湾岸カーレース TIGバックアップシステムスポンサー車選定 その1
長くなりそうなので分割
喫茶店『アヴァンティー』に私たちカルテットが集まって雑談する時は、最近は公私混同の話題になる事が多い。
これはそんな話である。
「TIGバックアップシステムが湾岸カーレースのチームのスポンサー企業になるの?」
「すまん。瑠奈。
これはうちの実家がらみでな」
「あー。納得」
正月の夜。正確には1/2の1:00から5:00の首都高を使って行うこのカーレースは映像などの話題作りの先行とは裏腹に、政治的暗闘や国際問題が絡んでレギュレーションなどがまだ決まっていない恐ろしいレースになっていた。
それでも栄一くんの実家であるテイア自動車としては、国内の公道で走るレースなんてものが開催される訳だから逃げる訳にも行かず、複数のプロジェクトチームを立ち上げているとか。
「で、実家に何か言われたの?」
「というより、絡む事で何か言われないようにという予防が目的なんだ。
勝つまでは求めないし、それは本家のチームがするしな」
コーラを片手にしみじみと言う栄一くんの顔に苦笑が浮かぶ。
帝亜グループの御曹司も色々大変らしい。
彼らにとっては負けられない戦いだから邪魔したら悪いし、かといって無視する事もできず。
ティーカップを置いて裕次郎くんが、話に割って入る。
「桂華院さん。具体的なコースとかは決まったの?」
このあたり極秘というか金とコネをだしているのが私なので、ある程度は口出しできる立場だったりする。
控えていた橘由香に地図を持って来させて、テーブルに広げて話す。
「お台場の富嶽テレビ前がスタートで、首都高湾岸線の大黒PAまでは確定。
まだ固まっていないのは、プライベートレースなのをいい事にコースを少し弄る事を考えているかららしいけど」
「弄るって何処をだよ?」
コーヒーを片手に口を開いた光也くんの怪訝な声に、私も苦笑してそれを地図で指さした。
FIAのレースだとこれは認められないのだとか。
「大黒PAからの帰りを新木場ICまで伸ばすとか。
超ロングストレートを爆走する絵が撮りたいとかで」
新木場ICで降りて折り返して、また新木場ICに入ってお台場にというのが一周のコースとなる。
新木場ICから大黒PAまでが片道で大体32キロ。
これを往復だから倍の64キロのコースとなり、これを四周する256キロ以上(お台場の下道コースもあるとか)のレースとなる予定だ。
「そんなコースの関係から、レギュレーションはラリーレースのレギュレーションに準ずるんじゃないかって仕切っている局長が漏らしていたわ。
ドライバーは二人で一周ごとの交代。
車によるランク分けとドライバーを複数用意できないチームの為に、お台場と大黒PAまでの片道レースもできたらしたいとか。
あと、ドライバーも書類審査の都合上ライセンス……だったっけ?
それを持っていないと駄目みたいなことを決めようとして、FIAと壮絶に揉めているとか」
察した裕次郎くんが頭を抱える。
この手の許認可はそれぞれ政治の領分だからだ。
「出たドライバーのライセンスを剥奪するって脅された?」
「正解。で、それに富嶽テレビと組んでいるガーファ・コーポレーションとアヴァロン・アトランティックがブチ切れて、欧州で法廷闘争をやるとか」
なお、FIAの介入でドイツのメディア企業が2002年に破綻に追い込まれている。
このメディア企業の破綻はサッカーとF1の放映権に多額の資金を支払ったものであるとされ、コンテンツの囲い込みとその放映権獲得の高騰が実は湾岸カーレース開催の源流だったりするのは、私も後で知った事だったり。
「瑠奈。
お前たちと組んでいたフェブエッジは何をやっているんだ?」
「うちと同じく水ぶくれで苦しんでいる最中。
とりあえず、リベンジを果たした野球で手一杯よ」
富嶽放送買収で手を組んだ桂華グループ・フェブエッジ・ガーファ・コーポレーションとアヴァロン・アトランティックは、それぞれ狙うものが違っていた。
フェブエッジはオーナー会議で突っぱねられたプロ野球を。
ガーファ・コーポレーションは国際メディア企業としての富嶽グループのメディアを。
アヴァロン・アトランティックは歌手やタレントを。
そして、桂華グループは富嶽グループが主導する湾岸再開発を。
それぞれ狙う物が違っていたからこそ妥協ができた一例だろう。
「とはいえ、彼らの本業のネット周りでは色々動いているみたいよ。
アヴァロン・アトランティックの仲介で、英国ブックメーカーを買収してこのレースの賭けの胴元をするみたいだし」
「抜け目がないな」
光也くんの呆れ声というか感嘆の声に私はグレープジュースで喉を潤して話を終える。
ここまでが、ある意味雑談みたいなものだからだ。
で、本題に入る。
「で、スポンサーするのは構わないとして、どの車を選ぶ訳?」
テーブルの地図の上に更に車とチームの資料が数点置かれる。
栄一くんがコーラを飲みながら、冗談風に確定事項を告げた。
「まず大前提。
テイア車じゃないと駄目」
「「「ですよねー」」」
私と裕次郎くんと光也くんが同時に頷いて選考が始まった。
独メディアの破綻
独キルヒメディアの破綻が意味するもの 国際経済労働研究所インフォメーションセンター
https://www.iewri.or.jp/cms/archives/2003/04/6.html




