帝都学習館学園七不思議 将来ギャンブル その1
「ねぇ。こんなうわさを知っている?
この学校のどこかにギャンブラーが居るんだけど、その人が賭けるのは将来なんだって」
「将来?なにそれ?」
「さあ?よく分かんないんだけど、その人とギャンブルをして負けた人は華族や財閥の御曹司でも没落したそうよ……」
「へぇ~!怖いね……じゃあさ!もし、勝ったらどうなるのかなぁ!」
「そんなの決まってるじゃない!好きな人とずっと一緒に居られるんでしょ?」
「え!?そっち?私はてっきりお金をたくさんもらえるのかと思ってた……」
「あはは!確かに!でも、もし本当にそうなったら良いよねー!」
「うん!そうだね!」
そんな噂を捕まえる事ができたのは、最近高等部に編入した桂華院家の銅バッジ生徒の先輩のおかげだった。
何でも元ハッカーらしいのだがこういう噂を集めるのもうまいらしく、私がそういうのを集めているのを野月美咲から聞いてそれとなく情報を集めてくれていたとの事。
私がレポートを眺めながらため息をつく。
「高等部かぁ……それは盲点だったわ」
「正確に言うならば、大学及び高等部ですね。
多分元々の噂の発生源は大学で、大学の生徒がギャンブルを覚えるじゃないですか。
同時に卒業と共に就職だから、そんな噂ができたのだろうと。
高等部に流れてきたのは、大学の推薦枠で高等部と大学が交流しているからでしょうね。
その推薦と受験が、噂の根本にある将来に関わって来るので」
レポートを机に置いて私はため息をつく。
功は賞さねばならない。
「その先輩には、十分なお礼を」
「それなのですが、お嬢様。
当人が受け取りを拒否しておりまして、そのあたりも相談させていただきたく……」
「また何で?」
「『高等部に入れていただいた事で十分。あくまでこれは個人的な趣味の範疇』と言ってまして」
野月美咲から理由を聞かされて、まぁそうだろうなとは納得する。
先輩の資料を見ると、20歳の高等部新婚さんの人妻という属性てんこ盛りで、そもそも帝都学習館学園高等部に入る気なんて無かった訳で。
何でも新宿ジオフロントがらみで多大な貢献をしたとかで私というか桂華院公爵家側が恩を押し付けたのだとか。
報いる事が出来なければ、桂華院公爵家の名が廃るというもの。
しかし、あの人の望む報酬が分からないなぁという所で、野月美咲が重要情報を後から出してきた。
「この先輩。神奈水樹と知り合いだそうで」
「あー」
こんな感じで新しい七不思議の幕が上がったのだった。
「ギャンブルかー。
かなりまずい所を突いてきたわねー」
呼び出された神奈水樹は不機嫌そうに顔をしかめる。
控えている橘由香が入れた紅茶を飲みながら、私を見据えてくる。
「それで?何を聞きたいわけ?」
「最初から。事オカルトについては知識がないので」
そう言った私に神奈水樹はポケットから財布を出して百円玉をテーブルに置く。
昔、こういう事をやったのが遠い過去のように思えると感じたのは少しの間。
神奈水樹が口を開いたのを見て、私も気を引き締めた。
「これをとりあえず将来にしましょう。
あと、誰かここに百円を置いて頂戴」
私が出そうとするのを察して橘由香と野月美咲が百円玉を一個ずつ置く。
置かれた三百円をそのまま、神奈水樹は私の前に置いた。
「多分これがこの噂の本質。
多くの人たちから将来を取り上げて、それを勝った人間に渡しているのよ。
未来を固定させる呪いね。これも」
その言葉はたしか神奈水樹から聞いた覚えがあったな。
一番最初の占いの時だったか。
「このギャンブルの質の悪い所は、本来払うべき賭け金を他の人の将来で払っているという所。
例えば、私が占って百円賭けたとしても、まだ桂華院さんの手元には二百円が残っている」
そこでようやく分かった。
彼女の言いたい事が。
つまり、彼女はこう言っているのだ。
『人の将来を横取りして、貴方の将来をバラ色にします』
と。
顔をしかめる私の耳に疑問の声が飛び込んできた。
「それの何がまずいんですか?
ギャンブルとはいえ、勝った人間が幸せになる。
問題がないように思えますが?」
元社会主義国家出身だからこそ、公平感で国が滅んだのを目の当たりにした野月美咲が心の底から首をひねる。
自由主義国日本では、人は平等であると謳いながらも個人の格差は許容されている。
だが、野月美咲にとっては平等こそ悪であり、不平等の許容こそが正義なのだ。
そんな彼女に神奈水樹は微笑み、見ていた私は察した。
こいつ、分かっていて言ってると。
「今はたった三百円だけど、もっと多くの人がギャンブルに参加したら?
そして、その集まった将来をたった一人に渡す事ができたら?
その人はどれぐらい将来幸せになるんでしょうね?」
なお、この情報を持ってきた先輩に対する報酬だが、神奈水樹がその先輩を言いくるめると約束したのだが、その代償が……
「代わりにお願いなんだけど、あの人のネットカフェ使用禁止令を解くようにお願いしてくれない?
私、ラブホテル禁止令を警察から出されてて、高級ホテルかここのトイレしか使えないのよ」
なんてかわいい声で手を合わせたが、私たち三人は養豚場の豚を見るような目だったのは言うまでもない。
この物語は11/10にちょっと遊んでいたドル円相場で火傷を負ってネタにしてやるという情念から生まれたものである。
高いネタ代だったが、「ソシャゲガチャ代より安くね?」と気づいてガチ凹みしたのも日記代わりに残しておく。
養豚場の豚を見るような目
https://dic.pixiv.net/a/%E9%A4%8A%E8%B1%9A%E5%A0%B4%E3%81%AE%E8%B1%9A%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%AA%E7%9B%AE
多分これ書籍化の際に確実に修正が入りそうな表現だが、端的にあの場面を表わしているので使う事にした。




