帝都学習館学園七不思議 鵺武者フィードバック その2
感想を見て綺麗に忘れていた作者
悔しいがこっちの方が優れていたので採用
帝都学習館学園中央図書館は館長である高宮晴香の城である。
だからこそ、この城の主である高宮晴香はこの城の中は何でも知っていた。
それが、人の理を超えた何かであってすらも。
そんなことはおくびにも出さず、いつものように彼女は笑う。
彼女の笑顔がどれだけ魅力的であろうとも、それも彼女が作り上げた物語に過ぎず、物語と共に生きた彼女はもう物語を外すという事ができない。
だから彼女は自然と物語を紡ぐ。
「がんばりなさい。
このままだと、正体が分からない鵺武者になっちゃうわよ」
だからこそ、彼女はこうやって笑えるのだ。
それはまるで、舞台の上で演じる名脇役の様に。
主役ではない。脇役でいい。
脇役だからこそ、最高の立場で物語を味わえるのだから。
戦後日本文壇のサロンの中心に居座った物語狂いの笑顔は優しそうで親切だからこそ、多くの人は騙される。
そして、そんな彼女の言葉に。
「はい! ありがとうございます!!」
そう言って野月美咲と名乗った少女は彼女の主人である桂華院瑠奈や神奈水樹の方に駆けて戻ってゆく。
それを見ながら、晴香はまた微笑む。
(ああ、本当に可愛い。どんな物語が紡がれているのかしら?)
この図書館の魔女の本心を知る者は本人しかいない。
何かが出たのは察していた。
何しろ帝都学習館学園中央図書館は、初等部・中等部・高等部、大学のそれぞれが使いやすいように学園中央に設置されていたのだから。
そして、開法院老と対立した彼女には、この学園に仕掛けられた何かを知るコネも知識も十二分過ぎるほどに備わっていた。
「開法院老も老いましたな。
この人を敵に回すなんて」
情報提供した警視庁の地下に巣食う華族の警視が苦笑しながら全てをバラすと、その仕掛けと仕掛けを潰した桂華院瑠奈と神奈水樹の動きを把握。
そこまで知れば、彼女にはたやすい仕事だった。
彼女は願う。物語に完結を。
彼女は動く。物語に救いを。
彼女は望む。その物語が読める事を。
「あの人は、私が知る限り最高のストーリーテラーでしたよ」
そんな評価を情報提供者からされたなんて知らない彼女は、彼女たちの知らぬ間に湧いた何かに物語を与え、口コミで噂を誘導して無害化するだけでなく、帝都学習館学園上層部や情報提供者の警視に働きかけて帝都学習館学園の人の動きを意図的に変えて被害が出ないようにする。
彼女が動かなければ、もっと怖くて恐ろしい何かが生まれていたのだろう。
何かが綺麗かつ効果的に妨害し続ける高宮晴香に目をつけるのは必然だった。
それを高宮晴香が知っているとも知らずに。
(ねぇ。どうして私の邪魔をするの?)
その声は図書館の書架の向こうから聞こえた。
この書庫には高宮晴香の他には誰も居ない。
それを知った上で、高宮晴香は口を開いた。
「あら?
生徒を助けるのは先生の務めでしょう?
ルサールカさん」
(なーんだ。私ってルサールカだったんだ)
楽しそうにルサールカと名付けられた何かが微笑んだ気がした。
この何かを桂華院瑠奈と神奈水樹はメフィストフェレスと呼んでいる事を高宮晴香は知らないが、この名づけでこの何かが悪魔から精霊というか幽霊というかに概念が塗り替えられた事を桂華院瑠奈と神奈水樹も知らない。
(ねぇ。あなたはやり直したいと思ったことはない?
あの時、ああすれば……そんな過去を変えられると言ったら、どうする?)
「いくらでもあるわよ。
ああすればよかった。こうすればよかったって後悔ばかり」
高宮晴香の顔も書架があるからルサールカからは見えない。
けど、その声は楽しそうでかつ揺るぎのない声だった。
「けど知ってる?
やり直して、もっと悪くなる事があるって?」
(え?)
ルサールカの声が揺らぐ。
まるで、バーバ・ヤーガに出会った乙女のように。
「やり直して、もっと悪くなりました。
そして、その時にルサールカ。貴方はいないからもう二度とやり直せない」
多くの昔話は教訓話でもある。
『めでたしめでたし』で終わらない物語は、えてして主人公たちが禁忌に触れて破滅する事になっている。
それを高宮晴香が知らぬわけがなかった。
そして、誘いを拒否する事でルサールカがどう動くのか知らない訳がなく、彼女が本棚の向こうから動こうとするその刹那の間に言葉という魔法を紡ぐ。
「あ。それと、貴方の企み、私ではなく桂華院さんが完全に破綻させるわよ。今夜」
(嘘だ!!!
あの女にそんな力は無い!!!!!)
ルサールカの叫びに高宮晴香はにべもない。
正直、彼女も桂華院瑠奈がこんな形であの鵺武者の概念を変えるとは思っていなかったのである。
高宮晴香は楽しそうに笑い、賭けという形でルサールカに呪いをかける。
「じゃあ、賭けましょうか?
今夜を過ぎたら、まず最初にあの鵺武者で私を襲わせなさい。
それができるのならね」
(言ったわね?
私みたいなものに契約を持ち掛ける事が分かって言っているのかしら?
けど、言葉は交わされた。
明日以降の残り少ない貴方の生をせいぜい楽しむ事ね!)
いなくなった気配を確認して、高宮晴香はルサールカの居た書架の方に足を向ける。
あたりはつけていた。
彼女が出てきたとするならば、この本だろうというあたりは。
やってきたのも、寄贈された鏡台に入っていたとかで捨てられる所を本だからと彼女が呼ばれて引き取ったものだ。
「『ブィリーナ』。
ロシアに伝わる口承叙事詩で、古ロシア語で書かれているかなり古い写本……でしょうね。
原本だったら大発見だけど。
さて、あのルサールカはどの物語から出てきたのかしら?」
彼女の帰り際に、入り口ロビーに置かれていたテレビからその仕掛けが呪文のように流れる。
仕掛けから男子が多く釘付けになっているのは御愛嬌だろう。
『富嶽テレビ深夜ロードショー。緊急特番!
湾岸カーレースグラビアクィーン桂華院瑠奈公爵令嬢主演作品!!
「サムライサメ亡霊VS水着公爵令嬢」緊急放送!!!
湾岸カーレースイメージPVと共に付属イメージビデオも放送……』
案の定。
翌日になってもルサールカと鵺武者……じゃなかったサムライサメ亡霊は襲ってこなかった。
『文豪ストレイドッグス』で出て来るような連中の宴の中でひたすら物語を食いまくっていたら、そりゃ人から外れるよな。
昭和文壇は思想や政治も絡む魔窟だから、ここに居続けたこの人が化け物じゃない訳ないじゃないかという簡単なお話。
ルサールカ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AB#:~:text=(%E6%B3%A2%3A%20Rusa%C5%82ka%E3%80%81%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%AB%E3%80%81,%E3%83%AB%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%AB%20%E3%81%A8%E3%82%82%E8%A1%A8%E8%A8%98%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82
バーバ・ヤーガ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%82%AC#:~:text=%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%82%AC%EF%BC%88%D0%91%D0%B0%CC%81%D0%B1%D0%B0%2D%D0%AF%D0%B3%D0%B0%CC%81,%E5%B0%8F%E5%B1%8B%EF%BC%89%E3%80%8D%E3%81%A7%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82




