが、米国横断バスに某軍団と乗り込んでやられる話だが、リアルでは治安対策によってこのあたりのロケができにくくなっているのは野月美咲は知っていた。
「いや、話の流れとはいえラスベガスのカジノに連れて行くのはまずいでしょ。
その体で中学生は無理あたり、あの人たち言いそうだからこまるんだよなぁ……まぁいいか。
多分本持っていったら、お嬢様決裁でOKでるでしょうし」
なお、お嬢様基準は『笑ったら負け』らしい。
事実、それで許された作品がかなりあるのを彼女しか知らない。
「さて、次は……ガチの論文系か。
これが一番扱い困るんですよねー」
正規で出すにはきつい話を薄い本でというのもこの国の文化的土壌がいかに豊かかを物語っている。
政治系や貴族系、経済系の評論同人誌に桂華院瑠奈の名前が出ない事はまずなく、『不良債権処理に絡む桂華グループの功罪』という今彼女が読んでいるタイトルはなまじ嘘と真実が微妙に混じっているから扱いが難しいことこの上ない。
しかも、この手の話は作者の主観が入る事が多いので、下手すると炎上するので本当に厄介だ。
「……これ、後でちゃんと確認しないと駄目ですね。
専門の人にチェックお願いしますか」
ちなみに彼女は側近団の参謀なんてやっているので専門分野は軍事・外交戦略・金融・国際経済などだが、その手の話をちゃんと専門家に投げる思慮深さを持ち合わせているから参謀なんてやっていられるのである。
という訳で問題なR-18関連に移る。
「はいはい。NGNGっと……。
印刷所で全部買い取り依頼を出さないと……」
ナマモノと言われる所以はここにある。
特に過激な描写を含む場合は印刷所でも受け付けてもらえない事があるのだが、彼女の場合上手ければ全部買い取るので、本気でお金に困った印刷所が密かに大手絵師に依頼を出すという本末転倒ぶりも発覚しつつあり、桂華金融ホールディングス側が営業をかけて融資や債務返済プランを用意してそちら側から助け舟を出す事がこの間決まったばかりである。
この業界、まっとうな金が流れる事があまりない上に、樺太銀行マネーロンダリング事件のせいで動脈硬化が起こっている現在、印刷所側から描かせているお嬢様の薄い本が『お嬢様手形』と呼ばれている事まで発覚し、各方面に衝撃が走って対策をと奔走していたりするのだが、夏のイベント参加者にはどうでもいい事である。
「で、問題は、描きたくて描く連中なんすが……そりゃ描きたくて描くから上手いんすよねぇ。
おまけにコピー誌だから、当日に発覚するって最悪のパターン」
このお嬢様ネタ、リスクの割にリターンはそれほどない。
それでも描きたいから描くという彼らの情熱を止める事はできない。
更に間が悪い事に、今年のお嬢様は『テロを制圧するぐらいならばエロに行ってくれた方がありがたい』を桂華グループ側で公言しているので、話が過激な事この上ない。
アングラ側では、下手な薬を扱うよりもお嬢様の薄い本の方が金になるからと債務者で絵の描ける奴を見つけてお嬢様の薄い本を描かせているという情報があったり。
「で、こっちはコスですが……頭痛いっすねー。
完全に過激路線じゃないっすかー……」
湾岸カーレースのレースクイーンと今年の『ティル・ナ・ノーグ』の水着のせいで、過激コスプレがぞろぞろと。
なお、R-18ではないし、コスプレイヤーたち自身それを望んでいる節があるので問題ないといえばないのだが、何分そういう趣味ではない人が見ると頭が痛くなる光景だったりする。
「ま、私は裏方なんで関係ないっすけどねー」
そう嘯く彼女だったが、後日、何故か野月美咲を始めとした側近団の百合系薄い本が流通して一部のマニアの間で話題となる事をまだ知らない。
米国のリアルの治安対策
『米国横断ウルトラクイズ』。
9.11のせいでできなくなったという……
笑ったら負け
『へうげもの』の豊臣秀吉。
この作品、後半になればなるほど、この言葉が重要になって来る。
薄い本の威力
【面白話】日本アニメはメキシコを救う!?
https://ameblo.jp/issuikai/entry-11163884826.html
これは2012年の話
多分出ているお嬢様の同人ゲームで思い出すのが、ESCAPE SOFTWAREの『Nightmare3』。
当時四国に居た私ですら耳に届いた伝説の18禁同人ゲームである。
これを書くためにググったのだが、Selenというエロゲーブランドになったが、2017年に活動を終了していた。
本当に四半世紀は過去でなく歴史なんだと思いしる。




