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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
帝都学習館学園七不思議 破

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帝都学習館学園七不思議 将来ギャンブル その8

やっと長かった七不思議のネタ晴らし。

これでこの七不思議を書き続けた理由ってのが分かっていただけたらと。

 物語というものが常に与えられているからこそ、当然あるべきそれに気がつかないものが『始まり』と『終わり』である。

 えてして世の中で起きている事の多くは、その途中から知り、いつ終わったのかすら気にも留めずに次の物語を追っている。

 だからこそ、この中途半端に終わった七不思議の終わりを知るために、私は神奈水樹と蛍ちゃんと橘由香と共に中央図書館の高宮館長の所に出向く。


「七不思議の始まりと終わり……ねぇ……」

「高宮館長の事ですから、既にご存じとは思いますが、こちらも礼を尽くす意味で全ての手札を晒します。

 その上で、この物語の始まりと終わりを知りたいのです」

「そうね……まぁ、いいでしょう。

 確かに私もあの物語に多少なりとも関わった人間です。貴方たちが望むなら語ってあげましょう」


 私の低姿勢にそう言って高宮館長は語る。

 想定外だったのは、一番新しい七不思議の始まりと終わりを期待していた私達に高宮館長は最初の七不思議の始まりから語りだした事だ。


「七不思議と考えるから間違えるのよ。

 あなた達に分かりやすく認識を変えるわね。

 推理小説。七不思議殺人事件って感じにするとどうなると思う?」


 高宮館長の言葉に思わず顔を見合わせる私達だったが、真っ先に反応したのは意外にも神奈水樹の方で、彼女は小さく笑う。

 その瞬間部屋の空気が変わる。伝奇もののホラーからミステリーへ。

 そして彼女が高宮館長に期待されているであろう言葉を紡ぐ。


「見立て殺人」

「ご名答」


 見立て殺人とは言葉の通り、対象や物に見立てた事件を起こすことだ。

 今回の場合だと七不思議を一つの題材として殺人事件を起こしたという事になる。

 橘由香が不機嫌そうな顔で質問する。


「つまり、七人の殺人を起こしてその中の一人にお嬢様を入れる為ですか?」


 推理ものだと見立て殺人を行う場合、アリバイなどの犯人側の事情があげられる。

 今回で言うならば七つの怪異で私を破滅させるのだから、必然的に最後の七番目に私が対象となる。

 だが、高宮館長はそれを否定した。


「これも推理小説あるあるなのだけどね。

 計画通りに進まなくて、七不思議にこじつけて進めるって事があるでしょう?

 この七不思議、明らかに途中から方向がおかしくなっていたと思わない?」


 言われてみればそうだ。

 一番目と二番目は明らかに私に対する害意があったが、三番目のざしきわらしあたりからたしかに方向性が変わった気がする。

 四番目と五番目あたりはその変わった方向に沿っていると言えなくもない。


「……蛍ちゃんを使わずに解決した?」

(……)

「あ、蛍ちゃんについては、ざしきわらしから人間にした今の私の決断は後悔していないわよ」


 蛍ちゃんの顔が『やっぱり私ざしきわらしになるべきだったのでは』と考えていそうなので、慌ててフォローする。

 本当にこれで良かったのか分からないけど、私は私の友人を犠牲にして助かるつもりはない。

 そんなやり取りを見て高宮館長は微笑む。


「だからこそ、一番最初の事件に戻るの。

 推理小説として桂華院さんが害された場合、犯人はどういう理由で桂華院さんを害するの?

 利益?怨恨?はたまた別の何か?それが分かれば犯人の動機が見えてくるかもしれないわね」


「……なるほど、分かりました。

 こういうの、推理小説あるあるだと身内の遺産よね」


 言いにくい事をズバッと切り込む神奈水樹。

 たしかに推理小説のネタの一つでもあるし、親族が揉める理由あるあるである。

 この場合、私が害されると財産は桂華院本家の方に行くわけで……


「本家は私との関係は良好。

 やるとしたら、その下の連中かしら?」

「失礼します。お嬢様。

 少し離れる事をお許しください」


 一礼して橘由香が出てゆく。

 祖父で桂華院家の執事もやっていた橘隆二に連絡してこのあたりの洗い出しをするのだろう。

 まぁ、私が死ねば動く財産は兆を超える。

 人生を狂わせるに十二分の金だろう。


「何かひっかかるなー」


 神奈水樹の声に皆の視線が集まる。

 彼女は何かを考えながら呟いていた。


「犯人の狙いは財産じゃないとしたら?」

「じゃあ何?」

「う~ん……」


 彼女の思考が止まってしまう。

 私は彼女が答えを出す前に口を開く。


「犯人は私を害する事によって利益を得られるか、または私の存在が邪魔になったのよ」

「そうね。私もそう思うわ」

「私を害して得するのは桂華院の財力目当ての親戚筋の誰か。もしくは私の能力と存在を妬んで邪魔だと思う奴ね」

「そう……ん?

 犯人???」


 神奈水樹の声がそこでひっかかる。

 言葉は意識を定義する。高宮館長がその定義を改めるためにその名前を口にした。


「ルサールカでしょう?」

「そう。ルサールカ……あーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 立ち上がって叫ぶ神奈水樹の声に耳を塞ぐが、まだ耳の奥がキーンとする。

 そんな事お構いなしに、探偵役を与えられた神奈水樹は高宮館長に詰め寄った。


「高宮館長!! さっきの話を聞いていて気づきました!

 七不思議の始まりは桂華院さんへの害意から始まった。でも今は違う。

 これはつまり、途中から目的が変わったんですね!?」


「そうよ。ルサールカって『不自然な死に方をした人』『洗礼を受けなかった者』『夭折した若い女』の霊魂に宿ると考えられていたそうよ。

 そんな概念のオカルト、あなた達知っているんじゃない?」


(?)


 皆の視線が集まった蛍ちゃんは可愛く首をかしげるばかり。

 その名前は彼女がなれなくなった『ざしきわらし』という。


「で、多分気づいていないからちょっとヒント。

 最初の怪異。『オペラ座の怪人』がミスディレクションよ」


「え?

 メフィストフェレスなら『オペラ座の怪人』……あっ!?

 こいつはルサールカだった!!!」


 だんだんとパズルのピースがはまってゆき興奮する神奈水樹だが、聞き手である我々は茫然とするしかない訳で。

 そんな中で高宮館長が話を進める。

 この人は本当に話がうまいから、私達は最後まで話を聞かずにはいられないのだ。


「結局の所、全ては鏡に集約されるのよ。

 鏡は水のモチーフ。

 この手の精霊のお話って『とりかえ』。つまり入れ替える物語ってのもよくあるのよ。

 多分ね。桂華院さん。

 このルサールカって、途中からあなたに入れ替わろうって思ったのでしょうね。

 あの鏡台の中にラスプーチンのグリモワールが入っていたのならば、このルサールカって誰なのか想像がつくんじゃない?」


 ああ。

 ここまで言われたら私でも犯人の目星がつく。

 ロシア皇帝ニコライ二世の娘の一人で長く生存説が噂されていた彼女なのだろう。

 私は私の血を自覚しながら、その名前を呪いのように言った。


「アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ」




「どうなさいました?お嬢様?」

「あんな物語を聞かされて色々重たいなーって思っている所」


 帰りの車の中、私は橘由香にそう言ってごまかす。

 おそらくはそれすらもフェイクのミスディレクション。

 私だけは、この世界で私だけはあの物語における、真犯人の名前を理解してしまった。

 それを誰にも言えない事まで含めて。


「ああ……」


 ため息をついてごまかすが、憂鬱な表情は晴れない。

 心の中でその続きをこぼす。


(あなただったら確かに正当な権利があるわ。

 ルサールカの正体が、私が入った事ではじき出された本当の桂華院瑠奈の魂ならば……)

メリーバッドエンドを目指して書いていた時からこの構想はあって、『幸せになりたい』ルサールカこと本物の桂華院瑠奈と『時代に復讐したい』桂華院瑠奈の対峙が実はこの中等部のテーマだったりする。

その過程で開法院蛍がざしきわらし化して、神奈水樹の登場と高校時の退場という流れがだったのだが、そのプランを白紙化したせいで結構先については頭を抱えつつ書いている。


本当にこういう所で未練がましく書いているぐらい、この時のメリーバッドエンドへの強烈な伏線だったんだよ。ここ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 副題は、「家主からの呼び声」なんて言ってみます
クロノクロスのキャッチコピーに通じる物がありますね。 「殺された未来が、復讐に来る」 お嬢様のおかげ救われた人間は多いが、本来生まれるはずだった誰かが消え去ってしまったのも確か。 収支で言えば確実に…
[一言] 完結後に、メリーバットエンドルート期待してます
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