帝都学習館学園七不思議 徘徊武者フィードバック その2
ロールケーキに釣られた蛍ちゃんの説明をまとめると、思ったよりロジックは私たちに分かりやすいものだった。
「座敷わらしを生み出す何かの力があるとして、それをあの神社がゆっくりと浄化していた。
とはいえ、その何かの力は溜められたダムの水よろしく膨大で、その使い道がなかった力におそらく何かがひっかかった……ね」
で、私と神奈水樹と蛍ちゃんと橘由香の四人でやってきたのは帝都学習館学園の中央図書館である。
お付きの側近団は護衛以外は学園内に散って徘徊武者の聞き込みをしており、私たちはまずは武者が着ている鎧を調べて年代を確定させるべく、鎧がらみの資料を漁っていた。
「こうやって調べてみると、武士も色々面白いのよね。
私たちが知っているだろう武士がある程度権力を握っていた時代の武士に対して、武士の発生時点あたりには妖怪退治なんてのもやっているし」
たとえば、源平合戦で戦死した源頼政は鵺退治というものをやっていたりする。
鵺という妖怪は猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇というまぁよく分からない妖怪で、その退治で彼は出世の糸口をつかんだとかなんとか。
「源平合戦期は、このあたりの人と妖の境界が分かれる最後のひと時という見方もできるのよ。
源義経が鞍馬天狗に育てられたのは有名な話だし、木曽義仲の配下にも妖怪退治の逸話があったりするわ。
何しろ、このあたりまでは人が神というか妖になる最後の時期でもあるしね」
そんな神奈水樹の見ているページには『日本一の大天狗』こと後白河上皇の御姿が。
保元の乱は後の大天狗だけでなく強大な祟り神を生み出したという視点もあるとの神奈水樹の説明に、歴史の違った見方を知った私は素直に「へー」と頷くのみ。
「で、ここから先は文字通り神様というか妖の領域よ。
有名なのが太宰府天満宮にて今は学問の神様になっている菅原道真公よね」
このあたりの昔話を探れば出るわ出るわの妖怪というか祟り神のオンパレード。
それを退治していた武士たちも必然的に神というか妖の側に近づいてゆく。
有名なのは、俵藤太こと藤原秀郷や源頼光など。
この時期の妖怪退治は大体このあたりに行きつく。
「さらに時代が下がると、宗教になってくるのよ。
仏教伝来。つまり新しい神様と古い神様の戦いで、仏教を始めとした新しい神様が古い神様たちを妖に追いやってゆく。
権力闘争における敗者の恨みを勝者は祀る事で封じようとした訳」
この国はそうやって八百万の神々を生み出し続けた。
神奈水樹の説明を聞きながら資料を漁っていたら、聞き込みをしていた野月美咲がノートをもってやって来る。
「聞き込みしてきましたよー」
ノートには聞き込みで記された武者の特徴が。
絵心がある彼女は私の見るアニメのせいかしらないが、おたく活動をエンジョイしていたりする。
「とりあえず、見たと言う15人に聞きこんで、あつめた情報がこれです」
伝聞情報だからこそ、絵にする事で私たちにその徘徊武者の姿がある程度見えて来る。
問題は、それに対する知識が圧倒的に私たちには足りていないという事だ。
「で、これでどの時代が探る訳だけど、分かる?」
「無理ね」
「お嬢様。知識のない私をお許しください」
(……)
揃いも揃って私たち四人同時にため息をつく。
こうなると知識を持つ人間に話を振るしかないだろう。
「誰か分かりそうな人居る?」
私の質問に神奈水樹が口を開く。
顔がいつもと違って自信なさげなのが案の曖昧さを物語っていた。
「この間協力を仰いだ天音澪さんのお父様に聞くというのが一つ。
あの人は専門家ではないでしょうけど、専門家への伝手はあると思うわ」
必然的に澪ちゃんに話が行って私がまた怒られるぐらいがデメリットだろうか。
また頼むかと私が内心考えていると野月美咲がおずおずと手を上げる。
「ここの図書館長に聞いてみるというのはどうでしょうか?
何でも知っているという噂らしいですし」
さすがにここの図書館長である高宮晴香先生といえども、こんな徘徊武者の事は知らないだろうに。
とはいえ、すぐできる上に手がない私たちはその野月美咲の提案に乗る事にした。
「すいません。
こういう鎧の絵か写真を探しているんですけど?」
こういう時に尋ねる人間のセンスが分かる。
背景を知らせないように、かつこちらの欲しい情報を引き出せる感じの話し方で野月美咲がノートを見せて尋ねると、高宮館長は私たちをちらりと見てこう言ったのである。
「これ、時代考証めちゃくちゃね。
鎧は当世具足ぽいけど、兜じゃなくて烏帽子だし、総面じゃなくて、狂言面かしら?
矢筒があるのに弓を持っていないし、刀?いいえこれ太刀ね……」
え?そこまで分かるの???
私たちはドン引きなのに、野月美咲は笑顔のままでカバーストーリーをでっち上げる。
「いやーお恥ずかしい。
趣味で物語を作っているのですが、それでこういう武者が出る話を書いていまして。
もっとリアリティーを出すためにお嬢様たちに協力をお願いして、こうして資料を探していたんですよ」
「あら。同人誌ね。
懐かしいなぁ。
がんばりなさい。できたら一冊私に頂戴ね」
「あはははは……精進させていただきます」
最適解である愛想笑いの沈黙を貫く私たちを見て高宮館長は、多分知らずにこの武者の正体を見抜く。
かくして、この徘徊武者に『名前』が与えられたのである。
「がんばりなさい。
このままだと、正体が分からない鵺武者になっちゃうわよ」
と。
FGOをやっててふと納得したのだが、源頼光あたりが対妖というか対魔に対して岡田以蔵とかが対人という時代変遷に面白いなーと思ったのがネタのきっかけだったりする。
アルクェイドがやって来たのでFGO復帰しました。
日本三大怨霊
扱いが怖いのでwikiだけ張らせてもらおう
ttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%B8%89%E5%A4%A7%E6%80%A8%E9%9C%8A
武者が出るお話
『遙かなる時空の中で』
2000年にKOEIから出ていた。『アンジェリーク』に続くネオ・ロマンスゲームである。
同人誌
私たちは薄い本だが、高宮先生はガチ文壇の本。
なお、これは90年代に私が食らった実体験の質問である。




