いくつかの記事抜粋 帝都学習館学園七不思議 破 編 その2
『樺太競馬場が完成し、夏に行われる記念式典の準備に関係者が奔走している。
樺太競馬場は大井競馬場を参考に作られ、岩崎財閥と桂華グループの支援があった事もあり、夏に行われるシーズンの目玉G1レースの名称を『樺太杯』『岩崎杯』『桂華杯』と決定。
樺太杯がダート2000メートル、岩崎杯がダート1200メートル、桂華杯がダート1600メートルで8月のお盆時期に行われる事が決定しており、同日にはばんえい競馬とトロットレースを招待して行う事で集客力を高める事を発表し話題を……』
『ネッ馬が地方自治体と監督官庁を巻き込んだ盛大な鞘当てを起こして恋住内閣が調停に乗り出す事態に陥っている。
ネッ馬は、桂華グループが主導する地方競馬救済を目的としたネット馬券販売システムの事で、このシステムを利用したい赤字公営ギャンブルを抱える地方自治体が殺到。
競馬だけでなく、他の公営ギャンブルも参加を希望している事から調整は難航している。
ネッ馬は桂華グループが救済を行っている北海道・山形・北関東の地方競馬でスタートしたのだが、売り上げが前年比70%UPという結果を叩きだしており、樺太競馬場の完成に伴い樺太競馬もネッ馬に入る事が確定。
その次を巡って関係各所を巻きこんで激しい誘致合戦が発生しており、恋住政権は構造改革特区法をたてに調整しつつも関係法の改正を秋の臨時国会に……』
『極東を中心に豪華クルーズ客船の航路開設が相次いで発表され、寄港地を巡って各都市が誘致合戦を繰り広げている。
きっかけは欧州クルーズ企業がシンガポール―香港―上海―釜山―大泊―バンクーバーという航路を2006年までに開設すると発表した事で、ついで香港クルーズ企業がバンコク―香港―沖縄―東京―シアトルという航路開設を発表。
太平洋横断航路だけでなく、大連―仁川―沖縄―香港―マニラという航路も計画されていると噂され……』
『DMVとドクタートレインが話題を集めている。
DMVはデュアル・モード・ビークルの略で、道路と線路を走れる車体なのだが、これを導入した北海道帝国鉄道は北海道庁の条例改正と構造改革特区申請に合わせて貨客混在を認め、駅舎にコンビニとガソリンスタンド、更に貨物集積所を作る事で路線収支の改善を図ろうとしている。
これに反応したのが長野新幹線開通によって切り離された横川―軽井沢間で、旧碓氷峠区間にそのまま観光列車を走らせることができると導入に前向きだ。
他にも赤字路線を抱える路線に導入の動きが見られるが、北海道のように自治体まで絡んだ導入推進までには及んでいない。
ドクタートレインは電源車・診察車・レントゲン車・手術兼寝台車・薬品等保管車・スタッフ休憩車の六両で編成され、DD51形ディーゼル機関車で引っ張る事になるが、かつて長大編成が走った路線で運用が可能な事から地方の医師不足の切り札になると目され、山陰本線・芸備線・伯備線・津山線・土讃線・徳島線・越美北線・高山本線・七尾線・飯田線・青梅線・只見線・磐越西線・米坂線・三陸鉄道などが検討を……』
『帝西百貨店のブランド「ティル・ナ・ノーグ」の売れ行きが好調だ。
元々は帝西百貨店グループも入っている桂華グループの桂華院瑠奈公爵令嬢の為のオリジナルブランドだったが、彼女がアカデミー助演女優賞を取った事で一気にブレイクし、彼女の身に着けている「ティル・ナ・ノーグ」の商品を求めて長蛇の列ができるようになった。
公爵令嬢が唇につけているリップクリームは各店舗で品切れが続出。夏の際どい水着も今年のブームとして飛ぶように売れている。
代々木第一体育館で行われた「帝都ガールズコレクション」のオープニングをつとめた事で、モード界にもその名前を刻み、公爵令嬢自身をモデルにと欧米のデザイナーがオファーをかけているが、公爵令嬢が首を縦に振らない事で「ティル・ナ・ノーグ」のブランド力がさらに高まるという好循環をもたらしている。
百貨店の衣料品部門は全体的には赤字が続いていたのだが、帝西百貨店は衣料品部門の売り上げが前年比4割増加で赤字脱却を目論んで……』
『海上保安庁第十二管区の装備更新で各企業が揉めている。
第十二管区は樺太道全域を管轄しており、旧北日本政府の海上警察をそのまま受け継ぎ旧東側諸国の国境警備艦で運用していたのだが、老朽化が目立つ事で装備の更新を計画。
その際に、外国企業に見積もりを内々に発注した事が発覚し、これに国内造船企業から抗議が行われたことで事態が表面化。
海上保安庁に樺太道庁まで巻き込んで問題が複雑化している。
冬になると流氷で航路が封鎖される樺太だが、それは間宮海峡を歩いて渡れる事を意味しており、砕氷船で間宮海峡を往復して、この手の不正規入国を防ぐためにも特別な装備が必要だと第十二管区の広報はインタビューに答えてくれたが、国内造船メーカー側は「南極観測船の実績があるのに他国に発注するのは」と怒りを隠さない。
この件は樺太併合から始まった旧北日本政府側の政府不信と、樺太道という特殊性から温存されていた独立性が剥奪される前にという意図があったと関係者が匿名で語ってくれた。
樺太銀行マネーロンダリング事件、樺太航空と合併した帝興エアラインの破綻、旧北日本軍師団を狙い撃ちにした陸上自衛隊二個師団削減等、真の統一国家としての動きを恋住政権は進めており、樺太華族たちの息の根を止める事になる華族特権剥奪諸法案が成立した現在……』




