帝都学習館学園七不思議　鵺武者フィードバック　その3

「結局、あの侍って何だった訳？」

　後日談になるが、そもそも何で侍が出てきたのかという謎があったので神奈水樹に調べてもらったのである。

　神奈水樹の調査の結果、出てきたのは都会と地方の関係だった。

「あくまで推測の段階なんだけど、多分地方のトラブルがこっちにやってきたっぽいのよ」

「地方！？」

　予想していないワードに私の声が一オクターブ上がると、神奈水樹が苦笑して続ける。

　彼女が持っていた探偵の報告書が私に来たので見ると、かなり大掛かりに調べていた事が分かった。

「基本はよくあるオカルト話なのよ。

　封印していた何かを取られて、出てきた何かがそれを取り返そうという話。

　その何かがこの東京にというか帝都学習館学園周辺に流れてきて、なまじ学園周囲の霊力が強かったものだから実体化した。

　問題なのは、実体化したはいいけど帝都学習館学園という舞台が違う場所で実体化したものだから、何を取り返すのかなんて鵺武者本人すら忘れてしまったって事」

　私が持っている報告書が分厚いのも、帝都学習館学園周辺の質屋や古物商に総当たりしてそれ系のアイテムを全部チェックしたからだったりする。

　これには澪ちゃんのパパも協力してもらったらしいが話がそれた。

「で、都会の情報過多が、鵺武者の形を作った。

　街特有の行き先表示が多すぎて迷子になったようなものよ。

　何かを探していた何か、多分その地方の侍だと思うんだけど、その何かを探すために徘徊した結果、多種多様な地方の人に見られて情報が盛られた結果、鵺武者になりましたとさ」

「つまり、本来ならばこのリストの中にある何かをその地方の霊地に返す事で解決する物語だったと？」

「そういうこと」

　鵺武者の発生時期から大体一か月ぐらいの、帝都学習館学園周辺の質屋や古物商に流れた歴史的物品は1080個。

　誰かがひっそりと裏ルートで入手したとしても、この仕掛けが発動して気味悪がって手放しただろうという推測からこの中にあるだろうとは神奈水樹の見立てである。

　その全てを神奈水樹や蛍ちゃんがチェックして怪しいものは由来を調べて返還する作業を行うのだが、その費用は全部私が出す事に。

　これら全て買い取っても費用は十億行かないという澪ちゃんのパパのお言葉で私がポケットマネーで即決したのだが、十億即決の上に安いと思ってしまう今の自分の経済感覚が怖い。

「じゃあ、無理して流したあのサメ映画って無駄だったの？」

「そうでもないわよ。

　あの時点で『鵺武者』という帝都学習館学園周辺を発生源とする怪異になっていた。

　鵺武者が害をなす前にそれを無害化する為に『サムライサメ亡霊』に概念を変更させる必要があったという訳」

　なお、無害化の物語は本来ならば先に話した1080個の歴史的物品の中からそれを見つけて、その地方の物語を調べて返還する事で、『めでたしめでたし』となる物語である。

　それだと時間がかかるし、鵺武者を人を害する方向に持っていこうとした何かがいる以上、早急な対処が必要だった訳で。

　橘由香の一言がなければ、この解決方法は生まれなかったのである。

「侍が刀を持って襲ってくるって、お嬢様が出られた映画みたいじゃないですか」

「それだぁぁぁぁぁぁぁぁ！！！！！」

　神奈水樹の叫びに橘由香が驚いた顔が私的に面白かったのだが言える訳もなく。

　たまたま深夜枠を自由に使えるテレビ局があり、そのテレビ局で荒唐無稽なサメ映画を流す湾岸カーレースという表向きのカバーストーリーがあったからこそ『サムライサメ亡霊VS水着公爵令嬢』の緊急放送ができたのである。

　まさかあのサメ映画が巡り巡って対オカルト兵器になろうなんてと呆れるやら感慨深いやら。

「妖怪というか幽霊というか、オカルト的な何かは情報生命体の側面を持つわ。

　人が持つ物語がないとその存在を維持できないの。

　そして、その人が持つ多種多様な認識が鵺武者の根幹なら、TVという強力な情報媒体がその多種多様な認識を一つに染め上げてしまえばいい。

　かくして、鵺武者はサムライサメ亡霊にクラスチェンジしましたとさ」

「……絶対クラスチェンジ失敗だと思うわ。

　転職しなきゃいいけど……」

　なお、これによってこのサムライサメ亡霊は『水着の娘を襲う』『刀を持ったセーラー服の娘に退治される』という概念を植え付けられて無害化された。

　なお、夜のプールに忍び込んで泳ぐ馬鹿だとこれに該当するので、遠慮なく餌枠にというのも後味が悪いので監視カメラをつけてうちの警備員（女子警備員がセーラー服を着て日本刀持参）が急行する態勢を作っている。

　その際につけた謎看板『忍び込んで泳ぐなら水着をつけないで裸かセーラー服で泳ぐ事』がアダルトビデオ撮影に流用されて一悶着あったりするのだが、こんな背景がある事もあって怒るに怒れずに一ジャンルとして定着する事に。

　これによって、サムライサメ亡霊はただの変態として定着して無害化が完成する事になる。