帝都学習館学園七不思議 将来ギャンブル その5
翌日、朝食も当然清麻呂義父さまと仲麻呂お兄様たちと囲んで食べる。
家族の食卓なのだろう。一応。
「昨日はよく眠れましたか?」
「はい」
「それなら良かった」
嘘である。
逆凪の事を考えていてあまり眠れなかったのだが、いつの間にか寝ていたのでそれほど眠気はない。それよりも、昨夜考えた事が怖くて仕方がないのだ。
おそらくは桂華院家当主である清麻呂義父様と次期後継者である仲麻呂お義兄様が知らないのは確信できる。
知っていたら、養女という形で私をこの中に入れなかっただろうからだ。
知っている可能性があるとしたら執事の橘なのだが、これも除外。
彼は私が信じた人間で、今までの私に付き合ってくれたという過去がある。
「どうしたのです? 浮かない顔をして」
「いえ……なんでもありませんわ」
そう答えておいた方がいいと思った私は首を横に振る。
しかし、それは間違いだったようだ。
仲麻呂お義兄様の隣に座っていた桜子さんが笑顔で圧をかけてくる。
「何かあるのでしょう。よかったら話してくれません?」
「……実は昨日の件で」
あっと察してくれる清麻呂義父様と仲麻呂お義兄様。
岩崎の食券問題は下手すれば夏の参議院選挙で爆発しかねない大問題である。
それを裏道獣道を駆使しつつ政治に根回しをし、財閥から金を出させて蓋をして見なかった事にするだけで既に兆の金が消えているのだからたまったものじゃない。
とはいえ、兆単位の不良債権も家族の話題にはかなわないのが女というか嫁という生き物である。
「もぉ、また瑠奈さんを巻き込んだんですね!
まったく二人と言い、お爺様といい、瑠奈さんを頼り過ぎです!!」
笑顔で怒るという女特有のテクニックに両手をあげて降参する仲麻呂お義兄様。
宥めれば機嫌を直すし、基本仲麻呂お義兄様と桜子さんの仲はいいので、私もフォローに回る。
まぁ、こういう事は前世でも散々やっているからお手のものだ。
「悪かった。どうしても瑠奈の了解を取らないといけない案件だったんだ」
「桜子お義姉さま。お気になさらず」
「もぉ、政治とか経済とかの難しい話はさっさと信頼できる人に任せて、瑠奈さんはもっと青春をエンジョイしないと」
機嫌を直す桜子さんだが彼女も岩崎の血が入っている訳で、やっぱり岩崎の血が入っている仲麻呂お義兄様と相性がいいのはそういう所もあるのかもしれない。
桜子さんが機嫌を直したところで、今度は私が微笑みつつ話題をそらす。
「私もそこそこ青春をエンジョイしていますよ。
明日香ちゃんとか蛍ちゃんたちと年相応の遊びをしているんですから」
「たしか、春日乃衆院議員の娘さんと開法院男爵の娘さんか。
瑠奈がお世話になっているのならば、一度ご招待しておかないといけないな」
清麻呂義父様が私の話に乗るが、このご招待というのが華族社会のめんどくさい奴の最たるものだったりする。
我が桂華院家は『公爵』家。開法院家は『男爵』家、国会議員ではあるが春日乃家は爵位なしなので、世が世なら付き合える格ではないとなる訳で。
こういう所はルーズになった現代社会というものはありがたい。
仲麻呂お義兄様もその話に乗る。
「たしか、開法院家とは付き合いがあったと思うのですが?」
「先代が贔屓にしていてね。
寄親になっていたんだよ。
先代が亡くなってからは離れたが、縁というのはあるものだね」
ちょっと待て。清麻呂義父様に内心突っ込む私。
それ聞いていないんですけど?
朝食後、帰ってからさすがに橘に確認を取ると、彼はえらく懐かしそうに言った。
「あのお方ですか。
彦麻呂様とは長い付き合いだったそうで、相談役として桂華院家の陰陽博士を務めていらっしゃったのです」
橘の説明をまとめると、一時期祖父である桂華院彦麻呂の側近の一人として傍にいたらしい。
時間軸的には、橘が台頭する前の側近であり、戦前戦中の激動の時代を支えたとか。
「なんでそんな家が疎遠になっているのよ?」
私が悲鳴に近い声で質問する。
華族というのは面子商売でもある。
橘ですらこうやって桂華院家の執事をするぐらいに優遇していたのだから、開法院家だってそれ相応の待遇を用意しなければいけないはずなのだが、橘はめずらしく私から視線を逸らして口を開く。
「私が先代様の側近に取り立てられるあたりなのですが、神奈一門と確執があって、先代様が神奈側についたのです。
それで縁が途切れてしまい『当代で途切れる当家との付き合いはもう結構』とこちらの手を振り払ってしまい……」
橘の言葉に頭を抱える私。
ここで神奈一門が絡むのか。
神奈水樹本人から聞いたから間違いが無いが、第二次2.26事件で殺害対象だった桂華院彦麻呂に情報を流して恩を売った神奈世羅が台頭し、開法院家と決別……ん?
橘の説明に違和感を覚える私。
その違和感に気づいた時、言葉に出さなかった事は自画自賛したい。
ちょっと待て。
開法院老は『当代で途切れる』って、じゃあ蛍ちゃんって誰の子供なの!?
寄親
なおこの後に寄子と続き『寄親・寄子』と繋がる。
武家の風習だが、華族は大名家がかなりなった事でこの制度が入ったという設定。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%84%E8%A6%AA%E3%83%BB%E5%AF%84%E5%AD%90




