帝都学習館学園七不思議　将来ギャンブル　その7

　国会が終盤に向かい、ついに華族特権が剥奪される諸法案が参議院を通過するその日。

　意識した訳ではないが、いつもの四人であつまって『アヴァンティー』で駄弁っていた時の話。

　その言葉は『アヴァンティー』に備え付けのTVで国会中継が流れている時に出た。

　栄一くんがなんとなしにこんな事を言ってきたのだ。

「そういえば、この間瑠奈が夢に出てきたぞ」

「あ。僕の所にも来たね」

「奇遇だな。帝亜に泉川。俺の所にも来た」

　この時飲み物を噴き出さなかった私を褒めて欲しい。

　二つまでなら偶然かもしれんが、三つ、しかも私が親しくしている三人に絡むなんてどう考えてもあのルサールカに違いない。

　しかし、ここで変に取り乱してしまえばルサールカの思うつぼである。

　私は平静を保ちつつ話を振る。

「へー。どんな夢？」

　まず最初に口を開いたのは光也くんだった。

　コーヒーを片手に夢の内容を茶化し、私はその答えを聞いて思わず眉間にしわが寄る。

「エロい水着を着て『私が欲しい？』なんて言ってきた。

　あ。桂華院じゃないなとすぐにわかった」

「おい。ちょっと待て」

　吹きだす栄一くんと裕次郎くんを見つつ、かなりオコな私。

　女子たるもの、それ相応にスタイルには自信がなければやっていけないのである。

　だが、ここで怒りに任せるようならお嬢様失格である。

　私は冷静さを取り戻し、笑顔を作って一言。

「そこはもうちょっとこう言い方があるでしょう！」

「いやどう考えても取り込まれる物の怪の逸話まんまじゃないか。

　頷いたら負けだろう？」

「それはそうだけどさー！」

　それなりにプライドが傷つく私。

　そんな私の気持ちなど露知らず、光也くんは話を先に進めて私にとどめを刺してくれた。

「寝たのが深夜だったのが良かったんだろうな。

　ついついあの番組の掲示板の言葉を口に出してしまった。

　『誰も桂華院の水着は求めていない』。

　絶句しながら消えていったよ」

　笑おうとした栄一くんと裕次郎くんを笑顔で黙らせつつ、あくまでノーダメアピールをする私。

　つまり、私のゲーム番組を見た後に夢に出た訳で、追い返すには最適の言葉なんだろうが……あのADは絶対に殴る。

　名作レトロゲームだったが、何であの頃のゲームは難易度が容赦ないのか……話がそれた。

　光也くんの夢ではルサールカは何で私の水着姿で出てきたのか？その辺を詳しく聞きたいと思ったのだが、光也くんは苦笑いをしながら私から目をそらす。

　この反応は何だ？ 何か隠し事があるのだろうかと思う前に次は栄一君が口を開いた。

「俺の所にも来たな。多分同じ水着で」

　話すという事は誘惑を振り切ったのだろうが、コーラを口にしながら栄一くんは私を見ながら言う。

　色仕掛けは分からなくもないが、もう少しやり方というかタイミングがあるだろうに。

　とはいえ、ここで怒れば色々まずいので、ここは冷静なふりをしておこう。

「で、栄一くんも『水着は求めていない』とでも言ったの？」

　私のジト目に栄一くんは苦笑する。

　少し真顔になって栄一くんは夢の私を追い払った言葉を告げた。

「いや。

　『俺は瑠奈を欲しいんじゃない。越えたいんだ』

　と言った所で目が覚めた」

　それは彼がいつも言っている事であり、私も聞かされている言葉でもある。

　とはいえその言葉が出た時、栄一くんの顔が少し赤くなった事に気付いてしまった。

　栄一くんらしいというか、なんというか。それでこそ我が親友と言うべきか。

　そして、この三人の中で最後となったのは裕次郎くん。

　彼は紅茶を片手に自分の夢を語った。

「僕の所も同じ内容だね。

　まぁ、そういうたぐいの対処は仕込まれていたからこうしてここにいるんだけど」

　考えてみれば当然の事だが、政治家や財閥一族ともなるとそれ相応に恨みを買う訳で、そういう人材を抱えていない訳が無い。

　特に栄一くんや裕次郎くんはそういう出身である以上、狙われるのは必然と言えるだろう。

　ならば、その手の手管に対する対処方法も教育されているのが当たり前だ。

　私にとっての神奈水樹みたいな人間を抱えているのだろう。

　神奈一門はそれ系の対処よりも高級娼婦集団としての側面でこの国の夜に君臨している訳で、対物の怪系の稼業は当然神奈以外にもあるという訳だ。

「で、裕次郎くんはどんな言葉で追い返したの？」

「うん？

　多分桂華院さんが喜びそうな所に送ってあげたよ。

　『桂華院さんを一番欲しがっているのは恋住総理だよ』って」

「あっ……」

　私の劇的に変わった顔を見て、裕次郎くんが焦る。

　別に私が総理と敵対しているという訳ではないが、それでも私が一番邪魔としている人間が誰かと言われたら、間違いなく私もそう答える。

　大体この手の物の怪は誘惑しながらその破滅を誘うから、裕次郎くんが恋住総理にルサールカを送ったのはある意味正しいともいえよう。

　裕次郎くんが何かまずい事をしたかという前に私がため息をついて否定した。

「かわいそうに。その物の怪。

　一番行ったらいけない所に行っちゃって」

　目前に迫る参議院選挙、その後に来る郵政民営化の政局を前に、そんな鴨が葱を背負って来るような真似をするとは……

　知ってはいたが、オカルトサイドからも恋住総理の劇場が確定した事を私は確信せざるを得なかったのである。

　テレビに目を向けると、華族特権剥奪諸法案が参議院で可決されて、来ていた恋住総理が頭を下げていた。

　なお、この派手なアピールの裏となる枢密院で食券絡みのあれこれに蓋がされているはずであり、恋住政権はこの参議院選挙を目立つ問題もなく安定した支持率で迎える事になる。