帝都学習館学園七不思議 鵺武者フィードバック その1
オカルト話は『モノノ怪』と『虚構推理』の影響を多大に受けている
中央図書館高宮晴香館長命名の鵺武者だが、名前が与えられたからと言ってじゃあ封じますかといかないのがオカルトの厄介な所。
神奈水樹に言わせるとこんな感じである。
「この料理がカレーだとしましょう。
私たちが対処するには、このカレーの材料とレシピを知る必要があって、その上でこの料理が『カレー』だと認識する必要があるの。
なお、あくまで『カレー』と名付けただけで、これが『肉じゃが』の可能性もあるって訳」
面倒な事この上ない。
その上で神奈水樹の顔は苦々しいままだ。
「何か心配でも?」
「この件が、桂華院さんを取り巻く一連の事件だという事は私は疑っていない。
それでも、こいつは今までの仕掛けと違って少しおかしいのよ」
「おかしい?」
私も真顔になると、神奈水樹は少し視線をそらす。
彼女も断定するだけの説得力がないのだろう。
「桂華院さんを狙うならば、武者にする必要がないのよ」
神奈水樹の視線が私の金髪に行く。
まぁ、こういう時に1/4しか日本人でないというのは困るというべきか。
私が気づいたのを確認して神奈水樹が続ける。
「メフィストフェレスが桂華院さんを狙うならば、もっと手っ取り早いロマノフ家という物語を使うわよ。
この間封じた鏡なんて、ラスプーチンなんて大物が出たまさにロマノフの物語よ。
それでも、この何かは鵺武者として世に出た。
どうしてかしら?」
神奈水樹の視線が険しい。
調べれば調べるほど、都合の良い違和感が出るからだろう。
「たとえば、こいつが桂華院さん以外を狙うのならば、武者になる必要が無かったのよ。
ガシャガシャと音を立てて近づいてくるのは怖いけど、その動きは鈍いから今の所は驚いただけの被害しかない」
神奈水樹が読んでいた本を私に渡す。
見ると辻斬りの妖怪が書かれており、そんなのまで居るのだからそりゃこの国は神様が八百万もいる訳だと納得するしかない。
「『辻切り』つまり、十字路で切る事で悪いものが入ってこないようにする行事と、『辻斬り』こっちは時代劇でも有名な人斬りよね。
同じ発音で意味が違うのを利用して、辻斬りの妖怪を生み出そうとしたって所かしら」
「……邪魔したのは蛍ちゃん?」
「勘だけど違うと思う。
開法院さんのあの顔って『水出しっぱなしだった』とかの顔だったでしょ?」
「あー。それで鵺武者が出たって事は、戻ってみたら床が濡れて大惨事……とも違うわね。
水を止めてみたら、その水がオレンジジュースだった系」
「桂華院さん。なにそれ?」
「小粋な愛媛県ジョーク」
もちろん、ジョークの出どころは明日香ちゃんだったりする。
閑話休題。
「話を戻しましょう。
とりあえず、鵺武者という名前を与えられたあの徘徊武者だけど、ここからはメフィストフェレス相手に概念の奪い合いになるの」
「概念の奪い合い?」
おうむ返しで返事をする私に神奈水樹がため息をつく。
こんなのを相手に彼女と彼女の一門はずっとしてきたのだろう。
だからといって、夜のあれまで肯定はしないが。
「何はともあれ徘徊武者ができた以上、それを使ってメフィストフェレスは桂華院さんを害そうとする。ここまではいい?」
私が無言で頷いたのを確認して神奈水樹が続ける。
彼女の視線は私ではなく、どこかに居るメフィストフェレスに向けられていた。
「で、こいつで桂華院さんを襲う場合、この鵺武者に『祟り』とかの概念を入れる必要があるのよ。
昔の映画であったでしょう?
『祟りじゃー!』って奴」
ああ。あの映画は見た事があったな。
アンジェラがああいうの大好きだったし。
明らかに作り物って分かるのに、何であの頃の映画はあんなに怖かったのか……いかん。話がそれた。
「けど、あれは人間の犯人が居たじゃない?」
「やっている事は、これも同じよ。
犯人が人間でないってだけで」
悪魔相手にゲームをするって時点で無理ゲーと思うのだが、神奈水樹の顔は面倒ではあるがあきらめていない顔だった。
「向こうは手を変え品を変えてこの鵺武者の概念を変えて怖いものにしようとする。
私たちは同じように手を変え品を変えて、この鵺武者を無害にしなければならないの」
「ちなみに、これ蛍ちゃんだったらどう対処していた?」
私の質問に神奈水樹は即答する。
もしかして、先に蛍ちゃんから聞いていたのしれない。
「これ、要するに辻での出来事なのよ。
似たような事、既に七不思議で起こっていたでしょう?」
あー。あったな。
最初の鏡台って……そこに繋がるのか。
神奈水樹が警戒する訳だ。
たしか、あの時に蛍ちゃんが言った言葉を私は口に出した。
「辻願い」
そうだ。
あれは、栗森志津香さんが自ら噂を流す事で……なるほど。
「あの時と同じことをすればいい訳ね?」
鵺武者を更に無害にするような噂を流す。
それに対して、メフィストフェレスは害になるような怪異を起こして鵺武者に結び付ける。
これはそういうゲームである。
「全員に再度事情を聴くふりをして鵺武者の情報を書き換えるんですね?
わかりました。それとなく手配をしておきます」
ずっと私の後ろで控えていた橘由香が口を開く。
なお、基本ハブられるから機嫌の悪さが顔に残っていたり。
「無害化する物語はこっちで用意するわ……どうしたの?」
親しい仲でもないのに何かを察した神奈水樹に橘由香が意を決して口を開いた。
それは、新しい手掛かりかつ、決定的な情報だった。
「はい。
あの鏡台について更に探偵を使って調べたのですが、どうも鏡台だけでなくその中身も一緒に流れたらしいのです。
装飾品とかはこちらに来る過程で流れたのですが、鏡台と一緒にその持ち主の本がこちらに来たらしく……」
「え?私、そんなの見なかったわよ??」
「はい。こちらに来た際に事務の人が本を見つけ、鏡台以外の処理は任されたとかで、中央図書館の高宮館長に来てもらって本の処理をお願いしたそうなんですよ」
辻切り
ttps://funabashi.keizai.biz/headline/1061/
小粋な愛媛ジョーク
結構歴史が古いうえに、県のサイトである。
https://www.pref.ehime.jp/h35500/kankitsu/juice.html
祟りじゃー!
『八つ墓村』




