帝都ガールズコレクション 2004 春夏 その1
小話のつもりが長くなったので分割
中学にもなるとおしゃれにも気を遣うのが女の子というもので、ファッション雑誌なんかも手に取るようになるお年頃である。
「って、ある意味瑠奈ちゃんはいいわよねー」
とはファッション雑誌を片手に持った明日香ちゃんのぼやき。
なお、そのメイン記事は『ついに開催!帝都ガールズコレクション2004春夏』である。
ついでに言うと、隣にいる蛍ちゃんも雑誌を見ているので、それ相応におしゃれをしたいらしい。たぶん。
「どうして?」
「瑠奈ちゃんの場合、着るもの大体決めてくれるじゃない」
明日香ちゃんのぼやきに私も苦笑するしかない。
この場合の着るものというのは写真家の石川先生のセレクションで、それ以外では深夜のコンビニに出向いたジャージ姿ぐらいなものである。
これをパパラッチされた時はさすがに石川先生も何も言わなかったが、深夜の買い食いがばれてメイド長の佳子さんにお説教をされたばかりである。
やはり蛍ちゃんのかくれんぼ能力をラーニングして箱で透明にならねば……話がそれた。
「大体、街のどこかにポスターが張られているってそれはそれで面倒よ。
体験してみる?」
「まさか。
地元の愛媛でもコンビニで瑠奈ちゃんのポスターが張られていたわよ。
百貨店は、瑠奈ちゃんの会社だからでかでかとポスターが。
人気者はつらいわねー」
こうなると警察の指名手配のポスターよりも多いのが笑える。
なお、際どい水着ポスターは大量に剝がされて持っていかれる事件から正式販売に切り替えており、飛ぶように売れ続けているらしい。
「あの先生、作品として都市そのものを額縁にしたいって試みなんだって」
「額縁?」
おうむ返しに返事をする明日香ちゃんに私は石川先生の言葉をそのまま口にする。
なお、私もあまりよく分かっていない。
「都市というものが人間が生み出した無意識の芸術という考え方があって、それを作品という額縁にする事で、時間を閉じ込めるんだとかなんとか」
「なにそれ?」
「実を言うと私もよく分かっていないのよ。
分かっていると言えば……」
そんなやり取りの中、明日香ちゃんの持っているファッション誌のページの『帝都ガールズコレクション』の記事を開いてため息をついた。
「これ、石川先生絡んでいるから、確実に私もステージに立たされるって事よ……」
「ご愁傷様」
明日香ちゃんと蛍ちゃんがぽんと私の肩に手を置く気づかいが実にありがたいと思うと同時に、完全他人事という事で気楽に言っちゃってという言葉が出そうになったのを笑顔で呑み込んだのだった。
「で、案の定こうなったと……」
帝都ガールズコレクション会場の作業用駐車場に停められた専用トレーラーハウスの中で私がぼやく。
会場の代々木第一体育館の裏方が修羅場な為に、警備上私を楽屋に入れたくないとの事で、こうしてトレーラーハウス内の私用に改造された休憩スペースで休む事に。
当たり前のようにいる石川先生がご機嫌をとるように釈明する。
「でも好きでしょ?こういう場所?」
「それは否定しませんけどぉ……」
なお、このトレーラーハウスは湾岸カーレースのモデル用に富嶽テレビが用意していたものらしく、借りパク……げふんげふん。改造したので一台新車を進呈する事と、その進呈式にRQ姿で出る事で手打ちが成立しているとか。
もちろん私は何も知らない上でのやりとりである。
「要するに、この手のお祭りは、繋げる事で何倍もの効果になるのよ。
まぁ、この一年はたっぷりと使わせてもらうから」
「配慮はしてくれているんでしょうけど、私の意見は?」
「分かっているくせに」
「むー」
石川先生のとてもいい笑顔に黙り込む私。
この一年、メディアの寵児としてこき使われるという事の意味を理解しているから、私も半分義理と半分実利で来ているのだ。
この7月には参議院選挙が行われ、それが終わると郵政劇場という超特大の舞台の幕が上がるのを知っているだけに、メディアの寵児という存在が発する言葉の威力を無視するつもりもない。
たかがお子様の言葉と侮るなかれ。
テレビはそれを駆使して世論を操ってきた過去があるからこそ、今我が世の春を謳歌している。
「で、私はどっち?
立つ方? 座る方?」
ファッションショーは観客すらファッションショーのモデルとなる。
座って見ている人間ももちろんそれ相応のファッションセンスが求められる。
何しろ、近年のファッションショーはテレビや雑誌によって観客にも視線が行くようになったのだから。
だからこそ、私は『立つ方』つまりモデルと『座る方』つまり観客のどちらと聞いたのだが、出てきた言葉は想定外だった。
「両方。
元々ファッション業界は、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークで世界的なコレクションが行われて、東京はその一段下なのよ。
何とか上四つに食い込んでやろうって友人も多くて、そんな人たちから色々協力を頼まれていたって訳」
なるほど。
帝都ガールズコレクションのオフィシャルスポンサーは帝西百貨店であり、その帝西百貨店が大々的にPRしていたのが私というか『ティル・ナ・ノーグ』。
ああ。ファッションショーのスポンサーになってしまえば、私はそりゃ傍若無人に動けるし、それが更にムーブメントを作ってゆくという訳だ。
私は呆れ声を出したが、石川先生の返事にシャッター音がついたのは御愛嬌。
「石川先生。
いつの間にそんな手管を覚えたんですか?」
「あら知らなかったの?
女を脱がせるのも、スポンサーから金を出させるのも本質は変わらないのよ」
帝都ガールズコレクション
元ネタは『東京ガールズコレクション』。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3
明日香ちゃんの地元の百貨店
伊予鉄そごう。現実では破綻して伊予鉄高島屋に。
このそごうの破綻劇は琴電と伊予鉄の明暗を分ける結果となった。
なお、ファミマの愛媛県進出が始まるのが2003年。
都市そのものを額縁に
『赤い眼鏡』の兵頭まこ。
通してみると押井守監督ファンの私でもきついが、個々の絵とシーンは恐ろしく出来がいいとみなおして気づいた。
そして数少ないカラーシーンでの彼女が美しいんだ。これが。




