帝都学習館学園七不思議 将来ギャンブル その6
「多分科学で探っても何も出てこないわよ」
それとなく話を持って行った神奈水樹の第一声がこれである。
蛍ちゃんの生まれに何かやばいものがあるという事は彼女が座敷童子になる所から察していたが、探れば探るほど出てくる深淵に私どころか神奈水樹もため息をつくしかない。
事が事なのでわざわざ神奈一門のビルまで出向いての話し合いである。
オカルト相手だと現代社会の武力が中々効かないのが困りものだが、さすがにこの国の裏で占い師として君臨している神奈一門のビルならばそれ相応の防御はしているだろう。多分。
「華族はそのあたりかなりしっかりと調べるのよ。
托卵なんてあったら家の序列が狂うからね。
その上で本家と分家みたいに序列を定義する。
逆に言えば、そういうシステムができている以上、開法院さんの血は保証されている」
そう言う神奈水樹の言葉には重みがあった。
彼女属する神奈一門はその血ではない序列でこの国に根を下ろしている。
『神奈の継ぎ花』。それはかつての武家の名字拝領に近い形をとっているが、いずれは古典芸能にみられる襲名に行くのではと神奈水樹自身が語っていた。なお、現当主である神奈世羅の後継者と目されている神奈水樹なので、それが実現すれば二代目神奈世羅と彼女はなるのだろうが……話がそれた。
「科学じゃない所って?」
私の質問に神奈水樹は実に救いようがない笑みを見せる。
こんな顔ができたのか。彼女。
そんな事を思うくらいに。ここまで酷い顔をした彼女を私は見た事がなかった。
今の彼女の顔が本当の彼女なのかもしれないと思うぐらいに。
その本性がこちらなのか、それとも男と遊び惚けるあちらが本性なのかはわからないけれど。
「決まっているじゃない。魂よ。
よくあるじゃない。子供ができない家が神様にお願いした結果子供ができた昔話。
さて、その子供の魂はどこからやってきたのか?誰に導かれたのかしら?」
桃太郎や竹取物語でもそうだが、そもそも桃や竹の中から人の子供は生まれない。
それが生まれた以上は何かの理由が、桃や竹にかこつけた理由があるならいいが、本当に桃や竹から生まれた場合は必然的にオカルトな何かの存在が嫌でも見えてくる。
ましてや、蛍ちゃんはこの国の繁栄を導くために作られる座敷童子になるはずだった子である。
つまり、開法院老が計画を推進したとしても、その彼に加担したオカルト的な何かの存在が見えてくる訳で。
そうなると、開法院老に加担したオカルトとは一体誰なのかという話にもなる。
「桂華院さん。気づいてる?
この話、噂だけが先行して、まだ桂華院さんの周りに接触していないって事に」
神奈水樹の声にたしかにという顔をする私。
そろそろ私の周辺の誰かに接触していてもいい頃なのに、未だそういう変化を見せた人間は私が知る限りいないはずだ。
この手の話はそもそも噂として流れているものであって、真実かどうかは誰も知らない上に、大体当人すらも覚えていないのがお約束。
それでも今までの七不思議では行動や言動が変わったりしていたので、そこで気づくことができた。
今の所、私が見る限りではそういう人間は居ない。
「そういう口ぶりからしてある程度の理由に心当たりがあると?」
「あくまで、私の考えでしかないけど、今の桂華院さんの将来が膨大過ぎるのよ。
多分一人の将来だけでは足りないから、複数人の将来をかき集めようとしている」
私の質問に神奈水樹は断言する。
賭けというのは天秤が釣り合わないと成立しない。
今の私はアンジェラ曰く『何にでもなれてしまう』為に、私から将来を奪うためにはまず釣り合うだけの将来をかき集める必要があるという訳だ。
そこまで聞いて私は一つの疑問を抱く。
ルサールカが私の破滅を願うのならば、何故未来に仕掛けないのかという点だった。
その破滅は、2008年9月15日まで待てば確定しているというのに……
「多分、こんな感じになると思う。
裏で暗躍するルサールカがギャンブルの何かと組んで桂華院さん周辺の誰かに接触する。
もちろん、その誰かでは桂華院さんの将来を全て奪う賭けが成立するチップが足りない。
だから、誰かにルサールカはかき集めた将来のチップを渡す必要がある」
「今はその準備段階って訳ね……」
神奈水樹の話を聞いてようやく納得できる部分が見えた気がした。
問題は、それでも未だ受け身に回らざるを得ないという所なのだが。
「今のうちに何かできる事はある?」
「せっかく作ったお稲荷様にちゃんと手を合わせておきなさいな。
今の桂華院さんには、少なくともお狐様の加護があるわ。
向こうの神様が桂華院さんを害したら、お狐様が怒り狂う事を向こうのオカルトもわかっている。
だからこその、今の膠着状態よ」
なるほど。
向こうの連中は下手に動く事ができずにいるのか。
そんな事を考えながら、私はお狐様に捧げる稲荷寿司は欠かさない様にしようと心に誓ったのだった。
なお、この神奈水樹の予想は半分だけ当たっていたりするのだが、そのもう半分は予想外の、ある意味必然によって事態は急展開を迎える。




