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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
帝都学習館学園七不思議 破

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カートレイン復活

 イベントというのは続く時には続くもので、今回も鉄道イベントである。

 カートレイン。

 要するに車を列車で運ぶという奴なのだが、車の大型化と分割民営化に伴い会社を跨ぐことが嫌われて消えたものである。


「で、何でこれを復活させる事になった訳?」


 札幌貨物ターミナル駅での式典に出る事になった私に、三木原和昭桂華鉄道社長が苦笑する。

 なお、こいつは東日本帝国鉄道管内でも復活予定だったりする。


「生産地から消費地への貨物輸送はどうしても片荷輸送になります。

 これはそれの改善も目指しているんです」


 生産地から消費地へ荷物を送ると、帰りは空で帰る事になる。これを片荷輸送という。

 貨車の送り返しは確定なのだが、上のコンテナは分解する事でスペースが作れるため、その上に車なりバイクを載せてという有効活用が発想の元だったりするとか。

 貨車に連結させる客車に入る。

 当たり前だが、運転者を車に乗せたまま輸送するのは危ないので、輸送中は客車に移ってもらう事になる。

 その為の客車には使われなくなったブルートレインを利用しており、自販機や車内販売も行うとか。

 ダイヤを見ると、貨物最終便を利用して朝到着と邪魔にならないような運行にしていた。


「とりあえず、苫小牧貨物ターミナル及び札幌貨物ターミナルと釧路及び網走を繋ぐ予定です。

 函館本線の山線の利用促進も兼ねて、小樽貨物ターミナルと函館貨物ターミナルも走らせる予定です」


 三木原社長の説明に合わせて地図を見るが、北海道はやっぱりでかい。

 地図だと近いように見える苫小牧と札幌間ですらおよそ70キロ。

 今回走らせる札幌と釧路の間は300キロ近い距離で、東京と名古屋の直線距離およそ260キロを超えるのだ。

 まぁ、その距離を車で走るのはそりゃきついだろうなーと思ったり。 


「ちなみに、東日本帝国鉄道管内はどこを走らせる予定なの?」


「こっちは第三セクター支援も絡んで、大宮操車場跡地にターミナルを用意して、青森や八戸からと、直江津ですね」


 これらは運行先に第三セクター鉄道があり、こういう列車を走らせることで炭素排出権を得て、それを市場で売る事で運営資金の足しにしようと企んでいた。

 第三セクターはそれぐらいだが、莫大な運営コストで悲鳴をあげている北海道帝国鉄道は、バブルで破綻したリゾート地を捨て値で買って森林を再生し、そこからの炭素排出権を売る事で経営を安定化させる事という壮大な計画を夢見ていたり。


「お嬢様が先ごろ出られたイベントと基本は一緒です。

 儲かりはしないのですが、税金を投入する理由が必要な訳でして」


 狙いはバイクと軽自動車で、まだ高速工事が進んでいない北海道でこれを走らせる事でドライバーの負担を避けようというのが一つ、それをアピールしつつ排出権取引の手札にするという訳だ。


「EUの排出権取引市場が2005年に本格稼働するのに合わせて、日本もそれに連動する市場を創設する予定です。

 環境問題なだけに『よそはよそ』と言いづらいのが厄介なのですが」


 日本は非効率社会主義経済だった樺太があるのでその効率化を求められたのだが、石油ショックで元々省エネ化していた日本経済において二酸化炭素規制は『乾いたぞうきんを絞るようなもの』と揶揄されていた。

 その為、発展途上国を支援して省エネを促進して、それを日本の功績と認めてもらう為にもこの排出権取引は必要だったという背景がある。

 なお、この市場創設に国は乗り気ではなかったのだが、押し切ったのが実は桂華グループというか桂華金融ホールディングス次期CEOのアンジェラだったりする。


「ゲームに最初からプレイヤーとして絡まないと、欧州に良い様にカモられますよ」


 という訳でウォール街と組んで、東京市場を創設準備中。

 このシステムは破綻したゼネラル・エネルギー・オンラインの奴を流用したというのだから、彼らの先見性は評価すべきなのだろう。多分。

 なお、ウォール街のおひざ元の米国では環境問題にうるさいカリフォルニア州でこの市場開設に向けて準備が進んでいたり。

 世界中で二酸化炭素取引が行われるようになれば、地球温暖化も少しは涼しくなるだろう。

 北海道に来ているのというのに、初夏に入ろうとする北海道は既に暑かった。


「ちなみに、この炭素排出権ってどうやって決めるの?」


「色々細かいルールがあるのですが、そのルールに沿った国際機関を創設して、炭素排出権を認定する事になります。

 それを売買するにあたって、おそらく格付け機関が認定して取引を行う事になるでしょう。

 市場関係者の間では、いずれ発展途上国が債権として売り出すと予測されています」


 その債権の名前を私はぽつりとつぶやく。

 なるほど。ルールを作る連中のなんと美味しい事か。なんと傲慢な事か。


「炭素債……こんなのが本当に流通するのかしら?」


「購入する事で税金のペナルティーが避けられたり、優遇が受けれるのならば、広がるでしょうね」


 三木原社長の言葉を耳に流し、これ2008年に大爆発するんだろうなーと思いアンジェラにくぎを刺しておこうと心の中にメモしておいて、笑顔を張り付けながらセレモニーをやり切る事にした。

カートレインのWikipediaペタリ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%B3


軽自動車普及率


軽三・四輪車および全自動車保有台数の車種別推移

https://www.zenkeijikyo.or.jp/statistics/4own


 場所を取らず、維持費も安い、地方公共交通衰退に女性ドライバーが爆発的に増えた事もあって一人一台の立役者になる。



炭素排出権取引

 これにエンロンが絡んでいたのを知った時、本当あと二・三年資金が持てばこの会社巨人のまま生き残れたのにと思ったり。まぁリーマンは助からないと思うが。

 なお、日本での排出権取引の本格化は2023年からで……うん。なんだろうこの一周遅れ感は……

 この炭素排出権取引をネタにした小説『シャングリ・ラ』が連載されるのが2004年。2009年のアニメを見た時、色々違っていて驚いた覚えがある。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カートレインは規制が複雑すぎる点が敬遠された原因だった覚え。貨物輸送は他の方が指摘されてるように在来線のガラパゴス規格が足引っ張る。 いっそ、在来線の標準軌化と車両限界拡大で新幹線車両…
[良い点] カートレインは夢があって良いですねえ
[一言] 今回は、この作品の根本的な問題にもかかわりかねません。 「技術史は史実通りを前提、年月の知識を金に換える」が基本。 現実では没になった技術に金を出したり、投資で技術を十年早く実現させたりしよ…
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