帝都学習館学園七不思議 将来ギャンブル その4
東京都港区白金にある桂華院公爵家本家。
家族の団欒の中でも離れて政治の時間が始まった。
「とりあえず、最低限の蓋をする事については総理からも同意を得ていると議長を務める泉川副総理からの伝言だ。
中の取りまとめについては、渕上伯爵が動いている」
桂華院公爵家当主である桂華院清麻呂義父様の言葉に、心の中で手を打つ私。
渕上元総理、叙爵されて伯爵になったんだよなぁ。
そんな事を思っていたら、隣に座っていた岩崎弥四郎頭取が清麻呂義父様に確認する。
「蓋をする規模は?」
「財政投融資は使わず、合併特例債を活用する事になる」
平成の大合併の最中、その合併自治体の円滑な作業の為に用意されたのが合併特別債である。
こいつの特色は、利子まで含めた自治体負担が三割で済む、つまり残り七割は国が肩代わりをするという訳だ。
財政基盤の乏しい自治体は三割負担でもきついだろうが、今、ここで火を噴いて政局なんて事になったら目も当てられない。
「流通している食券だが、まずは管理の厳格化を通達。
期限切れ食券を消した上で、ケーカと帝都岩崎銀行が発行する身分証明カードへの切り替えを推進する」
岩崎弥四郎頭取が来たのはこの為か。
この問題の元凶は、未だ把握ができていない樺太住民の身分保障と通貨不信がある。
その為、身分保障と銀行口座のセットでアンダーグラウンド勢力を追放する所から始めないといけなかった。
未だ樺太銀行マネーロンダリング事件が引き起こした爪痕は日米露三国にまたがって癒されていない。
「参議院選挙が近い今、食券がらみによる騒動は避けたい」
清麻呂義父様のぼやきに近い声に岩崎弥四郎頭取も苦笑する。
私がどういう目に遭ったか見ているだけに、恋住総理を敵に回すなんて愚行を犯したくはないようだ。
「確かに。
食券については、当面は岩崎財閥系列の店舗に限り利用を許可する方向で行くしかない」
ここで声を出したのは仲麻呂お義兄様だった。
この話の前に知ったが、帝都岩崎銀行の社外取締役に就任していた。
「湾岸の特区開発。
あれは自腹でなく、特殊債を起債して帝都岩崎銀行と桂華金融ホールディングスで引き受けさせたい」
「え?
仲麻呂お義兄様。あれぐらいの金だったら私が自腹で出しますよ?」
「特別債という所で察してくれ。瑠奈。
湾岸の特区は一番進んでいるんだ。
実績として積み上げるのと、特区周りの自治体救済の迂回融資が目的なんだよ」
「あー。そっちですか」
連結会計の世の中、『金がどう出て行ったか?』だけでなく、『金がどうやって入ったか?』もチェックされようとしていた。
『税金で救済』が住専をはじめとした不良債権処理で派手にぶっ叩かれた今、それで多額の税金を注ぐ訳にもいかず、特殊法人の政府の保証がないけど同等の扱いで金融機関が直接引き受ける特別債は実に都合が良かったのである。一時しのぎには。
「わかりました。
じゃあ、一条とアンジェラに命じて、ケーカがらみの資料を用意させます」
「助かるよ」
私の言葉に岩崎頭取が軽く頭を下げて、それで政治の話はひとまずおしまいとなった。
この四人の関係は、私が清麻呂義父様の養女であり、仲麻呂お義兄様が清麻呂お義父様の実の息子、岩崎頭取の孫娘が嫁いだ先が仲麻呂お義兄様という訳で、それ相応に家族の話も進む。
「で、最近は道麻呂も言葉を話せるようになってね」
「もうそういう年ですか」
「弥四郎さんも、よくひ孫の顔を見に来てもらっていてね」
「まぁ、仲麻呂君をこのまま財団で飼い殺すのはあまりに惜しくてな。
見るついでに口説かせてもらったという訳だ」
「仲麻呂お義兄様大丈夫ですか?」
私が危惧の声を出したのは、仲麻呂お義兄様はかつて桂華金融ホールディングスの社外取締役についてもらったのだが、中の魑魅魍魎ぶりに退いてもらったという過去があるからだ。
私の危惧に岩崎頭取が胸を張る。
「まぁ、帝都岩崎銀行で、桂華金融ホールディングスみたいな事をする輩は居ないよ」
こういう所で閨閥というのは力を発揮する。
岩崎御三家である帝都岩崎銀行の頭取の孫娘の婿となれば、帝都岩崎銀行では外様ではなく最低でも譜代扱いという所で、それ相応のスタッフもつけられているのだろう。
本当に岩崎頭取が仲麻呂お義兄様を買っているのだなと分かって、私は自然と笑みがこぼれた。
「七五三が楽しみだよ」
「ですな。昔は『七つまでは神のうち』なんて言われていたから、親父は派手に遊んで偉い迷惑がかかったもんだ」
「二人とも瑠奈の前であまりそういう事を言わないでください」
いつの間にか酒も入ったらしい岩崎頭取と清麻呂義父様を仲麻呂お義兄様がたしなめる。
二人が言っているのは、昔の子供の死亡率の高さとかで、今の子供は丈夫だから七つまでは神様の子だと言われていたり、逆に数え歳で祝うようになったりと、時代によって変わる……ん?
今、桂華院本家は清麻呂義父様と仲麻呂お義兄様の直系で、私は清麻呂義父様の異母兄である乙麻呂の娘である。
いやな想像が頭をよぎった。
正確には別れる前の神奈水樹の言葉なのだが。
「これだけの大呪術、逆凪がなければおかしいのよ」
「逆凪?たしか、漫画で見たような覚えが……」
「世紀末のオカルトものでよくあったわよ。
要するに呪いの反動。『人を呪わば穴二つ』と言うでしょう?
その呪った穴に自分が落ちない為に、別の誰かを穴に落とすという訳」
その時は、この国の繁栄を願った大呪術の逆凪は太平洋戦争敗戦という報いを受けたと納得したものだったが、祖父である桂華院彦麻呂が成り上がったきっかけでもあった。
じゃあ、桂華院彦麻呂が開法院老の呪術の恩恵を受けていたとして、誰を身代わりにした?
「どうした?瑠奈?」
「すいません。そろそろ眠気が」
「すまない。まだ中学生というのを忘れていた」
「今日はここに泊まってゆくといい」
「そうさせていただきます。お休みなさいませ。みなさま」
用意された部屋に入るとベッドに入って震える。
身代わりは当然身内の方が都合が良い。
だとしたら、私が桂華院本家が用意した逆凪の生贄と仮定するならば、何故ゲームにおいて仲麻呂お義兄様が死ななければならなかったのだろう?
枢密院の処理
緊急勅令
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%8A%E6%80%A5%E5%8B%85%E4%BB%A4
枢密院のというか戦前内閣のある意味切り札。
台湾銀行救済はこれに失敗してしまい、若槻内閣はぶっ倒れた上に昭和金融恐慌の引き金を引き事に。
何度か言及しているけど『昭和金融恐慌史』(講談社学術文庫 高橋亀吉 森垣淑)はマジでおすすめである。
逆凪
呪いに対する反動。なお、私が見たのはCLAMPの『東京BABYLON』(WINGS COMICS)の桜塚星史郎さんである。
これはオカルトより本当に人の業が透けけて好きだったんだよなぁ。




